航路は平穏でも・・・
運送依頼を受けたシンノスケ達はフブキとツキカゲに物資を積み込むとダムラ星団公国の惑星ウェスリーの中央コロニーに向けて出発した。
前回同様にマークスがツキカゲに乗り込み、シンノスケ、セイラ、ミリーナの3人と、アンディ、エレン、マークスの3人の2チーム編成だ。
「やはり人員が足りないかな。ツキカゲのクルーにもう1人位はいた方がいいかもしれないな・・・」
フブキの自動操縦の管理をミリーナに任せ、操縦席でモニターを眺めながらシンノスケか呟く。
今のところは宇宙海賊等に遭遇することもなく、珍しく順調に航行を続けているフブキとツキカゲ。
この順調な航行については根拠は無いのだが、セイラとミリーナの見えない功績があった。
「そうですね。ツキカゲのメインクルーがアンディさんとエレンさんだけというわけにはいかないと思います」
「私達はこれからも成長していくのですから、船はともかくクルーの充実は喫緊の課題ですわ」
「そうだよな。・・・ところで、今回の航行はいつもと違って・・」
「シンノスケさんっ!お腹すきませんか?」
「私がコーヒーでもお淹れしましょうか?」
というのも、シンノスケが不穏な言動をしそうになる度にセイラとミリーナが強引に話題を変え、シンノスケに余計なフラグを立てさせないようにしていたのだ。
そんな2人の功績により順調な航行を続けてきたシンノスケ達だが、目的地である惑星ウェスリーに接近するとその状況は一変した。
「間もなく惑星ウェスリーの管制宙域に入ります。・・・ウェスリー中央コロニー周辺で戦闘が行われている模様です!」
セイラの報告はシンノスケ達が向かう先の宙域で戦闘が行われているということだ。
「戦闘の規模は?」
「詳細は不明ですが、大規模です」
シンノスケは操舵ハンドルとスロットルレバーに手を掛けた。
「ミリーナ、フブキの操縦を代わる」
「了解ですわ。自動操縦解除。ユー・ハブ・コントロール」
「アイ・ハブ・コントロール。2人は戦闘宙域の状況を確認。セラはツキカゲにも情報を送ってやってくれ」
「「了解」」
シンノスケはフブキの速度を落としながら広域レーダーの情報を確認する。
惑星やコロニーに向かって攻める側、おそらくリムリア銀河帝国軍とそれを防ごうとするダムラ星団公国軍との戦闘だろう。
「戦闘宙域が広い・・・。帝国側は千隻程度、公国は数百隻か。このまま進むと戦闘宙域の真っ只中にまともに突っ込むな・・・」
「シンノスケ様、どうしますの?一旦離脱して様子を見ますか?」
思案するシンノスケにミリーナが問いかける。
確かに、アクネリアに引き返すまでしなくとも、一旦離脱して戦闘が収まるのを待つのも選択肢の1つだが、これだけの規模の戦闘だと勝敗が決するまでにはそれなりに時間が掛かるだろう。
しかも、帝国側が公国の守備を打ち破り、コロニーを占拠してしまうようなことになると、帝国軍が民間船の入港を制限する可能性が高い。
シンノスケは決断した。
「ここで時間を費やすべきではないな。危険を承知でコロニーに向かう!セラは航行識別信号を最大出力で発信しながら、ウェスリーの中央コロニー、ダムラ艦隊、リムリア艦隊の全てに向けて回線を開き、我々は自由商船で、民間用物資を輸送中であることを繰り返し発信してくれ」
「了解しました」
「ミリーナはレーダー管制を担当。我々は戦闘宙域を右方に大きく迂回して進むが、あれだけの規模の艦隊だ。こちらに目を向けてくる連中がいるかもしれない。ツキカゲとの間にデータリンクを構築し、双方が得た情報を共有できるようにして、最大限の警戒を頼む」
「了解ですわ。お任せください」
シンノスケはツキカゲ艦長のアンディと専用回線を繋いだ。
「フブキからツキカゲ。我々はこれより前方の戦場を迂回しながら目的地のコロニーに向かう。我々はあくまでも民間の業務を受諾している自由商船だから、余計な誤解を招かないために武器の使用は禁止する。但し、正当防衛や緊急避難の場合は艦長の判断に委ねる」
『りょ、了解しました!』
シンノスケが絶大なる信頼を置いているのはツキカゲにサポートとして乗り込んでいるマークスだが、ツキカゲの艦長はあくまでもアンディだ。
艦の運行の全ての責任を担う立場としてアンディにのみ指示を出し、アンディもその自覚があるので緊張しながらも気を引き締める。
「よし、それでは行くぞ。フブキが先行するからツキカゲは後に続け!」
『了解』
シンノスケはフブキを右舷方向に回頭させた。
「こちらはアクネリア銀河連邦、サリウス州自由商船組合所属の自由商船フブキ及びツキカゲ。船籍番号AS1480G及びAS1851GC。本船は民間用物資運送業務中です。ウェスリー中央コロニーへの入港を要請します。繰り返します、こちらはアクネリア銀河連邦・・・」
併せてセイラが全方位に向けて通信を発信し始める。
戦闘中の双方に対し『戦時中であっても民間船への攻撃を禁ずる』という国際法の遵守を促すためだ。
実際には守られないことも多いのだが、少なくとも自分達の航行目的の正当性を明らかにしておく必要がある。
フブキとツキカゲの2隻は激しい戦闘が行われている宙域へと近づいていった。




