最前線を駆け抜けろ
フブキの速射砲が帝国巡航艦の第2エンジンに命中した。
推力のバランスを失った巡航艦が速度を落とし、後に続く駆逐艦との連携が崩れる。
「今ですわっ!」
ミリーナはその一瞬の隙を突いて帝国艦の只中にフブキを突っ込ませた。
「アンディ、後に続け!」
『了解!』
シンノスケはガトリング砲で帝国艦を牽制する。
一時的に混乱した帝国艦だが、そこはそれ、帝国の正規軍だ。
直ぐに立て直しに掛かるがシンノスケ達の方が僅かに早かった。
巡航艦と駆逐艦の僅かな隙間をフブキとツキカゲはくぐり抜ける。
「よし、突破した。ミリーナ操艦をこっちに戻せっ!」
「了解。ユー・ハブ・コントロール」
「アイ・ハブ。アンディ、フブキの前に出ろ。こっちで後方を守る」
『了解。前に出ます』
ツキカゲがフブキの前に出た。
後方では既に帝国艦が追撃に入っている。
「流石だな。追撃への切り替えが早い。ミリーナは火器管制を頼む。牽制だ、無理に命中させる必要はない。敵の追撃の足を遅れさせればいい」
「了解しましたわっ!アイ・ハブ・ウエポンコントロール」
ミリーナによる牽制砲撃が始まった。
艦尾と艦底に装備されたガトリング砲で効率的に弾幕を張り、加えて速射砲を駆使して帝国艦を一定の距離に近づけさせない。
「シンノスケさん、ダムラ星団公国軍から通知。我々の救援のために高速戦艦1隻と巡航艦2隻を向かわせたので20分だけ持ちこたえろ、とのことです」
「了解、20分なら問題ない。このままの進路を維持して逃げ切るぞ!」
限られた戦闘宙域とはいえ、広大な宇宙だ。
5分や10分で救援が来ることが期待できない中で20分とはありがたい。
シンノスケはミリーナに牽制を任せると同時に宇宙爆雷を放出しながら一目散に逃げる。
追撃してくる駆逐艦1隻が爆雷の餌食になり大破して航行不能に陥った。
『アクネリア銀河連邦護衛艦フブキへ、こちらダムラ星団公国宇宙軍第28艦隊所属の高速戦艦オライオン。帝国艦は我々が引き受ける、そのままの進路を維持しろ』
正面から急速接近してきた高速戦艦と巡航艦がすれ違いざまに帝国艦目がけて主砲を放つ。
フブキの爆雷を警戒して追撃の手を緩めた帝国艦が次々と撃沈されてゆく。
「流石は高速、高機動を誇るダムラ星団公国宇宙軍だな」
これで後方からの追撃は心配ない。
しかし、予定外の進路変更により向かう先は艦隊戦の真っ只中だ。
「シンノスケさん、中央コロニーからの通信が入ります」
『惑星ウェスリー中央コロニーから護衛艦フブキ。現在本コロニーの管制宙域は戦闘の影響により航路の安全が維持できない。本コロニーC区画第241気密ドックへの入港を許可するが誘導ビーコンも発信できない。進路は自由に進んでかまわない。何とかくぐり抜けて入港してくれ』
指定されたドックに最短距離で向かうなら艦隊戦のど真ん中を突っ切る必要がある。
迂回するルートもあるが、時間が掛かりすぎるし、時間を掛けたところで状況が好転する保証はない。
むしろ悪化する可能性の方が高い。
シンノスケはフブキを加速させてツキカゲを追い越した。
「アンディ、戦場を突っ切るぞ。シールドを最大出力にしてフブキに続け。これより緊急の自衛目的以外の武器の使用を禁ずる。非常時に帝国艦を撃つのは構わないが、間違えてもダムラ公国艦に向けて撃つなよ。怒られるし、入港させてもらえなくなるぞ」
『了解。そんなことしませんよ』
シンノスケはニヤリと笑う。
進む先は艦隊戦のど真ん中、コロニーへの最短距離だ。
フブキの後に続くツキカゲのブリッジではアンディが必死の形相で操舵ハンドルを操る。
「アンディ、フブキに置いていかれないでよ!」
「大丈夫だ。俺は荒れ狂う宇宙潮流のように冷静だよ」
「それじゃダメでしょう!」
緊張のあまりおかしなことを言い出すアンディと適切な突っ込みを入れるエレン。
マークスはツキカゲの総合管制を行いながらそんな2人を観察している。
(アンディ、体温37.1度、呼吸に乱れあり。緊張による僅かな体温上昇を認める。これ以上体温が上昇するならば物理的な冷却の必要を認める。エレンは体温上昇を認めず、適度な緊張を保っているものと判断)
マークスはアンディが座る操縦席のホルダーにミネラルウォーターのボトルがあることを確認した。
(残量約350ミリリットル、温度13.2度)
頭を冷やすには十分な量と温度だ。
フブキとツキカゲが飛び込んだのはリムリア銀河帝国とダムラ星団公国による艦隊戦の真っ只中。
両軍共にそんな最前線に入り込んできたたった2隻の民間船にかまっている暇はないようだが、狙われていなくとも双方の攻撃が行き交うポイントだ。
「シンノスケさん、方位11±0から砲撃!艦首を掠めます、減速を!続いて方位3-4から、命中しませんがマイナス方向への機動はしないでください」
「セイラ、攻撃予測は私に任せて。貴女は航路のナビゲートと通信に専念なさい!」
「分かりました、お願いします」
ミリーナはフブキとツキカゲの共通回線に割り込んだ。
その額には赤く光る目が開かれている。
「シンノスケ様、アンディさん、私が脅威を予測してその度合いを5段階で伝えます。回避方法はそれぞれにお任せしますが、よろしくて?」
「了解」
『わっ、分かりました!』
ミリーナは予知の能力を駆使して進路上の脅威を予測し始める。
「進路を維持・・・ツキカゲ、方位9、脅威度4、着弾5秒前」
『了解!回避します』
「フブキ、方位2、脅威度2、着弾まで12秒」
「了解、進路そのままシールドで受け流す」
「ツキカゲ、方位3、脅威度3、着弾9秒。続いて方位11、脅威度5、着弾15秒」
『了・・回避、いやシールドで!うわわっ、やっぱり回避!』
2隻は最前線の只中を突き進む。




