マデリアを連れて帰還
ドールM-02マデリアを仲間に加えたシンノスケはサリウス恒星州への帰途についた。
せっかくなのでマデリアを総合オペレーター席に着かせてフブキの運行管理をさせてみるが、流石は高性能ドールだ。
何の問題もなくフブキの航行管制を行っており、シンノスケもストレス無く操縦に専念出来る。
しかし、そんなマデリアを見るシンノスケは憮然とした表情だ。
「マスター、彼女に何か懸念がありますか?」
傍らに立つマークスの問いにも表情を変えることはない。
「懸念というものではないが、なにか釈然としない気持ちが・・・」
そんなシンノスケとマークスの会話が聞こえたのか、マデリアが振り返る。
「ご主人様、私に何かお気に召さない点がおありでしょうか?改善すべき点があればお申し付けください」
そう聞かれてもマデリアには何の不備もない。
シンノスケが気になっているのはマデリアのオプション装備だ。
シンノスケがマデリアを仕留めた時、シンノスケはマデリアの側頭部にあるセンサーユニットを拳銃で破壊している。
本来であればドールの弱点でもあるセンサーユニットは頑丈なカバーで守られているのだが、マデリアにはそのカバーが取り付けられていなかったため、シンノスケの拳銃でも破壊することが出来たのだが、やはり護衛艦のクルーとして運用する以上はカバーを装備しないわけにはいかない。
そこで今回、マデリアの修理をするに当たり、シンノスケはコサート社の担当者にセンサーユニットのカバーを注文したのだが、その際に担当者から通常のカバーの他にユニットのカバーも兼ねたセンサー強化オプションユニットを勧められたのである。
機能的には優秀なものであり、値段も手頃だったので通常のカバーとセンサー強化オプション付のカバーユニットの両方を注文してみたのだが、そのオプションが気になって仕方がない。
航行管制を任されたマデリアは総合オペレーター席に着くなりセンサー強化ユニットを装着したのだが、問題なのはその形状だ。
それは例えるならばヘッドホンの様な構造で、側頭部のユニットをカバーしているのだが、ユニットには追加のアンテナが2本装備されている。
そのアンテナというのが、どこからどう見てもメカニカルなウサギの耳にしか見えないのだ。
「マデリア、そのセンサー強化ユニットの形状に何か特別な意味があるのか?」
思いきって聞いてみる。
「このユニットの形状はコサート社所属のデザイナーによるもので、一部顧客からは非常に好評のようです。私達ドールとしては機能的に優秀なユニットなので何の問題もありません」
無感情に答えるマデリア。
見た目はともかく、優秀な装備でマデリアもそれを認めているならばシンノスケとしては何も言うことはない。
ただ、メイド属性もウサ耳属性も無いシンノスケにとってはどうにもしっくりこないのだった。
「そのユニットはマークスにも互換性があるのか?」
「サイコウジ・インダストリー製のドールならば互換性を有しております。ただ、ヘッドセットのサイズ調整が必要となります」
「そうか・・・」
シンノスケは想像しようとするが、マークスに先手を打たれる。
「マスター、私があのユニットを装着している姿を見たいですか?」
「・・・いや、見たくはないな」
シンノスケは想像することを止めた。
マークスのウサ耳装備は絵面的に恐すぎる。
マークスがこのセンサー強化ユニットを装備することは永遠に無いだろう。
そしてもう1つ気になるのがマデリアの感情設定だ。
話していて気がついたのだが、マデリアは感情の起伏が皆無で、表情を変えること無く、その口調もどこか機械的で冷たい印象を受ける。
無論ドールなのだから感情といっても情報処理機能により導き出され、それが表現されているだけだが、それでも大半のドール、特に生体組織外装が施された汎用型ドールは人とのコミュニケーションや自らの役割を果たすために感情や表情を表すことが多い。
しかし、マデリアにはそれが見られないのだ。
「私達ドールの感情機能等は顧客の要望を受けて最初期に設定されます。これは人でいうところの『生まれながらの性格』に近いもので、稼動中に学習することにより若干の修正は可能ですが、根本の性格は変えることはできません。それをお望みならば私自身、個体名を含めて再初期化する必要があります」
マデリアの説明を聞いたシンノスケは呆れ顔を浮かべた。
「マデリアは旅客運送会社で運用されていたと聞いたが、随分と偏ったニーズに対応していたらしいな」
とはいえ、マデリアの機能自体に問題無いならば、マデリアの性格を否定してまでいちいち初期化する必要性は認めない。
ご主人様呼ばわりやウサ耳オプションにクール過ぎる性格も、シンノスケは『そういうものだ』と受け入れる努力をすることにした。
そこでシンノスケはふと思いつく。
「しかし、ドールにも生まれながらの性格があるのなら、マークスの性格の悪さも生まれながらのものなのか?」
シンノスケの問いにマークスは首を振る。
「私は軍用ドールなので感情機能そのものが必要なく、そのような初期設定もありません。現在の私の性格や言動は全てマスターと行動を共にするようになってから学習した賜物です」
「性格が悪いことは否定しないのか?」
「私の性格は全てマスターの影響によるものです」
「・・・マークス、そういうところだぞ」
悪びれることなく語るマークスにシンノスケはため息をついた。
マデリアの評価を兼ねた帰路だったが、マデリアの能力はシンノスケの期待以上のものであり、順調に航行を続けたシンノスケ達は無事にサイラス恒星州中央コロニーに帰還した。
ドックではセイラ、ミリーナ、アンディ、エレンが出迎えてくれている。
マデリアのことについては事前に連絡してあるのでマデリアを連れて帰っても問題無い筈だ。
ドックに入港してフブキから降りたシンノスケ達3人を出迎えた4人、特にセイラとミリーナの表情が一変した。
「「マークスさん!一体どうしたんですかっ!」」
セイラ達が驚くのは当然である。
シンノスケもうっかりしていたのだが、マークスは頭部の半分と片腕が損傷したままなのだ。
うっかりどころの騒ぎではない。
挙げ句にシンノスケが着ている艦長服が予備のものであることを見抜かれてしまい、セイラとミリーナに何があったのかを問いただされ、シンノスケとマークスが負傷した経緯が皆にバレてしまったのである。




