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アイラ・1428M

 翌日、サイコウジ・インダストリーの担当者とメカニック達が大型のトレーラーに注文したガトリング砲を積んでやってきた。

 インダストリーの作業ドックで修理と取り付けを行うかと思っていたが、ユニット構成方式のケルベロスは武装の交換が容易なため、メカニック達の方が来てくれたというわけだ。

 しかも、修理と取り付けの作業は今日中に終わるらしい。


「XD-F00は軍用艦ですからね。有事の際に損傷した場合には速やかに修復して戦列に復帰する必要があります。そのための構造です」


 自社製品を誇らしげに説明する担当者。

 この様子なら直ぐにでも仕事を再開できそうだ。


 次に予定しているのはダムラ星団公国に赴いてのレアメタルの取引だが、通信も届かない航路を単独で長く航行する必要がある。


「すみません、一旦は保留したミサイルランチャーのミサイルの補充、やっぱりお願いしてもいいですか?」


 レアメタルの取引が上手くいくとは限らないが、貴重なレアメタルを抱えてダムラ星団公国まで航行するとなると装備は万全にしておきたい。

 シンノスケの言葉を聞いた担当者の目がキラリと光った。


「直ぐに手配します。実はこんなこともあろうかと小型ミサイルについても準備しており、何時でも納品できるように待機しているのですよ」

「こんなこともあろうかと?」

「はい。カシムラ様は元は宇宙艦隊に所属していましたよね?元軍人ならば艦を運用する際には万全の装備を整えるだろうと予想していたのですよ」


 担当者はそう言いながら会社に待機している他の社員に連絡を取っている。

 この担当者、やはりかなりのやり手らしい。

 そうと決まれば作業の立ち会いはマークスに任せて、シンノスケは新たな仕事に取りかかるために組合に行くことにした。


 組合に顔を出してみると、まだ早い時間にもかかわらず自由商人や、組合に仕事を依頼しようとしている人々で賑わっていた。

 受付も混雑しているので、とりあえず大型モニターに表示されている依頼の一覧を見てみる。

 せっかくダムラ星団公国まで行くのならレアメタルの取引だけでなく何か運送業務でもないかと見てみるが、モニターに表示されているのは少なくても100トンから、果ては1000トン以上にもなる依頼が多い。

 

「やはり小規模運送の依頼は殆ど無いな・・・・」

「・・・ちょっと!」


 シンノスケのケルベロスはそもそもが戦闘艦なのでペイロードに余裕が無い。

 元々30トン程しか積めないのに、既にレアメタルが5トン載っている。


「やっぱり受付で聞いて・・・」

「ちょっと!そこのアンタ!無視しないでよ!」


 突然背後から声を掛けられて振り向いてみると、そこに立っていたのは赤い艦長服を着た若い女性だった。

 無視をしたと言われても、そもそもシンノスケは若い女性に声を掛けられる心当たりがない。

 

「えっ?私ですか?」

「他に誰がいるのよ!」


 他に誰がいるかと問われれば、フロアには多くの人々が行き交っているのだが、その女性がシンノスケに声を掛けたのならば、他にシンノスケはいない。

 

「何かご用ですか?」


 シンノスケよりも明らかに年下に見えるが、初対面だし気を遣うのも面倒くさいので、仕事用の言葉遣いで対応してみる。


「貴方、護衛艦持ちでしょ?見ない顔だけど新人?」

「はい、シンノスケ・カシムラです。最近組合に登録したばかりです」


 声を掛けてきた女性はシンノスケを値踏みするように見ている。


「堅苦しい話し方ね。まあいいわ、私はアイラ・1428Mよ」


 アイラと名乗った女性、ファミリーネームが数字と記号の羅列は6325恒星連合国出身なのだろう。

 堅苦しい話し方だと言われたが、6325恒星連合国は長命種が多い銀河国家なのでシンノスケよりも若く見えるが、実年齢は分からないので結果的には正解だった。


「ところで貴方、仕事を探しているみたいだけど、そのモニターは物質運送に関する依頼のモニターよ。護衛艦業務の依頼はあっち」


 そう言いながらアイラは別のモニターを指示する。

 どうやらシンノスケが勘違いをしていると思って親切に教えてくれたらしい。


「ああ、すみません。教えてくれてありがとうございます。でも、私は運送の仕事を探していたのですよ」


 シンノスケの返答にアイラは信じられないといった表情を見せる。


「護衛艦持ちが運送業務?貴方そんなに大きな船を持っているの?」

「いえ、私の艦は30トン程度のペイロードしかありませんよ」

「30トン?そんなの儲けにならないじゃない。護衛の仕事を受けた方がよっぽど儲かるわよ」


 まさか30トンのペイロードに既に5トンの荷物を積んでいるとは言えない。


「まあ、ちょっとダムラ星団公国に行く用事がありまして。せっかくだから何か仕事を受けようかなと。手ぶらで行くのも勿体ないですからね」


 ジト目で訝しげにシンノスケを見るアイラ。


「ふ~ん、まあいいわ。なら余計なお世話だったみたいね。ごめんなさいね」

「いえ、お気遣いありがとうございます」


 悪意が無いのならシンノスケも礼を尽くす。

 礼を述べるシンノスケにアイラは笑みを浮かべた。


「シンノスケね、ホントに堅苦しい人ね。まあ、迷惑じゃなかったらそれでいいわ。じゃあね」


 手をヒラヒラと振りながらアイラは護衛依頼のモニターの方に向かって歩いて行った。


 依頼が表示されているモニターを見ても丁度良いものが見つからない。

 そんなとき、シンノスケの背後をリナが通りかかった。


「あら、カシムラさん。お仕事をお探しですか?丁度よかった」


 よく声が掛かる日だと思いながらも組合職員のリナに話し掛けられたのは都合がいい。

 

