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覚醒者の秘密

 ウェスリー中央コロニーに到着したシンノスケ達だが、ゆっくり滞在というわけにはいかない。

 宇宙での戦闘はダムラ星団公国艦隊が劣勢であり、コロニーが攻め落される可能性があるので、積荷を降ろしたら直ぐに出発する必要がある。

 それでも、荷下ろしやら手続きやらで数時間は出港することはできないのだ。

 

 例によって荷下ろしの立会いはマークスに任せたシンノスケは1人ラウンジで休んでいた。

 ラウンジの窓(窓のように見えるが、実際には大型モニター)には遠方での艦隊戦の光が見える。

 甚だ不謹慎ではあるが、交錯するレーザーの光や撃破された船が放つ光の輝きが美しい。


「シンノスケ様・・・」


 背後から声を掛けられたシンノスケは振り向くことなく応える。


「休んでいなくていいのか?相当無理をしたんだろ?」

「大丈夫です。少しだけ疲れましたが、直ぐに回復します」


 シンノスケの対面に座ったミリーナだが、その表情には普段の自信に満ちた凛々しさがない。


「自分から言い出しておきながら、最後までお役に立てずに申し訳ありませんでした」


 謝罪の言葉を口にするミリーナだが、その言葉に対してシンノスケは首を振る。


「ミリーナが謝罪することじゃない。謝罪が必要なのは俺の方だ。艦長としてクルーの状態にまで気を配れなかった。すまなかった」

「そんなっ、シンノスケ様が・・」

「それよりも、ミリーナには聞きたいことは他にある」

「・・・・」

「俺は今までミリーナが能力を使うところを何度も見てきた。たまに俺に隠れて悪戯半分に俺のことを見ていたことも知っている。だからこそ、俺はあの能力はミリーナに負担がかかるものではないと思い込んでいた。だが、その思い込みは大きな勘違いだったようだ。・・・一体何があった?あの衰弱はミリーナの能力を使ったせいなのか?」


 シンノスケの問いにミリーナは無言で頷いた。


「・・・咄嗟の時に無意識に発現したり、ちょっとした予知や読心ならば負担にはならないのですが、連続で延々と予知を繰り返すと私自身の脳の処理能力が追いつかなくなってしまうんです。先程の程度なら心身の消耗で済みますが、さらに高度な処理を繰り返し、限界を超えてしまうと脳の神経が焼き切れて障害が残ったりすることがあります」


 シンノスケの表情が険しくなる。


「とんでもなく危険じゃないか!」

「いえ、今日は少しだけ無理をしてしまっただけです。今後は決して無理をしないことをお約束します」

「・・・しかし、俺としては咄嗟に発現するのは仕方ないにしても、今後はミリーナに能力を使ってほしくない、というのが正直な気持ちだ。得体の知れない力でミリーナに万が一のことがあっては困る」


 シンノスケの言葉にミリーナは薄い笑みを浮かべた。


「本当に大丈夫なんです。私の、覚醒者の能力はそんなに大したものではないんです。そう、あまりにも単純過ぎて、大したことなさ過ぎて、帝国皇室が覚醒者の能力の秘密をひた隠しにするほどに・・・」


 ミリーナは第3の目を開くとその額の赤い目でシンノスケの目を見た。


「どういうことなんだ?」

「聞いてくださいますか?私達覚醒者の能力の秘密を。聞いてしまっては後戻りはできませんけど・・・」


 リムリア銀河帝国が国家をあげて保護し、秘匿し続けてきた覚醒者の秘密。

 帝国から亡命したミリーナもその秘密をシンノスケ相手に冗談めかして話そうとしたこともあったが、実際には頑なに口を閉ざしていたことだ。 

 ミリーナは不安げに、それでいて真正面から3つの目でシンノスケをジッと見つめている。

 シンノスケは迷わなかった。

 その決断はミリーナも予知、又は読心により知っているだろう。


「聞かせてもらう。我々の今後のためにも聞いておく必要がある」


 シンノスケの返答にミリーナは嬉しそうに頷いた。


「お話しします。拍子抜けするような帝国の国家機密を」

「・・・・」

「私達覚醒者の能力、それは単純な知識と経験の積み重ねと、脳の演算の結果に過ぎないのです」

「えっ?」


 予想外の言葉にミリーナが言ったとおり拍子抜けの表情を浮かべるシンノスケ。


「クスクス・・・ほら、拍子抜けしたでしょう?でも、本当なんです。私の予知や読心に限らず、覚醒者の能力というのは、結局のところ、その者の得た知識と経験を基に脳が演算をして結果を導き出しているだけなんです。尤も、私達覚醒者の脳の処理能力はシンノスケ様達のような人類とは桁違いですし、額の目の視覚情報収集能力も並の人類とはまるで違います。そういった面では特殊な能力と言えますが、決して非科学的な力ではないんです」


