海賊航路4
海賊航路で最初の襲撃を受けて以降、シンノスケ達は2度にわたり宇宙海賊の襲撃を受け、フブキは6隻、ツキカゲが3隻の海賊船を撃沈する成果を挙げていた。
今のところ、フブキ、ツキカゲ、ビック・ベアの3隻は然したる損害を受けていないが、船は無事でも蓄積されるそれぞれの船のクルーの疲労はいかんともし難い。
それに追い打ちを掛けるように、3隻は宇宙海賊による4度目の襲撃を受けていた。
いくら海賊航路と呼ばれる宙域であろうとも、襲撃の頻度があまりにも多すぎる。
これはもうシンノスケの不用意な発言により呼び込まれた布石であると断言されても仕方のないことだし、少なくともそのことについてシンノスケは文句を言える立場ではない。
「敵集団、方位5から7、±10の範囲に展開しつつ追ってきます」
現在、シンノスケ達は5隻の宇宙海賊の追撃を受けているが、フブキのレーダーと航行管制を行っているのはアリーサだ。
宇宙海賊を撃退しても直ぐに別の海賊集団が襲い掛かってくる。
しかも、時間を問わずに(当然だが)繰り返される襲撃にフブキではセイラの疲労が限界に達してしまったのだ。
休息が必要になったセイラの代わりについてミリーナが声を上げたが、ミリーナは見習いとはいえ副操縦士としての役割があるので、アリーサがセイラの代わりを引き受けたのである。
後方から追撃してくる宇宙海賊は5隻。
ツキカゲが先頭で警戒に当たり、その後にビック・ベアが続く。
フブキは最後尾で艦首を180度回頭し、後退しながら海賊船に対処していた。
「しつこい連中だ。しかも今までの連中と違って間合いを弁えているな」
「敵船BとDから砲撃!射程外ですが命中します。シールドで対処可能です」
5隻の海賊船はお互いの射程外から嫌がらせのような攻撃を繰り返しており、シンノスケ達の疲労を誘っている。
しかも、不規則な機動でシンノスケに長距離狙撃の機会を与えない狡猾さだ。
「このままじゃ埒があかないな。シーグル神聖国の領域までは?」
「まだ8時間ほど掛かります」
流石の宇宙海賊もシーグル神聖国の領域近くまでは追ってくることは無いだろうが、それでも後4時間程度は諦めずに着いてくるだろう。
「チッ、もったいないけどあれを使うか。ミリーナ、10分程度操縦を変わってくれ。このままの速度で後退を続けてくれればいい」
「分かりましたわ。お任せください」
「よし、ユー・ハブ・コントロール」
「アイ・ハブ・コントロール」
シンノスケはミリーナに操縦を任せると準備に取り掛かる。
今回の護衛任務を引き受ける前に余っていたウエポンベースに新たに取り付けた装備を使うつもりだが、事前の設定が面倒な武装だ。
「システムを起動して、起爆範囲を設定・・・数は10基でいいか。後は散布する範囲と・・・」
ブツブツと呟きながら準備を進めるシンノスケ。
必要な設定を済ませるとミリーナから操縦を取り戻す。
「よし!ミリーナ、こっちに操縦を戻してくれ」
「了解ですわ。ユー・ハブ!」
「アイ・ハブ。準備完了、散布!」
シンノスケはフブキの速度を落とすと、操舵ハンドルにあるスイッチを入れる。
フブキの船底部に取り付けられた装置から直径1メートル程の球体が散布された。
「シンノスケ様、あれは何ですの?」
首を傾げるミリーナにシンノスケが答える。
「ん?あれは宇宙爆雷だよ」
シンノスケが言う宇宙爆雷とは、目標となる艦船に目掛けて散布し、船体に接触させて爆発したり、予め設定した範囲内に艦船が入ると船に吸い寄せられて起爆する兵器だ。
シンノスケが手に入れたフブキの新しい装備だが、実はこの宇宙爆雷は現代の軍隊では殆ど使用されていない。
というのも、宇宙爆雷は目標の進路上に散布する必要があるのだが、目標に向かって飛翔するミサイルや宇宙魚雷と違い、予め予測して爆雷を散布した範囲内に目標が進入する必要があるのだ。
当然ながら目標に察知されれば回避することは容易であるため、艦船のレーダーに探知されないために、樹脂製の外装に最低限のセンサーと噴射装置に爆薬のみという単純な構造で、大きさも直径1メートル程と小型であり、小型であるが故にその威力も低く、一撃で船を沈める程の威力は無い。
更に、運用効率も悪いため、軍隊ではとうの昔に使用されなくなったというわけだ。
そのような事情を鑑みると、そんな兵器をわざわざ運用することは疑問が多いが、シンノスケにはシンノスケの考えがある。
軍用兵器としては力不足でも、民間船を改造した船で、防御力の低い宇宙海賊が相手ともなれば、上手く運用すれば航行不能に陥らせることも可能だし、何より敵に対して心理的効果が期待できるのだ。
宇宙爆雷を散布したシンノスケは再びフブキの速度を上げながら宇宙海賊の動きを注視する。
散布した爆雷は10基。
広大な宇宙空間ではあまりにも少数だが、そこはそれ、シンノスケの緻密な計算と経験を基に散布範囲を設定してある。
案の定、5隻の宇宙海賊は予測した範囲に進入した。
先頭を進む海賊船が爆雷の直撃を受けたが、運の悪いことに4基の爆雷が次々に命中し、木っ端微塵に吹き飛ぶ。
更に後続の海賊船2隻が直撃を受け、1隻を航行不能に、もう1隻を中破させた。
続けて残りの爆雷が一斉に起爆したため、後を追う海賊船の追撃の手が緩んだ。
「よしっ。初めて使ってみたが、なかなか使えるじゃないか」
牽制のつもりだったが、予想以上の戦果にシンノスケは満足げな表情を浮かべる。
しかし、喜んだのもつかの間、アリーサが声を上げた。
「ツキカゲの進路、12時の方向に新たな反応!数・・・20隻以上!ツキカゲのメリーサからも同様の報告!我々の進路上に展開しています」
「20隻以上?宇宙海賊の規模じゃないぞ!」
流石のシンノスケも20隻もの宇宙海賊を一度に相手にしては勝ち目が低い。
最後尾で後方の警戒に当たっていたシンノスケはフブキを回頭させ、先頭に躍り出た。
「ツキカゲは後退してビック・ベアの防護に専念!本艦は突出して・・・」
「待ってください。あれは・・・宇宙海賊ではありません。識別信号確認。シーグル神聖国の聖監察兵団の艦隊です。映像、モニターに出します」
アリーサが報告と共にモニターに映し出したのは、シンノスケ達の進路上に展開する青色のカラーリングで統一された駆逐艦の集団。
シーグル神聖国の治安維持組織である聖監察兵団の艦隊だ。




