強行突破
「こちらはアクネリア銀河連邦、サリウス州自由商船組合所属の自由商船フブキ及びツキカゲ。船籍番号AS1480G及びAS1851GC。本船は民間用物資運送業務中です。ウェスリー中央コロニーへの入港を要請します」
セイラが全方位に向けて通信を送る中、フブキとツキカゲは戦闘宙域に接近する。
「予想以上にコロニー側に押し込まれているな・・・」
戦況は帝国軍に有利なようで、コロニー付近にまで戦火が及んでいるようだ。
「シンノスケさん、今のところどちらからもリアクションはありません。コロニーからの入港許可もありません」
「あれだけの乱戦だ、仕方ないさ。我々は双方を刺激しないように留意しながら予定進路を進む。ツキカゲ、しっかりと付いてこいよ」
『ツキカゲ了解!』
2隻は戦闘宙域を迂回するために速度を上げた。
「シンノスケ様、帝国艦隊右翼部隊から一部の艦がこちらに向かってきますわ。巡航艦2、駆逐艦5。火器管制レーダーの照射を確認!」
帝国軍はシンノスケ達をすんなりと通してくれるつもりはなさそうだ。
「了解!火器管制レーダー照射だけなら直ぐに攻撃してはこないだろう。このまま進むぞ。アンディ、ビビるなよ!」
『りょっ、了解!』
「シンノスケさん、帝国艦から通信。我々に対して臨検を求めています。どうしますか?」
この状況下で帝国軍が臨検を行うことはありえない。
帝国軍の行為は国際法違反だ。
シンノスケに迷いはない。
「拒否だ。通信をこっちに回してくれ。断固拒否するって通告してやる」
シンノスケの言葉にセイラが首を振る。
「あのっ、フブキの通信士は私です。任せて下さい」
決意の表情のセイラにシンノスケは肩を竦めた。
「分かった、セラに任せる。どちらにせよ一悶着あるぞ、ミリーナは帝国艦の動静と周辺警戒を厳にしてくれ」
「了解ですわ。お任せください」
フブキとツキカゲは帝国艦を刺激しないように進路と速度を維持する。
帝国艦は左舷側と後方から接近してきた。
『アクネリア商船に対して通知する。貴船に対して臨検を行う。直ちに停船せよ』
帝国艦から繰り返し停船命令が発せられる。
セイラは大きく深呼吸をした。
「こっ、こちらはアクネリア銀河連邦、サリウス州自由商船組合所属の自由商船護衛艦フブキです。私達が航行している本宙域はダムラ星団公国の領域です。公国の領域内ではリムリア銀河帝国艦船による民間船への臨検の権限はありません。本艦は国際法に則り貴艦の臨検を拒否します」
冷静に、淡々と拒否の意思を通告するセイラ。
『本宙域はリムリア銀河帝国の勢力下にある。直ちに停船せよ。従わないならば攻撃も辞さない。繰り返す、直ちに停船せよ!』
「拒否します。貴艦の行動は明確なる国際法違反です。貴艦が国際法違反を続け、本艦を害するというならば、本艦は法に則り自衛のための必要な措置を取ります」
シンノスケは火器管制システムを起動させた。
『繰り返す、直ちに停船せよ!これが最後の警告だ』
「拒否します。貴艦の要求は国際法に違反しています」
断固として拒否の姿勢を貫くセイラの返答に帝国艦が反応する。
「帝国艦に発砲の兆候!巡航艦の主砲がこちらに指向しましたわ」
ミリーナの報告にシンノスケは頷く。
「ロックされていない。威嚇だが、帝国艦が発砲したらこちらも直ぐに動くぞ」
「「了解!」」
フブキに続くツキカゲのブリッジではアンディが緊張しながらも辛うじて冷静を保っていた。
しかし、操舵ハンドルやスロットルレバーを握る両手は汗まみれだ。
「帝国艦が発砲したらシンノスケさんは減速する筈だ。そうやって敵を油断させておいて、その後は・・・」
この先の手順を確認するように呟くアンディだが、マークスの助言もあり、シンノスケの思惑を正しく理解している。
「帝国艦が発砲!フブキの前方を掠めたわっ!」
エレンの声に反応したアンディは前方を進むフブキと同時にツキカゲを急減速させた。
「エレン、こちらも緊急時の信号を発信!」
「了解!」
「俺は操艦に専念するのでマークスさんには火器管制を任せます」
「了解しました」
(敵艦がいない右か前方か、それとも・・・)
アンディはフブキの動静に全神経を集中する。
「帝国艦発砲!命中しませんが至近です」
帝国艦の発砲によるミリーナの報告と同時にシンノスケはフブキを急減速させた。
「敵艦からの攻撃を受けた。これより正当防衛の措置を取る」
「了解。・・・こちらはアクネリア銀河連邦、サリウス州自由商船組合所属の自由商船護衛艦フブキ及びツキカゲ。本艦はリムリア帝国艦から攻撃を受けました!ダムラ星団公国軍に救助を要請します。併せて本艦及び僚艦は護衛艦として自衛のための行動に入ります」
セイラが全方位に向けてフブキとツキカゲの正当性を発信したと同時にシンノスケは動く。
「左舷急速回頭、強速前進!」
シンノスケはフブキを回頭させた。
左舷側には帝国の巡航艦2隻と駆逐艦1隻。
回頭したフブキは帝国の巡航艦を正面に捉える。
「ミリーナ、一時操艦を任せる。このまま最大出力で敵の中を強行突破だ。ユー・ハブ・コントロール」
「アイ・ハブ!お任せください」
ミリーナはスロットルレバーを一気に押し込んでフブキを加速させた。
シンノスケはフブキの急激な機動にツキカゲが遅れずに続いていることを確認すると、前方の巡航艦に照準を定める。
「撃沈させるわけにはいかないが、赤っ恥をかかせてやる」
マニュアル操作でグラスモニターの照準点を巡航艦のエンジンに合わせてトリガーを引いた。




