2人の休日1
ミリーナが資格試験、アンディ達が仕事、そして、マークスが治療のために不在となり、挙げ句にフブキもベルベットのブラックローズⅡとの戦いで損傷した箇所の修理に出ているため、ドックにはシンノスケとセイラの2人が残されてしまった。
挙げ句にフブキがサイコウジ・インダストリーの修理ドック入りしたということは、2人の居室もフブキごとドック入りしたため、シンノスケとセイラはドック内にある事務所にしか居場所が無い。
事務所にはシャワー等が備わっており、簡易ベッドもあるのでフブキの修理に掛かる数日程度ならシンノスケは問題ないが、流石にセイラも一緒というわけにはいかないため、セイラは近隣にあるホテルに滞在している。
そうはいってもセイラがホテルに戻るのは夜間のみで昼間は商会のドックに来て航行管制の勉強をしたり、好きに過ごしていた。
「ホテルに1人でいても落ち着きません」
セイラに言わせると、こういうことらしい。
シンノスケ自身もすることがないので本を読んだり、トレーニングや散歩したりして時間を潰していたそんな休日の3日目の朝。
「あの、シンノスケさん。お出かけに付き合ってもらえませんか?」
普段は制服姿のセイラが珍しく私服で来たと思ったら急なお誘いだ。
華やかさに欠ける大人しいイメージだが、年頃の女の子らしい装いを見れば如何に朴念仁のシンノスケといえ、セイラの誘いがデートかそれに類するものであることは分かる。
セイラとシンノスケでは10歳以上も歳が離れているが、デートに付き合う程度ならば問題ない。
デートならば既にリナとのデートで履修済だ。
「了解。お供させてもらおうかな」
大人の男の余裕を見せた(つもり)のシンノスケはセイラの希望を叶えてあげることにした。
舞台鑑賞でも、コンサートでも、ショッピングだって問題ない。
ちょっとお高い洒落た店で食事をご馳走したって安いもの(シンノスケは洒落た店なんか知らないが)。
これもクルーの福利厚生の1つだ。
シンノスケが了承するとセイラの表情がパッと明るくなった。
「ありがとうございます。じゃあ早速行きましょう」
大人しいセイラにしては積極的にシンノスケの手を取って歩き出す。
因みに私服のセイラに対してシンノスケは普段の艦長服のままだが、他に気の利いた私服を持っていないし、シンノスケは普段から艦長服を着ている(エミリアがデザインした艦長服は端正でありながら着ていて楽なのが主な要因)ので仕方ない。
早速街に繰り出した2人だが、シンノスケ自身は女性が喜ぶようなデートスポットなど知るはずもなく、セイラに手を引かれるまま街を歩くこと約20分。
シンノスケが連れてこられたのは予想の斜め上をゆく意外な場所だった。
「セラ、目的地はここで間違いないのか?」
「はい。欲しいものがあるんです」
買い物が目的ならば販売店に来るのは当然だ。
しかし、セイラがシンノスケを連れてきたのは確かに販売店ではあるのだが、まさかの銃器販売店だった。
「この店であっているのか?・・・本当に?」
「はい。私、拳銃が欲しいんです」
シンノスケはセイラが何を言っているのか理解出来ない。
大人しいセイラと武器である拳銃がどうしても結びつかないのだ。
確かに、船乗りが銃器で武装することは珍しくない。
シンノスケはペリルS27ブラスターとラグザVX67火薬式拳銃の2丁を携帯しているし、マークスやアンディもブラスターを持ち歩いている。
ミリーナは銃ではないが、超高速で振動しあらゆる物を斬り裂くサーベルを常に腰に差しており、貴族の嗜みとして剣技に長けているし、銃器も扱えるので並の男より余程強い。
一方で白兵戦の能力など全く無いセイラとエレンはブラスター等の殺傷武器は持っていないが、シンノスケの指示で護身用に小型のECガンを持っている。
ECガンは強力な電撃により一時的に対象を行動不能にするもので、生身の人間だけでなく、ドールにも効果がある非殺傷武器だ。
そんなセイラが拳銃を欲しがるというのは意外を通り越してなにかの間違いではないかと思ってしまう。
それに、仮に護身用に拳銃が欲しいというならばわざわざ買う必要もない。
「セラ、銃が必要ならフブキの倉庫に扱いやすいブラスターがあるぞ?」
フブキの倉庫にはシンノスケやマークスのように白兵戦を前提として持つ強力なブラスターではなく、小型で扱いやすいブラスターが保管してある。
威力は弱いが、護身用としては十分だし、銃器の扱いになれていないセイラでも問題ない筈だ。
「いえ、私が欲しいのはブラスターではなく、シンノスケさんが持っているような火薬式拳銃なんです」
「えっ?」
セイラの言葉を聞いたシンノスケは完全に固まった。




