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新たなる計画

 翌日、シンノスケは再び自由商船組合を訪れた。

 マークス、セイラ、ミリーナと話し合い、ある決断をしたシンノスケは法務担当のミリーナを伴っている。

 昨日と同じブースにアンディ達がおり、受付カウンターにイリスが座っているのを確認したシンノスケはリナのカウンターの前に立つ。


「おはようございますリナさん」

「あっ、おはようございますシンノスケさん、ミリーナさん。今日は早いですね?」


 他愛のない挨拶を交わしたシンノスケは表情を改める。


「はい、リナさんとイリスさんに折り入って相談がありまして、ちょっと時間をいただけますか?」

「えっ?・・・はっ、はいっ!直ぐに!」


 真剣な表情のシンノスケの申し出に何かを察したらしいリナはイリスに声を掛けると共にシンノスケとミリーナを別室に案内した。


 別室に通されたシンノスケはリナとイリスを前に本題に入る。


「アンディとエレンの窮状は昨日リナさんに聞きました。イリスさん、2人の様子は相変わらずですか?」

「はい、思うような求人が無く、2人揃っての採用は諦めつつあるようですが、なかなか決心できないようです」


 イリスの言葉を聞いたシンノスケは頷いた。


「実は、現在私達は事業拡大を考えているのですが、そのために新しい人材を採用しようと考えています」


 シンノスケの言葉にリナとイリス、特にイリスの表情が明るくなる。


「それって・・・」

「コホンッ。事業拡大と申しますと、どのような計画ですか?」


 思わず口を開いたイリスだが、リナが『シンノスケの担当は自分だ』と言わんばかりにイリスの言葉を遮った。


「シンノスケ様は事業拡大のために新しい船を手に入れて、小規模ながら商会を設立する予定ですの。尤も、商会設立に必要な諸々の手続きは私が行いますから問題ないのですが、新しく船を手に入れようにも人材が足りません。そこで、その船を任せられるクルーを2名程採用したいと考えています」


 リナとイリスは互いに顔を見合わせる。


「あのっ・・」

「コホンッ!で、採用の条件等は如何ですか?」


 どうでもいいことだが、リナはイリスに主導権を渡さない。


「事業拡大は貨物輸送部門を考えていますが、ある程度の護衛任務にも対応出来る一定の武装をした貨物船の導入を考えています。そこで、護衛艦業務資格を持つ者を採用予定です。経験や等級は問いませんわ」


 ミリーナの計画を聞いたイリスは思わず身を乗り出す。


「それでしたら、ぜひとも紹介したいセーラーさんがいます!」


 今度はリナが遮る間もなくイリスが声を上げた。


 まるで茶番のようなやり取りだが、シンノスケが事業を拡大しようと計画していたことは事実であり、計画を実行に移すに当たり、リナへの報告も含めて必要な過程でもあるのだ。


 そのような過程を経てイリスに呼ばれたアンディとエレン。

 不安げな表情を浮かべながら室内に招き入れられた2人はシンノスケの姿を見て表情を和らげた。


「あっ、シンノスケさん、お久しぶりです」


 頭を下げるアンディとエレンだが、席に着くなりシンノスケの話を聞いてポカンとした表情になる。

 2人揃ってころころと表情が変わり、忙しい。

 

「・・・というわけで、2人には新しく手に入れる予定の船を任せたい。やる気はあるか?」


 シンノスケの誘いに2人は唖然としているが、直ぐに正気を取り戻す。


「「・・・・・はいっ!よろしくお願いします!」」


 2人共飛びあがらんばかりの喜びようだ。


「それでは2人を採用しよう。・・・とはいえ、まだ新しい船を手に入れていないから、正式採用は新しい船を手に入れてからだな。なに、心配はいらない、仮に直ぐに船が手に入らなくても2人の採用は決定事項だから覆すことはない」


 そう言うとシンノスケは直ちにアンディ達との雇用契約を結んでしまう。

 2人を採用したことの情報を受け取ったリナとイリスは立ち上がって深々と頭を下げた。


「「本当にありがとうございます」」


 因みに、今まではリナはシンノスケの担当、イリスはアンディの担当だったが、シンノスケが商会を設立するに当たり、今後はリナとイリスが商会の担当をすることになったのである。


 アンディ達を採用したシンノスケとミリーナは組合を出たその足でサイコウジ・インダストリーを訪れた。

 予め新しい船を購入予定であることを告げ、条件に合う船を見繕ってもらっているのだ。


「今回は中古の小型貨物船をお望みということで、条件は護衛艦としても運用できること。で、よろしかったですね?」

「はい。それで間違いありません」


 いい加減シンノスケとの付き合いも長くなってきたこの担当者はサイコウジ・インダストリーのサリウス支社の第1営業課長補佐のハンクス。

 営業担当者として優秀なハンクスはシンノスケの条件に合う幾つかの候補をリストアップしていた。


「武装した貨物船でペイロードは500トン前後ですと、このあたりでしょうか?」


 ハンクスが示したのは民間用貨物船を武装化した一般的な護衛艦兼貨物船で、中古のみならず新造船でもシンノスケの予算内だ。

 どの船も条件は悪くないがシンノスケは表情を変えない。

 ハンクスは商談の際に必ずといっていいほど本命を隠しているからだ。


「ハンクスさん、もったいぶらないでください」


 シンノスケの言葉にハンクスは肩を竦める。


「カシムラ様との付き合いも長くなってきましたから私の手の内もお見通しですね。まあ、これはもったいぶっているというよりは私の商談のルーティンのようなものですからお気になさらないようにしてください」


 そう言うとハンクスは本命の船のデータを端末に表示した。


「ゲッコウ型輸送艦?」

「はい、サイコウジ・インダストリー製軍用小型輸送艦、CA-21ゲッコウ型2番艦のツキカゲです。既に退役した輸送艦で、当社で引き取った船ですが、まだまだ現役で運用できますよ」

 

 シンノスケは端末の画面をみて考え込む。


 流石はサイコウジ・インダストリーサリウス支社の課長補佐だ、提示された船はシンノスケの心を鷲づかんだ。

 そんなシンノスケの様子を隣で見ているミリーナ。


(これは決まりましたわね)


 ミリーナは第3の目の力を使わずとも未来が見えた。

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― 新着の感想 ―
なんか前話と脈絡なく話が進んでいて違和感しかない。
[気になる点] > ハンクスは商談の際に必ずといっていいほど本命を隠しているからだ。 熟練商人はお得意先顧客の傾向から最初に1番のお勧めを、その後で次点その他を紹介するもんだがなぁ。定番商談として準備…
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