帰還。待っていたのは?
サイコウジ・トランスポートの船団を護衛する3隻の武装船はサイコウジ・カンパニーに所属する自社の護衛艦だ。
2隻はアクネリア銀河連邦で運用されているコルベットと同型艦だが、もう1隻はケルベロスと外観が酷似している。
「シンノスケさん、あれってケルベロスと同じ船ですか?」
セイラの問いにシンノスケは肩を竦める。
「まあ、同じというわけではないが、姉妹艦のようなもんだ。ケルベロスが試作初号艦ならば、あの船『フェンリル』は軍のコンペティションに参加するための2号艦だな。ケルベロスよりコストを抑えて艦首砲の展開機構は省かれたが、ケルベロスと同様の能力を持つ実戦型のコルベットだ。尤も新規駆逐艦配備計画のコンペティションに勝ち残るだけの性能を得られなかったんでケルベロスとフェンリルで開発中止になったけどな」
『サイコウジ・インダストリーでは曰く付き扱いの船だが、コルベットとしては軍に配備されている他のコルベットと比べれば段違いの性能だ。まあ、その分建造コストが高すぎて量産は出来ないからね。だからカンパニーの護衛艦として活用しているというわけだよ』
シンノスケの説明を補足するハワード。
因みにハワードが乗っているのは護衛艦ではなく、船団の指揮船である大型貨物船だ。
「ところで、この先の宙域に宇宙海賊18隻が待ち伏せしています。狙われていますよ」
『そんなことだろうと思っていたよ。随分前から我が船団をつけ狙うハエのような船がいたからね』
「その様子だと、私達の出番はありませんかね?護衛の営業を仕掛けようと思っていたのですが」
『ハハハッ、せっかくの申し出だが遠慮しよう。シンノスケ君の護衛があれば心強い限りだが、私も経営者の立場としてリスクとコストを天秤に掛けてバランスをとらなければならないからね。まあ、我々だけでも問題はないだろう。見たところそちらは仕事を終えてアクネリアへの帰還途中だろう?我々のことは気にせずに気をつけて行きたまえ』
ハワードの言葉にシンノスケは敬礼で応える。
「分かりました、そちらもお気をつけて」
『任せておきたまえ。シンノスケ君もたまには家に顔を出しなさい。エミリアも喜ぶ。今度一緒に酒でも飲もう』
「嫌ですよ。義兄さんと飲むと、いつの間にか2人揃って義姉さんに説教される羽目になるんですから」
『ワハハッ、それは違いない。では、またな』
通信を終えると船団は宇宙海賊が待ち伏せする宙域へと向かっていった。
船団を見送ったシンノスケ達もサリウス州へ向かって航行を再開する。
レーダーに遠方を船団を追っていく所属不明船の姿を捉えたが、宇宙海賊の斥候だろう。
「シンノスケ様、大丈夫ですの?護衛が付いているとはいえ、海賊の数は多いのですよ。護衛艦3隻では・・・」
ミリーナの言葉にセイラも頷くが、シンノスケは何処吹く風だ。
「全く問題ない。むしろ宇宙海賊に同情するよ。狙う相手が悪すぎだ」
「「えっ?」」
「護衛艦も優秀だが、それだけではない。船団の貨物船もそれぞれが自衛用の武器でガチガチに守りを固めているんだ。並の宇宙海賊20隻程度でどうこう出来る相手じゃないよ」
そう言うとシンノスケはスロットルレバーを押して艦を加速させて先を急いだ。
サイコウジの船団と別れて1週間。
特にトラブルに遭遇することもなくフブキとツキカゲはサリウス州中央コロニーの管制宙域にまで辿り着いた。
「よし、ようやく帰ってきた。今回は損害も無かったし、結果は・・・」
・・・ピピッ。
「ん?メッセージか?」
シンノスケの端末にメッセージを告げる着信音が鳴った。
・・・ピピッ・・ピピッ・・・。
サリウス州を離れていた間に受信出来ずに溜まっていたメッセージが次々と受信する。
「ん?今回は随分と溜まってい・・・えぇっ?」
・・ピピッ・・ピピッ・・ピピッ・・ピピッ・ピピッ。
「おい、ちょっとこれは・・・」
・・ピピッ・・ピピッ・・・。
異様な数の着信にシンノスケは端末の画面を確認したのだが、その表情がみるみる青ざめる。
ピピッ・・ピピッ・・。
そのメッセージの全てはリナからのものだった。
その内容は総じて
『聞きたいことがありますから帰還したら速やかに組合に来てください』
というものだ。
「一体何だこれ?俺、何かヘマをしたか?」
・・ピピッ・・ピピッ。
止まることのない着信にシンノスケは恐怖を覚え、狼狽える。
「あっ!」
その時、ミリーナはあることを思い出した。
ウェスリーに向かう前にシンノスケがイリスに対してサラリと言った言葉。
『・・ちょっと命を狙われているんでね・・』
間違いなくこれが原因だ。
だとすると、これは一筋縄では済まされない。
ミリーナは今回に限り組合に行くシンノスケについて行かないことを決めた。