「はい。前の仕事でグレンさんからレアメタルを貰ったんでダムラ星団公国まで取引に行こうと思うのですが、どうせなら何か運送依頼でも受けてみようかと思いまして」

「運送依頼ですか?でも、カシムラさんの船ってペイロードはあまりありませんよね?」

「はい、30トン程ですが、グレンさんから貰ったレアメタルが5トンあるので、現実的には20トン程度の運送の仕事を探しているのですが」

「レアメタルですか?凄いですね。確かにダムラ星団公国なら良い取引が出来ると思いますよ。でも、そのモニターは大規模運送の依頼ばかりですよ。丁度カシムラさんにお伝えしたいことがあったので、そのついでに何かお仕事を見つくろいます。こちらにどうぞ」


 リナに招かれたのは組合の中にある応接室だった。

 シンノスケの前に紅茶を置いたリナが対面に座る。


「私にお話があるとか?」

「はい、先にそちらを済ませてしまいますね。先日カシムラさんから提出されたデータの解析が終わりまして、記録にあった6隻の海賊船の撃沈について正式に認められました。ですので、カシムラさんには討伐報酬とそれぞれに掛けられた賞金が支払われます」


 そう言ってシンノスケの端末に明細を送信してくるリナ。

 データを確認してみれば、それは今回の仕事の損失を埋められて、僅かに手元に残る額だった。

 今回の仕事は速射砲とミサイル12発の損失に加えて必要経費としてケルベロスのエネルギー等の支出があったが、結果として依頼料と討伐報酬、賞金を合わせると辛うじて儲けが出る計算だ。

 初仕事でマイナス利益だけは避けられたどころか、予定外ではあるが、グレンから貰ったレアメタルを加えればかなりの利益が出るだろう。

 シンノスケはリナに示された金額について確認データを送り返した。


「はい、ありがとうございます。報酬と賞金については今日中にカシムラさんのパーソナルデータに入金されますので後で確認しておいてください」

「分かりました」

「で、ダムラ星団公国への運送のお仕事ですよね。えっと・・・20トン以下の運送依頼は・・・」


 リナは端末でシンノスケの条件に合う依頼を検索する。


「幾つかヒットしました。・・・でも・・・お願いできるかな・・・」


 リナはブツブツと独り言を言いながら端末を操作していたが、その手を止めるとシンノスケを上目遣いに見た。


「実は、報酬は安いんですが、お願いしたい仕事があるんです」 

「とりあえず聞いてみます」


 リナは含みを持たせる言い方をしているが、シンノスケとしては聞いてみないことには始まらない。


「実は、穀物の種子をダムラ星団公国まで運んでもらいたいんです。量は15トン。ただ、小規模の業者さんからの依頼で、この仕事単体だと、必要経費と相殺されてしまい、利益にはならないかもしれません。それなのでこの依頼を単体で引き受けてくれるセーラーさんがいないんです。今までは他の依頼でダムラ星団公国に行くセーラーさんの船の余剰スペースに便乗させて貰ったり、ダムラ星団公国からこちらに来たセーラーさんで帰りの容量に余裕があるセーラーさんにお願いしていたんですが、今回はなかなか引き受けてくれるセーラーさんが見つからなくて困っていたんです」


 シンノスケはリナに示された依頼の内容を見た。

 確かに、運送専門の中型船や大型船でこの量と報酬では必要経費の方が上回ってしまうだろう。

 しかし、シンノスケのケルベロスはそれらの船よりは小型でエネルギー消費も少ない。

 ざっと計算してみたところ、途中で宇宙海賊等との交戦をすることなく航行できれば多少なりとも利益が出る計算だ。

 それに、今回の主目的はレアメタルの取引なので、半ばボランティアのようなこの依頼を受けても問題はないだろう。

 何事も経験だ。


「分かりました。この依頼、私が引き受けます」


 シンノスケの答えにリナの表情がパッと明るくなる。

 業務上の営業スマイルではなく無意識に出た笑顔だ。


「ありがとうございます、シンノスケさん」


 思わずカシムラではなくシンノスケと呼んだリナだが、あまりにも自然に呼んだため、呼ばれたシンノスケ本人もそのことには気付かなかった。

 本作の連載を始めて僅か10話にして総合ポイントが2000ポイントを超えていて、ジャンル別のランキングで日間と週間ランキングで1位になれました。

 今までの私の他の作品では考えられないロケットスタートと高評価をいただけました。

 本作を沢山の人に読んでもらえて嬉しく思います。

 これからも読んでくれる皆さんの期待に沿えるべく頑張ります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 高評価やったぜ。でも一ファンの目線から見たら、作品に評価が追い付いてきたという感覚だったり。 [一言] 担当者、やりおる・・・。戦闘データのこともあるし、もっと戦闘回数こなしてほしいのだろ…
感想一覧
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