決着
拳銃を構えたシンノスケが待つブリッジに飛び込んできたのはエプロンドレス、いわゆるメイド服を着て両手にコンバットナイフを持った若い女性。
「えっ?メイ、ドー・・・ッ!」
無表情で向かってくるそのメイド?の側頭部にはセンサーユニットがある。
戦闘対応型のドールだ。
反射的にドールであることには気付いたが、それ以上考えている暇はない。
シンノスケは拳銃のトリガーを引いた。
バンッ! 1発目は右に外れた。
バンッ! 2発目はドールの左側頭部のセンサーユニットに命中。
バンッ! 3発目も同じ箇所に命中し、左側頭部のセンサーユニットを完全に破壊した。
基本的にドールの弱点はセンサーユニットであり、左右どちらかのセンサーユニットが破壊されると『一時的に』機能停止する。
機能停止する時間は数十秒から長くて数十分程度だが、軍用ドールは戦闘時に数十秒でも機能停止してしまっては致命的だ。
それを防ぐため、通常はセンサーユニットには耐弾カバーが取り付けられており、破損のリスクを軽減しているのだが、シンノスケに襲い掛かってきたドールのセンサーユニットには耐弾カバーが取り付けられておらず、シンノスケの銃撃で破壊することが出来たのだ。
しかし、ドールの動きの方が早すぎた。
シンノスケの銃弾でセンサーユニットを破壊された時、ドールの手に握られていたコンバットナイフがシンノスケの首を切り裂かんと目前に迫っており、シンノスケの反射神経では到底避けられない。
銃撃の衝撃とセンサーユニットの破損により回路が遮断されたドールのバランスが崩れ、ナイフの切っ先はシンノスケの首ではなく、肩口から胸部を切り裂いた。
傷口から血が溢れ出す。
「こっ、これは・・・マズい・・・」
大量出血に全身に力が入らなくなり、その場に倒れる。
それから数十分後、ベルベットが手下を引き連れてフブキのブリッジ内に入ってきた。
「これはなかなか凄惨なもんだねぇ」
ブリッジには機能停止したメイド服姿のドールと、黒い艦長服を着た男がうつ伏せに倒れている。
倒れている男の周囲の床は血の海だ。
「姐さん、他に乗組員の姿はありません」
手下の報告を受けたベルベットは満足気な表情で倒れているシンノスケを見下ろした。
「他のクルーを船から降ろしたって聞いていたけど、本当にドールと2人でこの船を運用していたのかい。大したもんだねえ」
ブリッジを見回しても損傷等は見られない。
鋼鉄をも切り裂くコンバットナイフを装備したドールに一瞬でやられたのだろう。
「船はありがたく戴くよ。さて、私と対等にやり合った男の顔を拝んでみようかね・・・」
うつ伏せで倒れているシンノスケに近づき、その顔を覗き込もうとするベルベット。
その時、ベルベットの額の目が開かれた。
「・・ッ!」
(このまま近づいてはいけない)
そう感じ、飛び退こうとした時には既に遅かった。
倒れていたシンノスケがベルベットの襟首を掴んで引き倒すと、後ろ手に関節を決め、その頭部に銃口を突きつける。
「姐さんっ!」
シュバッ、ババッ!
ベルベットの手下が反応する直前、ブリッジ内にブラスターの発射音が響き、4人の手からブラスターライフルが刈り取られた。
「動くなっ!従わないならば警告なし、容赦なしにヘッドショットです」
ブリッジの入口に立っているのはマークス。
片腕で頭部の半分が損傷していながらブラスターを構えているその姿は恐いを通り越して不気味だ。
武器を奪われた上では軍用ドールに敵うはずもない。
宇宙海賊達は抵抗することなく降伏し、マークスによって拘束された。
「フフフッ、揃いも揃って死んだふりをしていたってワケかい。私の能力でも見抜けなかったよ。すっかり騙されたね」
シンノスケに拘束されながらベルベットが自嘲的に笑う。
「私は別に死んだふりをしていたわけではない。放り込まれたドールに怪我を負わされたから体力を温存するために横になったままお前達が来るのを待っていただけ。お前の方が私が死んだと勝手に誤解しただけだ」
「私はシステム復旧のために一時的に機能停止していただけです。そもそも私に『死んだふり』というのは・・・」
シンノスケはマークスの言葉を聞き流しながら拘束したベルベットを床に座らせると立ち上がった。
肩から胸部にかけての傷口は既に出血が止まっている。
シンノスケが持っていた応急手当用の止血ジェルの効果だ。
シンノスケとマークスは拘束したベルベット達5人をブリッジの端に座らせ、ベルベットとシンノスケの対決に決着が付いたかと思われたその時。
・・・ズンッ!
フブキに衝撃が走った。
「マスター、左舷に強行接舷されました」
「なにっ?新手か?」
シンノスケはモニターを確認する。
「あれ?パイレーツキラー?」
フブキに接舷しているのはザニーのパイレーツキラーだ。
モニターにはダグのシールド艦からの秘匿通信要請の表示が出ている。
ベルベット達への対処のために席を離れていた上、ドールとの戦闘の勢いでグラスモニターが飛ばされていたので気付かなかった。
『シールド艦からフブキ。シンノスケ、応答しろ!ザニーが応援に向かう。何とか持ちこたえろ』
フブキがブラックローズⅡに接舷された上、通信が途絶えていたため、ザニーが強行接舷してきたらしい。
「フブキからシールド艦。こちらは・・・」
「シンノスケーッ!無事かーっ!」
シンノスケがダグに状況説明をする暇もなく、簡易装甲服を着てブラスターライフルを構えたザニーがブリッジに飛び込んできた。
艦内白兵戦のセオリーもへったくれもない、強引を通り越して無茶苦茶な突入だ。
「・・・っと、あれ?終わってんじゃねえか」
ベルベット達を拘束しているブリッジの様子を見たザニーが拍子抜けしたように銃を下ろした。




