CA-21 ツキカゲ
CA-21ツキカゲが各種セッティングや護衛艦としての審査と点検を終えてカシムラ商会に引き渡される日がやってきた。
アンディとエレンを伴ってサイコウジ・インダストリーを訪れたシンノスケ。
3人は出迎えたハンクスに案内されてサイコウジ・インダストリーのドックに足を踏み入れた。
「すげぇ・・・・」
「これがツキカゲ・・・」
ドックに停泊しているCA-21ツキカゲを見上げてアンディとエレンが絶句している。
小型輸送艦とはいえ、全長150メートルの船体に800トンのペイロードを持つ貨物庫に加え、強力なエンジンを装備したツキカゲは、全てにおいてアンディが失ったビートル号とは比べようもない性能だ。
速度や機動性とは裏腹にずんぐりとした外観は見る者に対して重厚な印象を与えるツキカゲだが、それに加えて元々はライトグレーだった船体が漆黒に塗装されており、重厚さをより際立たせている。
「外部塗装に劣化が認められましたので、改めて全塗装しました。カシムラ様のフブキの塗色に合わせてみましたが、この色でよろしければ塗装費についてはサービスさせていただきますが?」
ハンクスの申し出にシンノスケは頷く。
「黒は個人的に好きな色です。逆にありがたいですね」
「それはよかったです。船体や動力部については点検でも異常は認められず、護衛艦としての審査も何の問題もなくパスしました。新品同様、とはいきませんが、ご満足いただけるものと確信しています」
説明しながらツキカゲの検査結果のデータをシンノスケの端末に送信するハンクス。
「確認しました。ありがとうございます、何も問題ありません」
データを確認したシンノスケが受領確認のデータを返送し、ツキカゲの引き渡しの手続きが完了した。
早速3人はハンクスの案内で艦内に入ってみる。
ツキカゲは基本的に2~3人の乗組員で運用する仕様になっており、ブリッジはフブキやケルベロスよりもずっと狭い。
艦長兼主操縦席と副操縦士席が並列で設置されており、左側の艦長席の左後方に総合オペレーター席があるのみ。
居住面については、ブリッジに直結した艦長室の他には乗組員用の個室が2部屋しかない。
但し、ツキカゲは人員輸送にも対応しているため、折り畳み式の簡易ベッドや座席が設置され、人員10人が滞在可能な多目的室が3部屋ある。
そして、800トンの物資を積載する貨物庫は専用のアタッチメントを使用することにより可燃性の液体燃料を積むことも可能だ。
艦内を一通り見て回ったシンノスケは満足げに頷いた。
「いい船だ。性能もそうだが、フブキよりも立派で大きなバスタブがある浴室がいい。さすが人員輸送にも対応した船だ。この船なら将来的に旅客業務も視野に入れてもいいな」
「ご満足いただけたようで何よりです。本艦は燃料、武器弾薬ともフル装備でのお引き渡しになりますので、直ぐにでもお役に立てると思います。点検や修理、ミサイル等の消耗品はお声かけいただければ直ぐに対応しますので、今後ともよろしくお願いします」
そう言って説明と手続きを終えたハンクスは一礼するとツキカゲを降り、見送りのためにドックの管制室に向かう。
ブリッジに残ったシンノスケとアンディ、エレンは出航準備に取りかかる。
「よし、早速俺達のドックにツキカゲを回航するか」
「「はいっ」」
出航準備のため配置につく3人。
エレンは総合オペレーター席に座り、アンディが副操縦士席に着こうとしたところでシンノスケがアンディの肩を掴んだ。
「おい、どこに座るつもりだ?」
「えっ?」
「このツキカゲの艦長はアンディだぞ。艦長席に座らなきゃ駄目だろう?」
「えっ?でも、この船はシンノスケさんが買った船ですよ?俺なんかが艦長席に座っていいんですか?」
「いいも何も、俺はそのつもりで2人を雇ったわけだし、ツキカゲもアンディとエレンに運用を任せるために買った船だ。ほら、ツキカゲ艦長、しっかり、責任を持って頼むぞ」
「はっ、はいっ!」
シンノスケに促され、喜びの表情を見せるアンディ。
ツキカゲ自体は中古の船だが、サイコウジ・インダストリーの心配りにより艦長席だけは新品の物に交換されていた。
真っ新の艦長席に座り、その座り心地を感慨深く確かめるアンディ。
以前のビートル号はサイコウジ・インダストリーとは別のメーカーの船だったため、操縦席の配置に違いはあるが、操縦に問題はなさそうだ。
アンディはツキカゲの各システムを起動し、エンジンを始動させ、手順に従ってチェックを済ませる。
「各システム、エンジン、オールグリーン。エレンの方はどうだ?」
「通信、レーダー、航行管制システムとも問題なし。大丈夫よ」
「よし、それじゃあ出航する。管制室に出航を要請してくれ」
「了解。・・・管制室、こちらツキカゲ。出航許可を要請します」
『こちら管制室、了解。これより船台を出航位置に移動させます』
ツキカゲを固定している船台が移動を始め、ツキカゲをドックの外へ押し出した。
『管制室からツキカゲ、出航位置への移動完了。船台のロック解除。出航を許可します』
アンディはスラスターを噴射してツキカゲを浮き上がらせる。
「ツキカゲ出航!」
アンディは勇ましい掛け声と共にスロットルレバーをゆっくりと押し込んだ。
ツキカゲがゆっくりと前進を始めた。
目指すは5分と掛からないカシムラ商会のドックだが、新しい船を任された2人にシンノスケがある提案をする。
「さて、このままドックに向かってもつまらないと思わないか?」
「「?」」
「せっかくだ、慣熟航行を兼ねてステーション周辺をのんびりと一回りしてみてはどうだろう?」
「「はいっ、行きましょう!」」
シンノスケの提案にアンディとエレンは口を揃えて答えた。




