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白兵戦

「照合しました。護衛艦1はサリウス恒星州商船組合所属のシールド艦、護衛艦2は同所属のファルコン級高速ミサイル艇です。・・ミサイル艇から通信」

「了解。繋いでくれ」


 マークスはミサイル艇との通信回線を繋いだ。


『ようっ、遅れちまったぜ!俺の相棒のシールド艦は足が遅いからお前に先を越されちまった。俺はザニー、逃げ出したあの2隻は俺のパイレーツキラーに任せてそっちはギャラクシー・キャメルの方に行ってくれ!』


 ザニーと名乗ったミサイル艇を操る男はかなり乱暴で強引な口調だが、言っていることは理に適っている。

 

「こちらはケルベロス艦長のカシムラです。そちらの指示に従いギャラクシー・キャメルの救助に向かいます」

『おうっ、堅っ苦しい話し方だな。お前のことは知ってるぜ。生意気にも新人の分際で初仕事で賞金首を6隻も墜したシンノスケだろ?そんだけの実力があるなら向こうを任せられる、頼んだぜ!』


 ザニーは一方的に話して通信を切ると、逃走している海賊船を追跡して行った。


「口も悪いし馴れ馴れしいな。まあいい、敵船C、Dの追跡はザニーに任せて本艦はギャラクシー・キャメルの追跡に向かう」

「了解。商船組合の登録名に従い以後護衛艦2をパイレーツキラー、護衛艦1をシールド艦と呼称します」

「加えて艦名のセンスも適当だ・・・」


 シンノスケはため息をつきながらもギャラクシー・キャメルに向かって速度を上げた。


「シールド艦がギャラクシー・キャメル及び敵船Eに接近。状況判明、やはり敵船Eはギャラクシー・キャメル右舷側に接舷しています。敵船Eを本艦の射程に捕捉しました。シールド艦から通信」

『こちらシールド艦のダグだ。そちらで海賊船とギャラクシー・キャメルを引き剥がせるか?』

「こちらケルベロス艦長カシムラ。突入路を破壊することは可能です」

『了解した。海賊船がギャラクシー・キャメルから離れたら海賊船は本艦が引き受ける。そちらにはギャラクシー・キャメルに残された海賊の制圧を任せてよいか?』


 シンノスケがマークスを見るとマークスは振り返ることなくOKサインを見せる。


「了解しました」


 返答しながらシンノスケは状況を確認する。

 海賊船からギャラクシー・キャメルに打ち込まれた接舷用の通路は容易に破壊することが可能だ。

 元は遭難船から生存者を救助するためのもので外部から破壊されても双方の船の接続部にある安全装置が作動して船内の空気等が宇宙空間に吸い出されるのを防ぐ構造となっているので上手く破壊すればギャラクシー・キャメル側の損害を防げるだろう。


「突入路の敵船E側を破壊して両船を引き離す。ギャラクシー・キャメルを巻き込む可能性があるので主砲や速射砲は使えない。ガトリング砲を使用する」

「了解。精密射撃のためガトリング砲はこちらで操作します」

「了解、任せた」


 ガトリング砲をマークスに任せたシンノスケは射撃に最適な位置取りをする。


「両船の接舷部、敵船E側に精密照準ロック。ガトリング砲の出力30パーセントで0.8秒間射撃します。敵船Eとの相対角度を固定してください」

「了解、固定した」

「通路内に生体反応無し、2、1、発射!」


 マークスはガトリング砲のトリガーを引く。

 ガトリング砲の5本の砲身が高速回転し、0.8秒間でそれぞれの砲身から1発ずつ、5発のレーザーが発射され、強行接舷用の通路の海賊船側を破壊する。


「命中、敵船Eがギャラクシー・キャメルから離れました。ギャラクシー・キャメル側から空気等の流出無し。シールド艦が割り込んでギャラクシー・キャメルの盾になります」

 

 シンノスケはケルベロスを反転させた。


「本艦はギャラクシー・キャメルの左舷に強行接舷し、俺達2人による白兵戦で船内に残る海賊を制圧して乗組員と乗客を救出する」

「了か・・・2人でですか?私だけでも制圧可能です」


 マークスが振り返る。


「マークスだけを危険な場に行かせられるか。反論は認めん!」

「了解。それでは、マスターは装甲服を・・・」

「この艦にそんな物は無い。代わりに強化シールドがある。重くて俺は取り回せないがマークスなら片手で扱えるだろう?俺は盾を持つマークスの後ろからついていく」

「・・・・・了解」


 シンノスケはケルベロスをギャラクシー・キャメルの左舷に寄せた。


「アンカーを打ち込め!」

「了解、アンカー射出後に突入路を確保します」


 ケルベロスから固定用のアンカーが射出され、更に接舷用通路が送り出されてギャラクシー・キャメルの船体に穴を穿つ。

 その間にシンノスケとマークスはブリッジを出て白兵戦の準備をしながら突入口に向かう。

 シンノスケは取り回しの良い小型のブラスターマシンガンを持ち、マークスはブラスターアサルトライフルと大型の盾を両手に持つ。

 他に自衛用の拳銃をそれぞれ装備している。


「よし、突入するぞ。ケルベロスの戸締まりを忘れるなよ」


 突入路に入ったシンノスケはブラスターマシンガンにエネルギーカートリッジを装填した。


「気密扉ロック確認。ギャラクシー・キャメルに突入します」


 マークスがギャラクシー・キャメル側の気密扉開閉スイッチを押して扉が開放されるとその先はギャラクシー・キャメルの船内だ。

 扉が開くや否や突入路に投擲爆弾が投げ込まれてきた。


「投擲爆弾。対処します」


 マークスは投げ込まれた爆弾をシールドで受け止めると足下に落とし、そのまま蹴り返す。


「ヒィッ!」

  バシュッ!


