決戦2
【フブキ:ブリッジ】
「目標捕捉、方位1−20、惑星カーパーの軌道上です」
「よしっ!見つけたら何とでもなる。主砲で牽制しつつ距離を詰めるぞ!」
「射程外です。効果は期待できません」
「構わない。戦闘距離に飛び込むのが目的だ」
敵船からの砲撃は続いているが、敵の位置が知れた以上は射程外からの砲撃を躱すことは難しくはない。
「マスター、罠の可能性を考慮してください」
「分かっている」
シンノスケは照準を定めないまま主砲を放ちながら間合いを詰める。
【シールド艦】
フブキの戦闘開始の信号を受信したザニーとタグは即座に行動を開始した。
シールド艦に格納されているパイレーツキラーのブリッジではザニーが発艦準備を整えている。
「ダグ、シンノスケを待たせちゃ悪いからな、先に行くぞ。お前の分までスコアを稼いでおくぜ!」
『了解。俺のために獲物を残しておく必要はないから好きに暴れてこい』
「了解だ。稼ぎは3人で山分けだが、あのベルベットを仕留めれば山分けでも大儲けだ。だから少しは働かないとしまりが悪いからな。行くぜっ!」
シールド艦から発艦したパイレーツキラーは一気に速度を上げて戦闘宙域へと向かった。
【ブラックローズⅡ:ブリッジ】
ブラックローズⅡのブリッジではベルベットがフブキに向けて砲撃を繰り返しているが、まるで遊びを楽しんでいるかのようだ。
「アハッ!本当に大したもんだねぇ。私の砲撃を躱して近づいてくるよ」
「姐さん、敵の足の方が早いです。距離を詰められます」
向かってくるフブキに対して相対的にブラックローズを後退させて距離を取ろうとするベルベット。
「デキる男の方から言い寄られるのは女冥利に尽きるけど、がっつき過ぎじゃないのかい。・・・まだダンスを楽しむ時間じゃないよ」
ベルベットは艦を回頭させると本格的に逃走を始めた、ように装った。
【フブキ:ブリッジ】
「敵艦、反転して逃走に入りました。罠へ誘い込む意図があると推定。マスター、警戒を」
「了解してるよ。それを承知で飛び込んでやる」
シンノスケはフブキを最高速度まで加速させてブラックローズⅡを追跡する。
そして、いよいよフブキの主砲の射程内にブラックローズⅡを捉えた。
「敵艦捕捉」
「了解!マークス、一時フブキの操艦をそっちに任せる。ユー・ハブ」
「アイ・ハブ」
シンノスケは精密射撃用の照準器を覗き込む。
「手の内を晒すようで勿体ないが、そんなことを言ってられる状況じゃないからな。こいつの狙撃艦並の精密射撃能力を見せてやる」
照準器に映るブラックローズⅡをロックしたシンノスケは主砲のトリガーを引いた。
艦首に装備されている主砲がビームを放つ。
【ブラックローズⅡ:ブリッジ】
「姐さん、敵の砲撃です!」
オペレーターの声と同時、ベルベットは攻撃をギリギリで躱す。
「っと、今のは少しヤバかったね。あんな長距離から精密射撃ができるのかい。しかも速い。ユキカゼ型の派生艦だと思っていたけど違うようだ。あの船の能力を見誤っていたね」
そう言いながらも少しも慌てることなく目的の宙域に向けてブラックローズⅡを疾走らせる。
「姐さん、予定宙域に到着。誘い込み成功です」
「よし。ダンスパーティーの準備は整ったね。存分に踊らせてやろうじゃないか」
ベルベットは不敵な笑みを浮かべた。
【フブキ:ブリッジ】
惑星カーパーは人類が生存可能な大気を有しておらず、その大気も常に激しい嵐を巻き起こしている手つかずの惑星である。
フブキが誘い込まれたのはその惑星カーパーの軌道上、アステロイドリングの内側だ。
「アステロイドリング内に反応!数15」
アステロイドリングの中から15隻の所属不明船が進出し、急速に接近してきた。
現れたのはアステロイドの中で動力をカットし、小惑星に紛れて潜んでいた宇宙海賊。
ベルベットの罠だ。
新たな敵船はフブキを包囲しつつ次々と攻撃を仕掛けてくるが、シンノスケはフブキの速度を落とさず、一直線にブラックローズを狙う。
「こんな見え透いた手は想定内!マークス、主砲と艦首速射砲以外の火器の操作をそっちに回す。周囲の敵船の対処は任せる」
「了解しました」
マークスは周囲の敵船に対して攻撃を加えてフブキに接近させないように牽制を始める。
わざわざ撃沈させる必要はない。
フブキなら直ぐに振り切れる速力差だ。
【ブラックローズⅡ:ブリッジ】
アステロイドリングの中に潜ませていた海賊船15隻でフブキの足止めをして距離を取ろうと企てていたベルベットだが、その目論見はあっさりと崩れ去った。
「チッ!他の船には目もくれないのかい。面倒だねぇ、しつこい男は嫌われるよ」
そうは言ってもベルベット自身に焦りの色は無い。
フブキが包囲を抜けるのも織り込み済みの策だからだ。
ベルベットはブラックローズⅡを回頭させるとフブキを真正面に捉えた。
「私に近づきたいなら、その望みを叶えてやるさ!私のダンスについてこれるかい?」
既にお互いの主砲の有効射程距離に入っている。
ベルベットは主砲のトリガーを引いた。
フブキを狙ったブラックローズⅡの攻撃をフブキが回避し、フブキの主砲がブラックローズⅡに向けて放たれてブラックローズがそれを躱す。
互いの距離が一気に縮まった。
互いが互いの懐に飛び込めば連射性能に欠ける主砲による攻撃は効果が薄くなる。
【フブキ:ブリッジ】
シンノスケは速射砲による攻撃を始めた。
「マークス、近接戦に入る。他の敵船の距離は?」
「一旦は振り切りましたが、10分以内に追いつかれますが、3隻程足の速いのがいます。安全時間は約7分」
「ちょっと足りないな。あの船を7分以内で仕留めるのは難しいぞ」
「状況によっては1分と掛からずに勝敗が決することもあります。あちらを撃沈するか、本艦が撃沈されるかのどちらかですが」
「おい、やめろ!不吉なことを言うな!」
シンノスケの突っ込み?にマークスは動じない。
「報告、パイレーツキラーが予定より早く到着します。到着まで約15分」
「・・・了解。朗報だが、そっちはちょっと長いな。よしマークス、艦首のガトリング砲のコントロールをこっちに戻してくれ!」
「了解」
シンノスケはフブキの前方にガトリング砲の弾幕を張りながら突撃した。




