行きは海賊、帰りも・・・
シーグル神聖国には5日間の滞在だったが、特に予定の無いシンノスケ達は聖都観光を満喫した。
実際のところ、シンノスケは大神殿見物だけで十分(正直、大神殿見物すらも面倒)だったのだが、セイラやミリーナに付き合わされ、夜は夜でグレン達マッチョの集団にむさ苦しい宴会(グレンは下戸なので、たらふく食べさせられる)に連れ出され、のんびりしている暇もなかったが、従業員の福利厚生と顧客との付き合いということで諦めていたのである。
シーグル神聖国を出発するのを前に帰りの積荷でも見繕うかと商船組合を訪れたシンノスケとセイラだったが、情報端末を操作していたところ、組合職員に声を掛けられた。
「アクネリア銀河連邦の護衛艦フブキの艦長カシムラ様ですね?」
「そうですが?」
「ちょっとお話しがありますので、こちらにお越しください」
そう言われて受付カウンターに案内されたシンノスケ。
そこで示されたのは謝礼金と称した高額のクレジットだった。
「これは?」
「エメラルドⅢの運行会社と乗員乗客の遺族からエメラルドⅢを発見してくれたことに対しての謝礼金です。実は、エメラルドⅢ発見の報を受け、カシムラ様達に謝礼をしたいと寄せられたものです。カシムラ様が所属する自由商船組合を通して送金する予定でしたが、せっかくの機会ですので、直接入金させていただきたいのですが?」
「しかし、エメラルドⅢの調査に掛かった費用と報奨金は所属する組合から支払われています。謝礼とはいえ、これ程の金額を受け取るのは気が引けますよ」
実際に提示された金額はその大半が運行会社からのものとはいえ、民間用のレジャークルーザーの新艇が買える程のものだ。
加えて、シンノスケ達が発見し、その位置を特定したエメラルドⅢだが、サルベージは困難であると判断され、現時点での回収は断念されたということである。
だとすれば、尚更のことだ。
結局のところ、シンノスケ達は小惑星に座礁したエメラルドⅢを発見して船内調査をしただけで、高額の謝礼を受けるほどの貢献はしていないのではないか?
謝礼金の受け取りについて、組合を通している以上は法的には何ら問題はないが、心情的に悩ましいところだ。
こんな事態を予測していなかったのだが、法務担当のミリーナを連れてくればよかったし、今からでも端末で連絡を取るべきかもしれない。
そんなことを思案しているシンノスケの袖をセイラが引いた。
「あのっ、シンノスケさん。クルーとして私の意見を言ってもいいですか?」
「ん?ああ、勿論だ。聞かせてくれ」
「私はこのお礼の金は受けた方がいいと思います。内訳を見ると、大半は運行会社からのものですが、乗員乗客の家族からもかなりの額が寄せられています。これを断ってしまうと、却って組合に迷惑を掛けることになってしまうかもしれません。それに、仮に断ってしまうと、このお金は運行会社や家族の方々に返還されることになるのでしょうが、そうなると、返された皆さんの気持ちが・・・」
セイラの言うことは尤もだ。
「確かにそうだな」
「それに、シンノスケさんは謝礼金を受け取ったとして、私達個人で山分けしたりせず、船の維持管理なんかの商会の運営に使いますよね?現実的に考えれば、商会を設立したばかりの私達にとってお金はいくらあっても困りませんし、商売とはいえ、結果としてより多くの人達のために還元することができ、それが巡り巡って私達の商会の飛躍にも繋がると思うんです」
普段は大人しいセイラだが、中途退学とはいえ商船学校で船の運行だけでなく、商売の基本を学んでいただけあってその意見は理に適っている。
軍人から自由商人になり、ある程度の経験と実績を積み重ねてきたシンノスケだが、セイラとて商船学校で学んだ基礎と、シンノスケの横で共に経験を積み重ねて成長してきたのだ。
シンノスケは頷く。
「セイラの言うことは尤もだ。助言に従おう」
結果、シンノスケは謝礼金を受け取ることを決め、その旨を職員に伝えた。
そして、謝礼金の入金手続きを済ませたシンノスケとセイラは組合職員に取次ぎを頼み、フブキに帰る前にエメラルドⅢの運行会社に立ち寄って謝礼金を受け取ったことと、受け取った謝礼金は宇宙の安全の一端を担う護衛艦を保有する商会として運用し、船乗りとして、多くの人々に還元することを約束したのである。
こうしてシーグル神聖国への滞在を終えたシンノスケ達は帰還の途についた。
結局、帰りは丁度いい仕事が無かったため、帰りは空荷になったのだが、狙われるような荷物が無いのに、復路の海賊航路でも2回も宇宙海賊の襲撃を受け、海賊の討伐実績を重ねる羽目になったのである。