 何者かの悲鳴と共に乾いた炸裂音が響いた。


「P172個人用放熱爆弾です。効果半径は5メートル、使用した者は自滅しました。ギャラクシー・キャメルに乗り込みます」


 マークスはシールドを構えながら船内に踏み込んで周囲の状況を確認する。


「左舷側通路です。先程の爆弾投擲者の焼死体がある以外は問題ありません。船首側は隔壁が閉じています。破壊することも可能ですがとりあえず船尾側のクリアランスを済ませましょう」


 マークスがシールドを構えて前進姿勢を取ったので、シンノスケはマークスの背後に続く。


「船内マップのデータは入手しているのか?」

「はい。この先には3等客室が8。奥にラウンジスペースがあるのみです。マスターのグラスモニターに必要な情報を送信します。情報を共有しながら進みましょう」

「了解、助かる」


 2人は客室内を確認しながら進むが、8つの客室は全て空で、ラウンジスペースに続く扉にはロックが掛かっていた。

 マークスは内蔵センサーを起動してラウンジ内の様子を探る。


「扉の先のスペースに体温35度以上の生体反応が25。ラウンジの隅に集まっています」


 マークスが得た情報がシンノスケのグラスモニターにも送信されてきた。

 ラウンジの奥に熱源が密集しているのが分かる。


「生存者が逃げ込んでいるな」

「扉を開きますか?」

「この扉の他にラウンジスペースへの通路はあるか?」

「ありません。ラウンジの先に調理室と乗組員用のスペースがあるだけです」

「ならばこのままにしておこう。被害者を連れて海賊の制圧は出来ないからな。一応助けが来たことだけは伝えておこう」

「分かりました。お待ち下さい」


 マークスは扉に取り付けられた通話装置を操作した。


「ラウンジ内にこちらの音声を伝達可能です」

「・・・ラウンジ内に避難している方に通知します。私はサリウス恒星州自由商船組合所属の護衛艦ケルベロスの艦長シンノスケ・カシムラです。現在この船を襲った宇宙海賊の掃討作戦を行っています。このラウンジ周辺の安全は確保しましたが、皆さんは作戦が終了するまで暫くの間、このままラウンジで待機していてください。安心してください、本宙域には他にも護衛艦が到着しています」


 シンノスケの言葉にラウンジ内からの返答はないが、返答を待っている時間は無い。

 他の場所のクリアランスを進めることにする。


 改めて船首側の隔壁まで戻るとマークスは隔壁の開放装置の操作盤を操り、隔壁を開放するパスワードを検索し始めた。


「解析完了。いつでも隔壁を開放出来ます。但し、隔壁の先に体温35度以上の生体反応が2。両方とも内部温度40度程度の携帯機器、おそらくはレーザーアサルトライフルを所持しています」

「海賊か?」

「可能性は高いですが、他の可能性、つまり船の乗組員や乗客がライフルを持って自衛のために待ち構えている可能性も否定できません」

「それもそうだな。まあ、レーザーアサルトライフル程度ならマークスが持つシールドで防御出来る。隔壁を開けて向こうの出方と正体を確認してから対応しよう」

「了解・・・」


 マークスは隔壁の前でシールドを低く構えると隔壁の開放パスワードを実行する。

 シンノスケはマークスの背後に屈み、シールドとマークスの陰に隠れてマシンガンを構えた。


 隔壁が開くとその向こう側からマークスとその陰に隠れているシンノスケに向かって銃撃が浴びせられる。


「対象確認、乗組員でも乗客でもありません。宇宙海賊と特定」

「了解。閃光弾を使用する」

「了解」


 シンノスケはマークスの腰のポーチから閃光弾を取り出して安全ピンを引き抜いた。


「目を焼き付かせるなよ」

「私のカメラはそこまで性能は低くありません」


 シンノスケは銃を乱射する男達の足下目掛けて閃光弾を転がした。

・・・シュッ!

 周囲が眩い閃光に包まれ、ほんの一瞬銃撃が止んだ。


 シンノスケがマークスの肩を叩くのを合図に2人は同時に発砲する。

・・シュババッ!

・・・・バババッ!

 それぞれ一連射で海賊2人を仕留めたシンノスケとマークス。


 前進を再開した2人は艦首側にある2等客室を確認しながら進むが、生存者の姿は無い。

 部屋自体が空か、乗客や乗務員と思われる死体が倒れているだけだ。


「奴等が右舷から突入した理由が分かった。あちら側はVlPルームや特等室、1等客室が多い。効率よく金目の物を狙ったんだろう。左舷側でこの有り様じゃ、向こう側は厳しいかもな」

「同意します」


 そうこうしている間に船首、ブリッジに続く階段に到着した。

 階段を上った先にある強化扉の向こう側はブリッジだ。


「階段、及びその先に生体反応無し」

「了解。ブリッジに向かおう」

「先に私が上がります。合図をしたら続いてください」


 そういうとマークスはシールドを構えて20段程の階段を上がり、その先の安全を確認するとハンドサインを送ってきた。 

 シンノスケもマシンガンを構えて背後を警戒しながら階段を上がる。 

 2人はブリッジに続く扉の前に立った。


「ブリッジ内に生体反応8。5人はブリッジの前に並び、その奥に3人、向かって右方に1、左方に2」

「人質がいるな。ブリッジにいる宇宙海賊の数は2人か3人だろう」

「はい。扉の前に並んでいるのは盾として立たされている乗組員や乗客でしょう。左方にいる2人の内1人は武装している兆候は見られません。おそらくこちらも人質かと」

「俺もそう思う。しかも、俺達の動きは監視カメラでバレているぞ」

 

 その時、ブリッジの中からの船内放送が響き渡った。

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