フブキ・ツキカゲ出航!
グレンからの依頼を受けて数日後、シンノスケ達は出航の準備を進めていた。
今回の仕事ではツキカゲを初投入することになるが、往復2ヶ月以上の長丁場に際し、アンディとエレンの2人でツキカゲを運用させるには荷が重すぎる。
そこでシンノスケはチームを2つに分けた。
1番艦フブキはシンノスケとセイラとミリーナ、2番艦ツキカゲはアンディとエレンに加えてマークスが2人のサポートに入る。
シンノスケは1人でも艦の運用が可能だし、セイラは優秀な通信・航行管制オペレーター、ミリーナも見習いとはいえ操縦から各種管制まで熟すことができる。
一方でアンディとエレンは護衛艦乗りとしては平均的な実力であるようだが、その実力をシンノスケが自分の目で直接確認したわけではない。
そこで操縦を始めとした艦の運用全てを完璧に熟すマークスをサポートに入れ、相互のバランスと連携を高めることにしたのである。
フブキの操縦席に着いたシンノスケは各種システムをチェックしながらエンジンを始動させた。
「よし、出航前チェック完了。セラ、ツキカゲはどんな感じだ?」
「了解、確認します。・・・ツキカゲ、こちらフブキ。本艦は出航前チェック完了しました。そちらは如何ですか?」
『・・・えっと、こちらツキカゲのエレンです。こちらもチェック完了、オールグリーンです』
シンノスケは頷く。
「それでは、フブキ、ツキカゲ両艦共に出航する」
「了解。港湾局管制センターとドック管理室に出航申請します・・・港湾局並びにドック管理室、こちら自由商船組合第8ドック、護衛艦フブキです。フブキ並びに僚艦ツキカゲの出航を要請します」
『こちらドック管理室了解しました。船台を移動させて船を押し出します』
『こちら港湾局管制センター了解。出航を許可します』
要請が受理されるとフブキとツキカゲの船台が移動を開始する。
先ず、ドックと宇宙空間の間にある気密庫まで移動し、ドックとの気密扉が閉まって完全に閉鎖されると気密庫の空気が抜かれ、その後に後方の扉が開き、2隻が出航位置まで移動した。
『管理室からフブキ、移動完了しました。船台のロックを解除します』
並んで出航位置に着いたフブキとツキカゲの船台のロックが解除される。
「船台ロック解除を確認。1番艦フブキ、出航する」
シンノスケがスラスターを噴射してフブキを浮き上がらせた。
「2番艦ツキカゲ、出航!」
フブキが船台から離れ、約5秒程後にアンディがツキカゲを出航させる。
出航したフブキとツキカゲはグレン達との合流宙域へと向かう。
カシムラ商会のフブキとツキカゲ2隻による初仕事が始まる。
ツキカゲのブリッジではアンディが緊張の面持ちで操舵ハンドルを握っていた。
「アンディ、大丈夫?」
エレンに声を掛けられて振り向くアンディだが、その首の辺りから「ギギギ・・・」という擬音が聞こえそうな雰囲気だ。
「だだだっ、だい、だい丈夫だだ・・・」
ツキカゲの新艦長として、初仕事を前に緊張しまくりである。
「全然大丈夫じゃない・・・。マークスさんからも何か言ってください」
エレンはアンディの隣の副操縦士席に座るマークスに助けを求めた。
自らを完璧に整備しているマークスは振り返る際に異音などしない。
「アンディさんもエレンさんも自信を持ってください。お2人の実力にこのツキカゲの性能、そして私のサポートが加われば何の問題もありません」
マークスの言葉にアンディは落ち着きを取り戻す。
「そう・・・だよな。俺達だって色々失敗したけど護衛艦乗りとしてやってきたんだもんな」
「そうよ。マークスさんの言うとおり、自信を持たなくっちゃ!」
「だよなっ!マークスさんもこう言っているんだしな」
笑顔を取り戻すアンディとエレン。
「いえ、これは私の意見ではなくマスターから言われた言葉です」
「「えっ?シンノスケさんが?」」
2人は顔を見合わせた。
「はい。マスターからは『アンディ達がガチガチに緊張していたら、取り敢えず自信を持てとでも言っておだてておけばいい』と言われてましたので」
「それって・・・俺達に言ったら意味が無いんじゃありませんか?」
唖然とするアンディ。
「そうですか?おだてる、という行為でお2人は自信を取り戻したのではありませんか?」
「確かに自信を持てたような気がしましたけど。おだてている、なんて本人に伝えちゃダメでしょう!」
「マスターからも特に口止めもされていませんでしたので真実を伝えただけなのですが?」
アンディはがっくりと肩を落とす。
「ヤバい、やっぱり自信が無くなってきた・・・」
落ち込むアンディから緊張の色は完全に消えていた。
その頃、フブキのブリッジでモニターに映るツキカゲを眺めるシンノスケ。
「そろそろマークスがやらかしている頃だろうな・・・」
「「??」」
1人でほくそ笑むシンノスケを見てセイラとミリーナは首を傾げた。