海洋惑星での商談
国際宙域を抜けてダムラ星団公国の領内に入ったフブキは公国の領域ギリギリのルートを進みながらとある惑星に向かっていた。
「しかし、レイヤード商会はなんだってこんな辺境惑星を指定してきたんだ」
シンノスケ達が向かっているのはダムラ星団公国でも外れの外れにある辺境惑星トーム。
「惑星トームは公国領のリムリア銀河帝国とは対極にある辺境惑星です。惑星の7割を海が占めているリゾート惑星ですね。また、公国軍の大規模演習場としての側面もあります。何れにしても付近には重要拠点もなく、観光産業位しかないから今回の戦争でも戦火が及んでいない数少ない宙域ですからね、レイヤード商会としてはうってつけの場所なのでしょう」
「取引に向かう俺達にしてみれば遠くて面倒なことこの上ないけどな」
とはいえ、ダムラ星団公国の領域外縁ギリギリのルートを航行しているので戦争中とは思えない程に順調に進むことができたことも事実だ。
「間もなく惑星トームの管制宙域に入ります。惑星トームの軌道上には航路管制管理用の宇宙ステーションしかないため、許可を得た上で大気圏突入を行う必要があります」
「了解した。俺は大気圏突入のシークエンスに入るからマークスは諸々の手続きを任せる」
「了解しました」
惑星トームの軌道上に到達したフブキは大気圏突入の態勢に入った。
「惑星降下の許可が下りました。降下ポイントのデータを表示します」
シンノスケはグラスモニターを装着する。
「了解、確認した。降下ポイントマーク!艦首上げ角50度で固定。降下開始」
大気圏突入の姿勢を取ったフブキはトームへと降下していった。
惑星トームの大気圏に降下したフブキ。
今回の商品はレアメタル№1247が70トン。
取引価格に大きな変動がないため大きな儲けを期待することはできないが、損害を被るリスクも少ないカシムラ商会の主力商品だ。
フブキを港に停泊させてマークスと共に上陸したシンノスケ。
リゾート惑星ということもあり、気温も高いが、海風が心地良い。
港でシンノスケを出迎えたのはレイヤード商会のドールであるステラだ。
常夏のリゾート地に合わせているのか、以前のビジネススーツではなく涼しげなワンピースを着ている。
「お待ちしておりましたカシムラ様。レイヤードがお待ちです。ご案内いたします」
ステラに案内されたのは海沿いのコテージ。
中に入ってみると、こちらはいつものスーツ姿のレイヤードがシンノスケ達を迎えた。
「お待ちしていましたカシムラ様。遠路はるばるご苦労さまです」
差し出されたレイヤードの手を握り返しながら肩を竦めるシンノスケ。
「いや、本当に遠かったですよ」
「ご足労をおかけして申し訳ありません。戦火の広がりを避けてこのような辺境の地に仮事務所を拵える羽目になりましたよ。尤も、ここは安全ですし、何かと都合がいいので仮事務所でなく支店にしようかと考えているところですよ」
適当な挨拶を交わすシンノスケとレイヤードは早速商談に入ることにした。
「さて、カシムラ様。今回はレアメタル№1247の取引ですね。量は70トン。全てご売却ということならば当方としてはとても助かりますが、他での取引の予定は?」
「他での取引もなにも、この惑星に他に取引する業者がいますか?他の惑星なりに取引に行くとなると、そちらの方が手間ですよ。全部買取ってください。そのために持ってきたんですから」
「それもそうですね。それでしたら私共で全て買取らせていただきます」
白々しい笑みを浮かべるレイヤードだが、結果として相場の取引価格に辺境のトームまではるばるやってきた手間賃を上乗せした価格を提示してくる。
どうやらレアメタル№1247を活用しての事業は順調なようだ。
商談自体は順調に進み、お互いが満足する形での決着を得ることができた。
商談が終われば長居は無用だが、流石のシンノスケもここまで来てとんぼ返りは御免被る。
せっかく大気圏降下をして惑星上に降り立ったので、2日程骨休めをしていくことにした。
「リゾートを楽しむのでしたら色々とプランをご紹介できますが?宿舎についても手配いたしますよ?」
レイヤードが申し出てくれるが、適当にのんびりしたいだけなので、丁重に辞退する。
宿舎についてもフブキの自室で十分だ。
早速外に繰り出してみたシンノスケとマークスだが、勇んできたものの、やることが思い浮かばない。
リゾート地らしく、あるのは観光客向けの商店や飲食店ばかりでシンノスケの興味を引くような施設はない。
食事に行こうにもマークスは食事を食べないし、酒も然りだ。
「考えてみたらマークスと出掛けても楽しみが無いな」
「私のせいにしないでください。マスターが余暇の使い方を知らないだけです。食事でもお酒でも1人で楽しめばいいじゃありませんか?」
「いや、こういう場所での食事等は席を共にする存在が重要だ。・・・マークス、酒の代わりにオイルとか飲んだりしないか?」
「私のメンテナンス用のオイル等は経口摂取するものではありません。そもそも、私には口がありません」
マークスに袖にされて諦めたシンノスケはレイヤードの仕事が終わるのを待って改めて食事に誘うことにした。




