接近
ダムラ星団公国に向けてアクネリア銀河連邦の領域を抜けて国際宙域を進むフブキは全方位に最大限の警戒をしつつ航行を続けていた。
「レーダーに反応。方位4+2、距離460+3A。通常航路外を航行中の所属不明船1」
マークスの報告にシンノスケも手元のモニターを切り替える。
「遠いな、フブキの索敵範囲ギリギリだ。・・・向こうから発見されていると思うか?」
「いえ、本艦の索敵能力を上回る宇宙海賊の船はそうは無いと思います。該船も本艦を追尾しているというよりは何らかの目標を探しているという様子ですね」
「問題はあれが単なる宇宙海賊か、別の目的のために動いている船か、ということだな」
確かに、レーダー上の反応はフブキに接近しつつあるものの、頻繁に進路を変更している様子からも今のところは明確にフブキを追っているようには見えない。
「このままなら目標に探知される前に離脱できます」
マークスの報告のとおり、少しばかり増速すれば探知される前に離脱することも可能だろう。
「しかし、あれが俺を狙う船だとしたらこのままやり過ごすのも悪手だと思うな。・・・少しばかり挑発してみるか。該船が350にまで接近したらデティクターをパッシブからアクティブに切り替え。攻撃してくるなら反撃。離脱するならば少しでも多くの情報を収集しよう」
「了解」
フブキは僅かに速度を落とす。
数分後、更に接近した目標の船に明らかな変化が見られた。
「該船に発見された模様。距離420、本艦に向けて増速中」
「了解。索敵能力は優秀だが、こちらの方が上か」
今はパッシブデティクターによりお互いを探り合っている状況だが、その能力はフブキの方が優れているようだ。
「該船、距離380に接近。本艦の主砲の射程距離に入りました。該船の行動に変化なし。更に接近中」
強力な索敵能力を持ち、狙撃艦としても運用可能なフブキの主砲は威力こそは戦艦や重巡航艦には及ばないものの、その射程距離は抜群に長い。
「有効射程距離に入ったが、まだ必中距離ではないな・・・」
「該船距離350。デティクターをアクティブに切り替えます」
「了解。僅かな情報も見逃すなよ」
フブキが有利に戦える距離に引き込んだ上でレーダーの探知方法を切り替える。
優秀なレーダーを備えている船ならば反応があるはずだ。
「該船に異変。速度を落とし、こちらに向けて火器管制レーダーを照射」
「了解。こちらも火器管制レーダーを照射しろ」
シンノスケは主砲を起動させると長射程射撃モードで狙いをつける。
グラスモニターに目標の姿が映し出された。
「該船の艦型確認。・・・かなりの改造が施されていますが、6325恒星連合国BF25ファクトリー製A887フリゲートに酷似しています」
「A887フリゲートか、輸入したものをアクネリア宇宙軍でも運用している現行艦じゃないか。アイラの護衛艦よりも新鋭艦だぞ、宇宙海賊程度が持っていていい艦じゃない」
「そんなことより、A887フリゲートはこれ程の射程を持っていません。艦底部に戦艦主砲クラスの大型のレーザー砲を確認。外付けで無理やり装備しているものと推測」
「それこそ宇宙海賊の装備じゃないな。嫌な感じだ・・・」
今のところお互いにロックオンしていないので即座に撃ち合いになることはない。
お互いに様子見の状況だ。
「該船の火器管制レーダー照射の停止を確認。後退していきます」
結局、不審船は攻撃を仕掛けてくることなくフブキから離れていく。
「了解。こっちも離脱しよう。やっぱり・・・だよなあ。厄介なもんだよ」
シンノスケは回頭するとスロットルレバーを押し込んだ。
フブキも速度を上げて宙域を離れていった。
一方、フブキに接近を試みたA887フリゲートのブリッジ。
「あのまま行かせてしまってよかったんですか?今なら仕留められたんじゃないですか?」
「無理だね。単独で彷徨いていたから様子を見てみたけど、あの船とキャプテン相手ではちょっとばかし分が悪いかもしれないねぇ。ありゃあ私等の接近に気付いてフカしこいてたね。わざと私等を引き込みやがったんだよ。彼奴の実際の索敵能力や射程距離はもっとスゴいんだろうねぇ。私等だけで仕留められないとは言わないけど、リスクが大きすぎるわ」
「そんなものですか?」
「当たり前だよ。だからこそこの仕事、私にお鉢が回ってきたんだよ。私にこんな玩具をくれたスポンサーもそれだけ本気だってことさ。それに、私が今までに同じ目標を3回も仕損じたことがあったかい?しかも、最後には確実にヤッたかと思ったけど、あのとおり生きていやがった。あれは勘がいいとかいうもんじゃない。経験と実績に裏付けられた船乗りの実力だよ。ナメて掛かるととんでもないしっぺ返しを食らうよ」
「アイサー」
「今度こそだよ。今度こそキッチリ勝負を決めるよ。意地でも私の手で仕留めてやるわ。そのためにはしっかりと準備して掛からないとね。お誘いに乗るのはそれからだよ」
一度は互いの射程距離に相手を捉えたフブキとA887フリゲートはそれぞれの思惑を秘め、離れていった。




