決戦1
アクネリアの領域を出たフブキは国際宙域をダムラ星団公国方面に向けて航行していた。
とはいえ、目的地がダムラ星団公国なわけではない。
ベルベットが仕掛けてくるとしたらこの宙域だとシンノスケが踏んだからだ。
「索敵範囲内に艦船の反応なし。航路上も異常ありません」
「了解。あらゆる事態に備えて警戒を厳にしてくれ」
「了解しました」
「シールド艦の位置は?」
「本艦の後方、索敵範囲外に位置している筈です。予定通りなら時間的距離で2時間前後。接敵した場合、シールド艦から発艦したパイレーツキラーが駆けつけるまで約1時間です」
ベルベットが操るA887フリゲートの索敵能力は侮れない。
互いの位置が判明しない状況でザニー達の存在を気取られるわけにはいかないのだ。
「了解。目標と接触して戦闘に入った場合、相手が単独なら積極的戦闘とし、複数ならば時間を稼ぎ、応援の到着を待つことにしよう」
「了解しました」
「尤も、相手にしてみれば俺達の都合なんか関係ないだろうけどな」
現在航行しているのは国際宙域の真っ只中。
自分達のフブキの他に頼りになるのはザニーのパイレーツキラー、ダグのシールド艦のみだ。
「間もなく惑星カーパーの軌道付近を通過します。カーパーはアステロイドリングを有しており、索敵に死角が生じます。迂回しますか?」
小惑星が集まるアステロイドリングは艦船が潜み、待ち伏せするには格好の場所である。
「・・・いや、このままの針路を維持する。確かに待ち伏せの危険があるが、俺達が進路変更するのを見越して別に網を張っている可能性もある。それに、状況によってはこちらもアステロイド群の中に飛び込んで時間を稼げるし、敵が複数の場合には敵を分断して各個撃破することも可能だ」
「了解しました」
このまま進むのは危険が伴うが、シンノスケは敢えて針路を維持することを選択した。
惑星カーパーの軌道上、アステロイドリングに接近しても気味が悪い程に静かだ。
このまま危険宙域から離れるかと思い始めたその時
「方位2+15、高エネルギー反応!」
「了、回避運動!」
マークスからの突然の報告にシンノスケは反射的に操舵ハンドルを転把した。
直後、フブキの右舷前方をビームの閃光が通過する。
辛うじて躱すことができたが、回避運動が1秒でも遅れていたら直撃していたところだ。
「どこからの砲撃だ?」
「位置を特定できません!本艦の索敵範囲外です」
「バカな!戦艦の火器管制システムだってフブキの索敵範囲外からのこんな正確な砲撃は不可能だぞ」
「しかし、現実に・・警戒、続けて来ます!方位2.5+10!」
「クソッ!」
シンノスケは再び砲撃を回避する。
2撃目は回避しなくても命中することはなかったが、それでもフブキの右舷側約100メートル先の空間をビームが貫いた。
広大な宇宙空間で異常な程の長距離砲撃で100メートルの誤差は恐ろしく精密な砲撃だ。
「チッ!敵の方が目がいいのか?」
「現代の技術ではあり得ません。これ程の超長距離砲撃が可能なシステムのデータはありません」
「そうは言っても現実に攻撃を受けているんだ!こっちも戦闘態勢を取るぞ」
「了解しました。各種信号発信!火器管制システム起動。全ての武装のロックを解除します」
2撃目の後の攻撃は無いが、今の攻撃でフブキを仕損じたからといって諦めた筈はない。
フブキからの反撃に備えて場所を移動しているのだろう。
シンノスケは2撃目の砲撃が来た方向にフブキを回頭させると速度を上げた。
「何が起きているのかは分からないが、敵を見つけないことにはどうにもならない!行くぞ!」
「了解しました。マスター、原因は分かりませんが嫌な予感がします。気をつけていきましょう!」
マークスの言葉にシンノスケはニヤリと笑みを浮かべる。
「マークスのは予感じゃなくて、高度な演算の結果による結果予測だ。しかも、危険の原因が不明だというならそっちのが厄介だよ!」
「方位12±0!」
「了!」
シンノスケはフブキを横滑りさせて3撃目も躱した。
このままでは一方的に攻撃を受けるばかりだ。
一刻も早く敵を捕捉しなければならない。
【ブラックローズⅡ:ブリッジ】
宇宙海賊ベルベットは主砲のトリガーから指を離すと楽しそうに笑った。
「アハハッ!これまた躱されたよ。まだ私のことを見つけられていないだろうにねぇ。流石、私が見込んだ男だよ」
そういうベルベットのA887フリゲート、ブラックローズⅡのレーダーでもシンノスケのフブキを捉えていない。
加えてベルベットは精密砲撃用の照準装置すら使用していない。
船のシステムに頼ることなく、自らの能力だけでフブキを狙って精密な砲撃をやってのけたのだ。
「さあ、今度こそ決着をつけようじゃないか」
ベルベットは額に開いた赤い目で遥か彼方、見えるはずのないフブキを見据えながら笑った。




