アンディの反抗
ドックに戻ったシンノスケは改めて皆にマデリアを紹介した。
「今日から我々の正式な仲間になったマデリアだ。マークス同様に人権申請をしているので、正規クルーとして働いてもらう。因みに俺のことを『ご主人様』と呼ぶのはそういう仕様なので誤解のないように」
マデリアがシンノスケを『ご主人様』と呼ぶ度にセイラとミリーナが『ピキッ!』っとし、アンディが『ドキュん』とするので誤解が生じないように説明をしておく。
シンノスケの紹介に続いてカーテシーを披露するマデリア。
「マデリアでございます。艦船運用から生活雑事まで、なんなりとお申し付けください」
無表情ではあるが、その所作は極めて洗練されており、そのメイド服姿も相まって非常にサマになっている。
側頭部のセンサーユニットと頭部のウサ耳型?強化ユニットが無ければ人と見間違えてしまう程だ。
シンノスケが説明を続ける。
「マデリアにはツキカゲの乗組員として働いて・・」
「っしゃあっ!!」
突然シンノスケの言葉を遮って雄叫びをあげたのはツキカゲ艦長のアンディだ。
何事かとアンディを見てみればガッツポーズをしながら天を(正確にはドック内の事務所の天井)仰いでいる。
「アンディ、どうした?」
驚いたシンノスケの声に我に返るアンディ。
「あっ、す、すみません。ツキカゲにもクルーが増えるとなればエレンの負担も減りますので、それが嬉しくて、つい・・・」
優秀なドールが艦のクルーになることが嬉しいことは分かるが、その喜びようは尋常ではない。
しかも、負担が減る筈のエレンはそんなアンディの姿をジトッとした目で見ている。
「まあいい、今後は基本的にマデリアにはツキカゲのオペレーターを頼むことになるから、アンディ頼むぞ」
「はいっ!お任せください!」
直立してシンノスケに敬礼するアンディ。
シンノスケは頷くと改めてマデリアを見た。
「さて、マデリアもその服装のままというわけにはいかないな・・・」
「・・・えっ?なんですと!」
シンノスケの言葉にアンディは驚きの表情を浮かべる。
「いや、この服装は護衛艦乗務に向いていないだろう。制服の方がいいからマデリアには・・・」
「何を言っているんですかっ!シンノスケさんっ!」
「どうしたアンディ!」
「シンノスケさん!メイド服ですよ!しかもウサ耳の!それを、それをっ・・・」
「何を言っているんだ?」
驚愕の表情でシンノスケに食って掛かるアンディ。
「シンノスケさん!メイドさんですよ!メイドールさんですよ!分からないんですか?全人類の宝、財産ですよ。そのメイド服を無き物にするなんて!これは罪以外の何物でもありません!」
「おい、アンディ。たかがメイド服だろう?」
「たかが?たかがメイド服と言いましたか?シンノスケさん、貴方は今、銀河中の全男の78パーセントを敵に回したのですよ!」
血の涙を流さんばかりの勢いのアンディに気圧されるシンノスケ。
「おいアンディ?エレン、アンディはどうしちゃったんだ?」
エレンに助けを求めるシンノスケだが、エレンは肩を竦めて首を振る。
「シンノスケさん、無駄ですよ。アンディはこういうのが大好物なんです」
「大好物?なんだそれは?」
「ツキカゲのアンディの部屋はマデリアさんみたいなキャラクターグッズで一杯ですよ。流石にブリッジには持ち込んでいませんけどね」
呆れ顔のエレン。
「おい、アンディ。お前の趣味は否定しないが、それと仕事は別だぞ?」
「お言葉ですがシンノスケさん!エプロンドレスは働く女性の戦闘服ですよ?仕事に支障が出ようはずがありません!」
「そんなわけがあるか!」
「なぜ分からないんですか兄貴ぃっ!」
「誰が兄貴だ!」
アンディは凄まじい剣幕で一步も引こうとしない。
「おい、エレン。こんなんでいいのか?」
「構いませんよ。アンディは昔からこうですし。私に不利益はありませんから。私にメイド服を着せようとしないだけマシです」
どうやらエレンはアンディの趣味について諦めの境地に達しているようだ。
「兄貴、どうして分かってくれないんですか!男のロマンですよ!それでも男ですか兄貴!」
「だから、誰が兄貴だ!男のロマンだ!」
シンノスケとアンディのやり取りを観察していたマデリアが2人の間に割って入り、シンノスケを見上げる。
「ご主人様。私はこの服装のままでも特に問題はありません。ご主人様のご命令でないならば、このままでも構いません。むしろ、この服装のままの方が都合がいい点があります」
そう言うとマデリアはおもむろにスカートを捲り上げる。
「「!!」」
シンノスケとアンディの息が止まった。
マデリアのスカートの下、白い太股にコンバットナイフが括り付けられている。
マークスの頭部と片腕を斬り飛ばし、シンノスケに重傷を負わせたものだ。
更に袖口には数本の投げナイフ、腰のベルトの内側には使用目的を想像したくない細い金属製の糸が隠されている。
「す、素晴らしい!まさにメイドさんの理想形だ、究極のメイドールさんだ。シンノスケさん、これでも彼女のメイド服を脱がせようというのですか?」
シンノスケに縋り付くアンディにシンノスケが折れた。
「服を脱がせようなんて人聞きの悪い!・・・ハァ、分かったよ。一応、マデリアにも制服を支給するが、ツキカゲの艦長はアンディだ。艦長の裁量で好きにしろ」
「っしゃあっ!!ありがとうございます。兄貴なら理解してくれると信じていました!」
「・・・理解はしていないがな」
アンディは感涙に咽びながらマデリアを見た。
「マデリアさん、よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします。アンディさん」
「えっ?アンディさん?・・・ご主人様は?」
「私のオーナーはシンノスケ様ですので、ご主人様とお呼びするのもシンノスケ様だけです。アンディさん」
「・・・そんな・・・のぉぉっ!そんなぁぁぁっ!」
アンディは膝から崩れ落ちた。




