海賊航路1
セーレット王国とシーグル神聖国の間に広がる国際宙域に進入して3日。
シンノスケ達は宇宙海賊に遭遇することなく順調に航行していた。
『海賊がうようよしてるって聞いていたが、順調なもんだな』
今、ビック・ベアの操舵ハンドルを握っていのはグレンだが、フブキとの回線を開いているグレンはやや拍子抜けしたような表情だ。
「そうですね。いくら海賊航路なんて呼ばれていても、必ず海賊に襲われる。なんてことはあり得ませんよ。そんなことになったら民間航路として成立しませんからね。確かに海賊被害が多い航路ですが、それは他に比べて、ということで、この航路における海賊の遭遇率は10パーセントに満たない程度ですよ。それでも他の宙域に比べると高いですけどね」
そんなシンノスケとグレンの会話を聞くセイラとミリーナは思う。
((私達が護衛任務に就いた時の海賊との遭遇率は5割を超えそうですけど・・・))
そんなセイラ達の内心を知らないグレンは大声をあげて笑う。
『このまま海賊に襲われなかったら護衛の費用が無駄になるな。ワハハッ!』
「護衛艦は万が一の保険ですよ。海賊が現れなくても費用はまけませんよ」
『ワハハッ!そりゃあそうだっ!』
シンノスケとグレンの能天気な会話にミリーナとセイラは互いに顔を見合わせた。
「セラ、分かっていますわね?」
「はい。第一級の臨戦態勢に入ります。アリーサさん、メリーサさんにも伝えてください。間もなく宇宙海賊に遭遇します」
「えっ?何か海賊出現の兆候でもありましたか?」
セラとミリーナのピリピリとした雰囲気にアリーサが首を傾げる。
「はい。根拠については説明し辛いのですが、間違いありません」
「ええ、たった今、海賊を呼び寄せる特大の旗が立ちましたわ」
妙な自信に溢れ、本気で警戒を高めているセイラとミリーナ。
その様子にアリーサは首を傾げながらもメリーサとの間に開いた専用回線で連絡する。
「メリーサ、よく分からないけど、海賊の襲撃に備えて」
『了解。こちらにもセイラさんから連絡があったみたい。こっちの2人もよく分からないみたいだけど、警戒態勢をとっているわ』
現時点においてレーダーに不審船の兆候などはない。
それでもセイラとミリーナはピリピリとした緊張感を身に纏っていた。
2人は本気で海賊の襲撃があると思っているのだ。
セイラ達が警戒態勢を高めてものの1時間も経たずに状況が動いた。
「レーダーに反応、アンノウン1!方位9+20、距離240+A。識別信号ありません!」
レーダー上に不審船を発見したセイラが報告する。
レーダー上に現れた不審船は1隻。
9時の方向、上方20度の位置から急速に接近してくる。
ケルベロスよりも遥かに優秀なレーダーを装備しているフブキだが、不審船が小型の高速船1隻だったこともあり、一気に距離を詰められた。
シンノスケは即座にグラスモニターを装着しながら護衛指揮を始める。
「戦闘用意!ツキカゲは不審船とビック・ベアの間に割り込んでビック・ベアを守れ」
『ツキカゲ了解しました』
「セラ、救難及び開戦信号を発信。併せて接近中の敵船に警告を実施する。レーザー通信を強制接続」
「了解しました。各信号発信。アンノウンに対して回線を固定しました」
シンノスケは接近する不審船に対して警告を開始した。
「接近中の所属不明船に通告する。こちらはアクネリア銀河連邦サリウス州自由商船組合所属の護衛艦フブキ。本艦は現在護衛任務中である。貴船は速度を落とし、所属を明らかにせよ!返答なく接近を続けるならば本艦は護衛任務遂行のため必要な措置をとる!」
シンノスケの警告に対して接近中の船は反応しないまま接近して来る。
「警告する!接近中の船は本艦の警告に対して返答するか、直ちに回頭せよ。本警告以後・・・」
「不審船が発砲!ツキカゲのシールドで弾きました。損害無し!」
「了解!該船の敵対行為を確認。ツキカゲ、反撃を許可する。敵船を排除せよ。撃沈もやむなし!」
『りょ、了解!反撃を開始します』
アンディのツキカゲが反撃を開始する。
敵船に対して砲撃を加えるが、速射砲の射程外、敵船を近づけないための牽制だ。
敵船は方向を変えつつツキカゲに対して攻撃を加えてくるが、こちらも射程外だ。
「シンノスケ様、本艦はどうするのです?援護には入らないのですか?」
ミリーナの問いにシンノスケは表情を変えない。
「該船の対処はツキカゲのアンディに任せる。アンディなら十分に対処可能だ。それに、あれは囮だ。本命は別に潜んでいるぞ。セラ、12時から3時の方向を特に警戒してくれ」
「了解しました」
「しかし、アンディの奴、腕を上げたな。なかなか効果的な牽制だ」
「えっ?」
シンノスケの嬉しそうな呟きにセイラが振り返る。
「いや、なんでもない・・・」
シンノスケの余計な一言に呼び寄せられた?宇宙海賊との戦いは始まったばかりだ。




