シーグル神聖国
シーグル神聖国の聖都に到着したシンノスケ達。
荷主であるグレンとカレンは運んできた1400トン弱のレアメタル№548の売却手続きのためにシーグル神聖国の商船組合に向かったが、護衛と運送業務だけを請け負っていたシンノスケ達はここで依頼達成だ。
とはいえ、特に急いで帰る必要もないし、帰路の護衛契約は結んでいないとはいえグレン達に帯同して帰ることになるだろうから、出航までは数日間の余裕がある。
そこで、セイラとミリーナの希望によりシーグル教総本山大神殿の見物に行くことと相成った。
見物に向かうのはシンノスケ、セイラ、ミリーナにアリーサを加えた4人。
セイラ、ミリーナ、アリーサはシーグル教徒であるため、せっかくの機会だからの見物を兼ねた巡礼で、宗教的なことに全く興味が無いシンノスケは完全に観光目的の見物だ。
意外?なことに双子の姉妹のアリーサはシーグル教徒だが、メリーサの方はシンノスケ同様に宗教に興味がないらしく、アンディ、エレンと共に買い物やグルメツアーに向かったらしい。
因みに、ビック・ベアの乗組員のランディ、アレン、マイキー、トッドの4人は歓楽街(宗教国家であるが観光客相手の歓楽街があるらしい)に繰り出して行った。
大神殿に向かう軌道車の車窓からは多くの寺院が見える。
観光地という側面があるせいか、車内のスピーカーからは音声による観光案内が流れているのだが、その案内によると聖都の中にはシーグル教関係の寺院だけでなく、他の宗教の寺院もあるそうだ。
「全てを受け入れる教えのシーグル教ですけど、聖都の中に他の宗教の寺院を受け入れるなんて懐が深いですね」
「その懐の深さというか、おおらかさこそがシーグル教が銀河中に勢力を伸ばしてきた所以だろうな」
観光案内を聞いて感心しているセイラとそれに答えるシンノスケ。
ミリーナとアリーサも興味津々の様子で外の景色を楽しんでいる。
「あの緑色の屋根が星読会?の寺院ですのね」
「星読会、聞いたことがありませんね」
首を傾げる2人にシンノスケが説明する。
「星読会は小規模ながらシーグル、トルシア、イフエールの3神教に匹敵する歴史を持っているそうだ。星の流れから様々なことを占う占術のお教えが元になっているらしいぞ」
「シンノスケ様、信仰を持たず、宗教に興味が無い割に随分と詳しいのですわね」
「ああ、親善航行できた際に聖騎士宇宙艦隊の隊員が教えてくれた。正直あまり興味が無い話だったが、熱心に教えてくれたんで聞いているうちに覚えてしまったよ」
シンノスケの言葉に3人は顔を見合わせて笑う。
そうこうしている間に軌道車は大神殿の最寄りの停車場に到着した。
「これまた・・・荘厳の一言ですわね」
「はい、凄いという言葉しか思い浮かびません・・・」
壮大で、歴史を感じさせる景観でありながら最新鋭の設備を兼ね備えたシーグル教大神殿。
敷地内には観光客用の土産物店や飲食店があり、シーグル教の法衣を着た信徒達が働いている。
働いているのは信徒だけでなく、大神殿のガイドを担うのは信徒と同じ法衣を着用した女性型ドールだ。
ドールによるガイドツアーも面白そうだが、のんびり見物したいので今回は自由に見て回ることにする。
見物目的とはいえ、シーグル教徒の3人は先ずは巡礼をするということとなり、本殿へと続く廊下を歩いてみるが、これまたとんでもない大きさだ。
「この広さならフブキでも通過出来るな」
「えっ?いくらなんでも無理じゃないですか?」
「そうですわ。いくらシンノスケ様の操船技術が確かでも無理ですわよ」
シンノスケの軽口に付き合うセイラとミリーナ。
「いや、直線なら問題ないな。ざっと見て左右に10メートル、上下に20メートル程度の余裕がありそうだ。艦の速度と位置をしっかり確保すれば通過できるな。奥に見える大扉も通過出来そうだからフブキに乗ったまま大聖堂まで行ける」
とんでもなく罰当たりなことを言い出すシンノスケ。
付近にいる神官に聞かれたら怒られるかと思いきや、たまたま近くにいてシンノスケ達の会話を聞いていた神官はわざわざ廊下や大聖堂のサイズを教えてくれる有り様だ。
「・・・聞いたところの貴方達の船のサイズであれば大聖堂に入ることは可能ですね。当然、操縦士さんの腕次第ですけど。でも、間違っても挑戦しないで下さいね、シーグルの女神様も流石に驚いてしまいますから」
笑いながら語る神官の女性だが、おおらかにも程がある。
そんな冗談?はさておき、広大な廊下の左右には様々な像が並んでいるが、これらの像はシーグル教の歴史の中に存在した聖人や聖女達の像らしい。
「あれ?あの聖女像ですけど・・・」
大聖堂の大扉の脇に立つ像にミリーナが気がつく。
「どうした?えっ、セラ?」
ミリーナの視線を辿って聖女像を見たシンノスケは振り返って、背後にいるセイラと聖女像を見比べた。
そこにある聖女像がセイラに瓜二つなのだ。
「え?私?」
セイラ本人ですら驚きの色を隠せずにいる。
「えっと・・・、これは遥か昔の聖女様みたいですわね」
ミリーナが読み上げた説明文によると、遥か歴史の彼方の聖女で、名前すらも記録に残されていないらしい。
「もしかするとセラはこの聖女様の生まれ変わりかもしれないな」
適当なことを言うシンノスケにセイラは肩を竦めて笑う。
「もしそうならシーグルの女神様にがっかりされちゃいますね。私は聖女どころか、あまり熱心な信徒じゃありせんからね」
そんなことを話しながらセイラそっくりな聖女像の隣を見れば、こちらは聖職者らしからぬ筋骨隆々の聖人の像がある。
こちらの像も詳しい記録が残されていないようだが、どうやら隣の聖女と同時期に存在した聖人らしい。
そんな風に気楽な雰囲気の一行だが、いざ大聖堂に立ち入れば、そのような軽口を発することもなく、セイラ、ミリーナ、アリーサは厳粛な気持ちで巡礼を済ませたのであった。
シンノスケ達が観光を楽しんでいる一方でフブキが入港したドックに残ったマークスは荷下ろしの立ち会いやフブキのシステムチェックに勤しんでいたのだが、そこにシーグル神聖国の商船組合の職員に案内された1人の中年女性が訪れた。
「こちらの船はシンノスケ・カシムラ様の船で間違いありませんか?」
「はい、カシムラ商会の護衛艦フブキです。生憎艦長のカシムラは不在ですが、何かご用ですか?」
その婦人は応対したマークスに対して深々と頭を下げる。
「突然の訪問をお詫びします。私はレイクウッド。70年以上前に亡くなったクララ・レイクウッドの姪にあたります。叔母の件でカシムラ様達に一言お礼を申し上げたくて不躾とは思いましたが、お邪魔させていただきました」
レイクウッド婦人の語るクララの名はマークスのメモリーにしっかりと記録されていた。