侵入者
【フブキ:ブリッジ】
「敵船が右舷に衝突。強行接舷により本艦に乗り込んでくるのが目的と推定」
「フブキを奪うつもりか。マークス、俺はブリッジから離れられない、すまないが迎撃に向かってくれ」
「了解しました、迎撃に向かいます」
「頼んだ。気をつけろよ」
「了解」
マークスがブリッジを後にするとシンノスケは衝突したブラックローズⅡとの離脱を図る。
しかし、フブキ自体には致命的な損傷は認められないが、衝突箇所が噛み込んでいる上、既に複数のアンカーを打ち込まれているため離れることができない。
直後、ブラックローズⅡからフブキの右舷に突入路が叩き込まれた。
「マークス、右舷通路!侵入してくるぞ!」
『了解です。突入口で待ち受けて制圧します』
「了解。頼むぞ」
『了かっ・・侵入者!・・メイ、ドー・・・』
突如、マークスとの通信が途切れる。
「マークスッ!おいっ、どうした!メイ、ドーって何だ!クソッ!」
艦内図のモニターで視る限りでは打ち込まれた突入路付近でマークスが何者かと接触したことは間違いない。
マークスは発砲したようだが、その直後にマークスとの通信が途切れたということはマークスが一瞬で突破されたということだ。
しかも、突破されたマークスは追撃する様子もなく、マークスを示すマーカーは突入路付近で停止している。
マークスは汎用型とはいえ、軍隊でも運用されており、白兵戦能力は高い。
そのマークスが突破されたということは相当に危険な相手だということである。
そして、マークスを突破した反応がシンノスケのいるブリッジに向かっているのだ。
「ヤバいかも知れないな」
保安上の理由もあり、フブキのブリッジにはブラスターライフル等の火器は備えられていない。
それらの火器はブリッジを出た通路脇の保管庫に収納されているのだが、取りに出る暇はない。
シンノスケは腰のホルスターからラグザVX67自動拳銃を抜き、スライドを引いて弾薬を装填した。
ブリッジのドアをロックすべきかどうかを考えたが、敵が何者であれマークスでも止められなかった相手だ。
ブリッジの強化ドアでも容易に破壊されてしまうだろう。
そして、破壊された衝撃で破片がブリッジ内に飛散すれば却って危険だし、何より既に間に合わない。
敵はブリッジの直前まで来ている。
シンノスケはドアに向けて銃を構えた。
・・・シュッ!
接近する動体に反応してブリッジのドアが開く。
次の瞬間、何者かがブリッジ内に飛び込んできた。
両手にコンバットナイフを持っているそれがシンノスケに飛びかかってくる。
凄まじい速度だ。
「えっ?メイ、ドー・・・ッ!」
シンノスケは反射的にトリガーを引いた。
バンッ・バンッバンッ!
直後、ブリッジは静寂に包まれた。
【ブラックローズⅡ:ブリッジ】
「・・・30分経ったね。様子はどうだい?」
「敵艦が攻撃や離脱を図る様子はありませんし、突入路からこっちに乗り込んでくるような様子もありません」
ベルベットはブリッジの壁に掛けられたブラスターライフルを手に取った。
「突入してから30分以上、行動限界を超えている筈だ。その上で向こうに動きが無いってことは・・・制圧は成功したみたいだね。それじゃあ、向こうの船を戴きに行くよ。みんな武器を持ってついてきなっ」
ライフルを担いで歩き出すベルベットに各々武装した3人の女性クルーが続く。
ブリッジを出て、突入路の前で待機していた別のクルーと合流したベルベット。
「様子はどうだい?」
「突入した直後に気密扉の向こうで銃声がしましたが、直ぐに止みました。その後は静かなもんです」
ベルベットは2人の手下を先行させながらフブキに通じる気密扉に接近する。
「乗り込むよ。十分に注意しな」
先ずは先行した2人が銃を構えながら気密扉を開き、その先の様子を窺う。
「通路に破壊されたドールが倒れています。他に敵の姿はありません」
手下が安全を確認した後にフブキに乗り込むベルベット。
報告のとおり1体のドールが倒れていた。
頭部の右半分と右腕部が肩口から切断されており、傍らには切断された腕部と、やはり真っ二つに切断されたブラスターライフルが落ちている。
それらの切り口はとても鋭い。
「これはクライアントからの情報にあった、シンノスケとやらに付き従っているドールだね。軍用ドールがこの有り様かい。恐ろしいねぇ」
ベルベットは残忍な笑みを浮かべながら通路の先を見た。
その先にはブリッジがある。