 ミリーナの説明によれば、覚醒者が覚醒するメカニズムも解明されており、成長する中で知識と経験を積み重ね、一定の条件を満たした者が覚醒するということだ。


「確かに筋が通っているが、結局は我々が得ることが出来ない、特殊な能力だと思うのだが・・・」

「そうは言ってもシンノスケ様も私を凌駕する程の能力を持っていますのよ」

「えっ?」

「シンノスケ様の船乗りとしての経験に基づく判断力ですわ。今までにもあったじゃないですか、私の予知よりも先に危険を察知し、的確な判断をして危機を脱したことが。それは私達の能力と本質的に同じなんです。むしろ、シンノスケ様の経験と判断力が私の経験と処理能力を上回っていたということですの」


 シンノスケは首を傾げた。


「覚醒者の能力の現実についてはなんとなく分かった。しかし、何故帝国はその事実をひた隠しにするんだ?ミリーナの言ったとおり大した真実ではないと思うんだが?」


 シンノスケの疑問にミリーナは肩を竦める。


「帝国皇室や貴族の権威と面子を保つためですわ」


 曰く、元々は帝国人類の多くが持っていた能力だが、長年に渡る他の銀河の人類との交流により帝国人類の血が薄くなり、能力を持つ者が少なくなっていった。

 そんな中で帝国皇室と貴族はその狭い世界で子孫を残してきたので、血の薄まりの影響が少なく、今でも覚醒する者がいる。

 その状況を利用せんとする帝国は覚醒者の能力を神秘的なものとして位置づけ、国民に選民意識を植え付けることにより国民を精神的に支配して国家体制を保っているということだ。


「結局のところ、リムリア銀河帝国はそうでもしないと国家を維持できないところまできているのですわ。今回の戦争も国民の目を外に向けさせることが目的なのかもしれませんわね」


 シンノスケは頷いた。


「そうなると、帝国は既に危険な状態にまできているのかも知れないな」

「そうですわね。でも、危険な状態というのは私達も同じですわ」

「ん?どういうことだ?」

「私、言いましたわよね?これを聞いたら後戻りできないと。私はシンノスケ様に帝国の機密を話してしまいました。ただ、これだけでは亡命者に課せられた『国の不利益になるようなことをしない』という義務に反することではありません。まして、ここでの話は私とシンノスケ様の2人だけのこと。ただ、帝国軍の中にも覚醒者がいます。そうしますと私達のこの状況を予測する者がいるかもしれません」

「俺達をそのままのさばらせておくわけにはいかないということか・・・」

「はい。帝国の権威と面子を守るために。ですから、真実を知ったシンノスケ様は選択しなければいけません」

「選択?」

「私をこのまま傍に置いて、共に命を狙われるか。それとも、私を見捨て、私と離れるのか。今のうちに私と離れればシンノスケ様が命を狙われることは無いと判断しますわ」


 第3の目で上目遣いでシンノスケを見るミリーナ。

 その表情は不安そうだ。


 シンノスケは深いため息をついた。


「選択をする余地もない。俺はミリーナを手放すつもりはない。我が商会はそこまでブラックな企業ではないぞ」

「命を狙われることになってもですか?」

「それこそ今更だ。俺は既にアクネリア軍の一部の連中に命を狙われている。今更帝国に命を狙われたとしてもどうということでもない」


 まるで気にしていない様子のシンノスケにミリーナの表情がパッと明るくなる。


「それでは、これからもシンノスケ様のお傍に置いていただけますのね?」

「ああ、これからもよろしく頼む」

「シンノスケ様の伴侶として一生を共に歩んでいけますのね?」

「・・・それとこれとは話が違う」


 シンノスケはミリーナの勢いに乗せられることはなかった。

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― 新着の感想 ―
超常的な能力でないなら、帝国民の頭蓋骨には、開いていない眼球が埋まってることになるんでは?
[一言] そういえば勘というものも知識と経験の積み重ね、と某スポーツ漫画で言っていたような……。覚醒者の能力はその究極の形といった所でしょうか。 それにしても、能力の源泉が神秘的なものか否かに関わら…
[一言] それはもうプロポーズなんよw
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