海賊航路2
アンディは急速に接近してくる敵船とビック・ベアの間にツキカゲを割り込ませた。
「敵船に発砲の兆候。射程外だけど、当たるわ!」
「大丈夫、シールドで受け止められる!」
エレンの報告を受けてもアンディは焦ることはない。
敵船の砲撃はツキカゲ側面のエネルギーシールドで弾いた。
「フブキから下命!反撃を許可、撃沈もやむなし、とのこと」
「了解!反撃を開始する」
アンディはビック・ベアを守りながら速射砲による砲撃を開始する。
こちらも射程外だが、アンディは構わない。
ツキカゲからの砲撃を受けて敵船は進路を変えて距離を取り始める。
「敵船、進路変更!アンディ、当たっていないわよ!マークスさんに火器管制をお願いした方がいいんじゃない?」
「大丈夫、これでいいんだ!」
ツキカゲの砲撃は敵船を撃沈するためのものではなく、ビック・ベアに近づけないためのもの。
護衛艦としては、このまま逃げてくれればそれでよし、逃げないならば撃沈するまでだ。
アンディは極めて落ち着いている。
「マークスさん、アンディさん達はカシムラさんの商会での初仕事のようですが、アンディさんの判断をどう思いますか?」
「問題ありません。彼等も独立して一介の護衛艦乗りとして経験を積んできました。まあ、それでも経験不足は否めませんが、そうはいってもマスターが認めた船乗りですからね。任せておいて大丈夫ですよ」
アンディとエレンの会話を聞いていたマークスとメリーサ。
マークスはアンディがシンノスケの意図を正しく理解していると判断し、余計な口出しをせず、補助椅子に座るメリーサと共に周辺宙域の警戒に専念している。
無論、万が一の場合には即座にアンディのバックアップに入れる構えだ。
一方、フブキのブリッジではシンノスケに指示された方向の警戒に当たっていたセイラがレーダー上に新たな不審船を捉えた。
「新たなアンノウン出現。数6、識別信号無し。方位3から4、+10から-5の範囲に展開しつつ接近してきます。本艦及びビック・ベアへの火器管制レーダーの照射を確認。明らかな敵対行動と判断、これより先の敵船を含めて敵船をAからGと呼称します」
「了解、本艦は敵船BからGに対応する」
シンノスケはフブキをビック・ベアの右舷側に移動させ、新たに出現した敵船6隻に対峙する。
何れも民間高速船を武装化した船のようだ。
「敵船C発砲!砲撃、来ます!」
セイラが警告する。
「射程外だ。しかも照準も甘い。小物の海賊らしい、間合いも理解していない」
敵の砲撃はフブキにもビック・ベアにも命中しない。
シンノスケはフブキの主砲を敵船に向けた。
レーダー照準ではなく、グラスモニターに映し出された目標を狙い、手動で照準を定める。
「シンノスケ様、オートでなくマニュアル照準ですの?」
ミリーナの問いにシンノスケは頷く。
「ああ、奴等に砲撃戦の何たるかを教えてやる」
そう言いながらシンノスケはトリガーを引いた。
照準用のレーダーが照射されていないため、ロックオンの警報が作動しないままシンノスケに狙われた敵船がフブキの主砲の直撃を受けて轟沈する。
「敵船C撃沈!残りの敵船は更に散開しつつ距離を取ろうとしています」
「なかなか対応が早いな。・・・でも、まだ遅い」
続けて次の目標に狙いを定めてトリガーを引くシンノスケ。
更に1隻、撃沈こそ免れたが、エンジン部を貫かれて航行不能になる。
「敵船G航行不能。残りの敵船は主砲の標準射程外に逃れました」
セイラの報告にもシンノスケは表情を変えない。
フブキの動きを止めて精密射撃モードを立ち上げた。
「ミリーナ、操艦を任せる、この姿勢を維持してくれ。ユー・ハブ・コントロール」
「アイ・ハブ・コントロール。お任せください」
シンノスケはグラスモニターの照準を最大望遠にする。
狙うは1番遠距離にいる敵船のエンジンだ。
「射程外に逃げたつもりだろうが・・・」
敵船の機動を予測し、その進路の先に向けて主砲を発射する。
狙撃艦としても運用できるフブキの主砲は威力こそ平均的な駆逐艦と同等だが、射程距離は並の駆逐艦のそれを遥かに凌駕し、その命中精度も極めて高い。
フブキの長距離射撃の餌食となった敵船が航行不能に陥った。
「敵船B沈黙。残りの3隻は更に距離を取ります」
「諦めた様子はあるか?」
「いえ、距離を取りつつ、我々を包囲しようとしています」
「間合いどころか、退き際も分からないのか」
まるで話にならない程の小物だ。
おそらく、宇宙海賊として大した修羅場を経験することなく中途半端な成功体験を積み重ねてしまったのだろう。
常に自分達が襲う側、狙う側だと思い込み、いつの間にか狙われる側に逆転したという事実が理解できないのだ。
「さっさと逃げればいいものを・・・」
シンノスケは呆れながら呟いた。




