決戦3
フブキは前方にブラックローズⅡ、後方に15隻の海賊船と圧倒的不利な状況に追い込まれた。
後方の海賊船は引き離したものの、正面から接近するブラックローズⅡを仕損じて後方に突破されればブラックローズⅡと15隻の海賊船が合流してしまい、集中砲火を浴びる危険がある。
シンノスケとしてはフブキとブラックローズⅡによる一騎打ちに持ち込みたいところであり、少なくとも敵の合流だけは防ぎたいところだ。
【フブキ:ブリッジ】
「正面の敵船急速接近!このままだとすれ違います」
「そうはさせない!」
フブキ1隻のガトリング砲と速射砲による弾幕では厚みが足りない。
しかし、シンノスケはフブキをブラックローズⅡの進路上に割り込ませながら、薄くても効果的な範囲に弾幕を張り、ブラックローズⅡの進行を妨げる。
「敵艦更に接近!マスター、ミサイルランチャーと対空機銃を使用します」
「了解!ミサイルは残弾を残しておけよ!」
「了解しています。1番ランチャー、1番から5番ミサイル発射」
対空機銃は未だ射程外だが、ミサイルランチャーのミサイルは射程内だ。
ミサイルランチャーから発射された5発の小型ミサイルがブラックローズⅡ目がけて飛翔する。
「さあ、横に跳ねろ!」
シンノスケはブラックローズⅡが回避することを見越してフブキをドリフトさせた。
【ブラックローズⅡ:ブリッジ】
「姐さん!ミサイル急速接近!このままじゃヤバいですっ!」
「チッ!弾幕といい、ミサイルといい、嫌らしい攻撃で厄介だね!」
ベルベットはやむなくブラックローズⅡの速度を落として回避行動に入る。
弾幕の範囲外に逃れ、飛来するミサイルを次々と躱すことはベルベットの能力をもってすれば造作もないことだ。
ベルベットの覚醒者としての能力はミリーナと同じ予知だが、ミリーナのそれとは若干異なる。
ミリーナの能力が知識と経験の積み重ねの上、脳の高度な演算能力から導き出されるのに対し、ベルベットのそれは、経験を軸としながらも直感の影響が強い。
覚醒者以外の人類に比べれば圧倒的に高い予知能力ではあるが、ミリーナや他の覚醒者の能力に比べれば予知の精度は低い。
宇宙海賊として獲物に対して一方的に襲いかかる際の予知の精度は高いが、覚醒者としての正しい知識も無いため、能力を活かしきれておらず、自分と同等レベルの船乗りとの戦闘となると、基礎となる経験が少ないため、脳の演算に希望的観測が大きく割り込んでしまい、結果として精度が落ちてしまうのだ。
「姐さん、敵艦がっ!」
ブラックローズⅡの攻撃回避の一瞬の隙を突いたフブキが回り込んできた。
「フンッ、私をナメるんじゃないよ。喰らいついてやる!」
それでもベルベットに焦りは無い。
フブキに真っ向から勝負を挑んでくる。
フブキとブラックローズⅡは肉眼で確認出来る程の至近距離での戦闘を始めた。
互いに高速機動を繰り返し、その位置を交錯させながら砲撃を繰り広げる格闘戦だ。
至近距離で相手の攻撃を躱しながらの攻撃のため、システムロックする暇もない。
【フブキ:ブリッジ】
「望みどおり一騎打ちに持ち込めたが、やはり一筋縄ではいかないな。艦船同士のドッグファイトなんて前代未聞だぞ」
「このデータは貴重な資料になりますね。サイコウジ・インダストリーに提出すれば高値で引き取ってくれますよ。尤も、生きて帰れたらの話ですが」
「マークスは何時も一言多いんだよ!」
シンノスケはフブキを横滑りさせながらブラックローズⅡの左舷側エンジンを狙う。
「マスター、敵船3隻が宙域に到着。本艦の背後に回り込もうとしています」
「時間切れかっ!直ぐに他の敵船も追いついてくるな。それならばっ!」
シンノスケはブラックローズⅡとの距離を更に詰め、他の敵船を巻き込んでの乱戦に持ち込もうとしたが、今回はベルベットの予知の方が早かった。
シンノスケが他の敵船に気を奪われた一瞬の隙に間合いを取られ、惑星カーパーを背後に半包囲されてしまう。
「警告!このままでは重力圏に押し込まれます」
しかも、フブキは惑星の重力圏ギリギリの位置の上、他の敵船も次々と到着してくる。
【ブラックローズⅡ:ブリッジ】
「よし、最高の位置取りだよ。あの忌々しい船を惑星の重力圏に追い込んでやりな。一斉攻撃!」
ベルベットの号令一下、フブキに向けて海賊船が一斉に攻撃を開始した。
惑星を背に半包囲され、攻撃に曝されたフブキは既に惑星の重力の影響を受け始めている。
敵船からの攻撃はどうにか躱しているものの、思うような機動が行えずに姿勢制御もままならない。
惑星を背にしつつジリジリと惑星の重力に引き寄せられ始める。
「私の手で仕留めたかったけど、まあいいわ。これで最後だよ。惑星の重力に落として塵も残さず焼き尽くしちまいなっ!」
とどめとばかりの集中砲火にフブキは遂に惑星の重力に捕まった。
惑星カーパーの大気圏に引きずり込まれたフブキはその降下により圧縮された大気により船体を赤く染めながら落ちてゆく。
やがてブラックローズⅡのレーダーからフブキの反応が消失した。
「アハハハッ、ヤッたよ!完全に燃え尽きたよ!意外と呆気なかったねぇ」
勝利を確信したベルベットは声を上げて笑った。
本エピソードから視点移動が目まぐるしい戦闘描写等について、視点切り替えが分かりやすいように【フブキ:ブリッジ】等と加えさせていただいています。




