宇宙クジラを救え1
方針を変更したシンノスケ達はフブキを停止させ、受信したクリック信号を発信したり、アクティブディテクターによる探索を開始した。
敢えて船を停止させたのは宇宙クジラの警戒心を和らげ、宇宙クジラの方から近付いてくることを期待してのものであり、一定時間停止して信号を発信し、変化がなければ場所を移動して同じことを繰り返す。
移動と探索を繰り返すこと半日、幾つかの小惑星が点在する宙域に入った時。
「宇宙クジラのものと思われるクリック信号をキャッチしました」
セイラの報告にブリッジ内が色めき立つ。
「マークス、レーダーに反応は?」
「反応認められませ・・いや、方位8-4の位置に漂流している小惑星に異変!形状が変化しつつあります」
「まさかっ、擬態か?」
モニターに拡大して映し出された小惑星、だったものが握った拳を開くように変貌していく。
「しかし、先程までは完全に周囲の小惑星と全く同じ反応でした。表面の鉱物反応まで同じとは、擬態だとすると完璧過ぎます」
マークスが『驚き』の声を上げる。
その間にも小惑星は姿を変え、やがて1頭の宇宙クジラが姿を現した。
「大きい・・・800メートルはあるな」
「映像含め、全ての情報の記録を開始します」
サンダース達が直ちに記録を開始する。
「サンダースさん、取り敢えずは刺激しないように船は停めておきますか?」
「そのように願います。先ずは記録と様子見を優先します」
「分かりました。マークス、クリック信号の発信は継続しつつ、アクティブディテクターを徐々に弱めろ。セラは宇宙クジラからのクリック信号に集中」
「「了解しました」」
沈黙するフブキに宇宙クジラが近付いてきて周囲を泳ぎ回り始めた。
『クククッ・・・ククッ・・ココッ・・クククッ・・・・』
ブリッジ内のスピーカーから宇宙クジラのクリック信号が流れる。
「コミュニケーションを取ろうとしているのか?ヤン、バターンを解析してみてくれ」
「了解しました」
僅かな情報も逃すまいとするサンダース達。
「凄い・・歌っているみたい」
セイラもクリック信号の全てを聞き逃すまいと集中しながら宇宙クジラの声に引き込まれてゆく。
宇宙クジラは一定の距離を保ちながらフブキの周囲を泳ぎ回り、一旦離れたかと思うと再び戻ってくるという行動を繰り返している。
「何だ?我々を誘っているのか?ヤン、宇宙クジラの行動とクリック信号に関連性は認められるか?」
「はい、確証はありませんが、ココッ、という信号は他の信号に比べて僅かに強い信号で、この信号が発せられると宇宙クジラがフブキから離れていき、戻ってくるという行動をします」
「やはり私達を何処かに呼んでいるのか?」
サンダースとヤンのやり取りを聞いたシンノスケはミリーナを見た。
「ミリーナ、2人を手伝ってくれないか?」
「私ですの?」
「ああ、ミリーナの目の力、読心で何か分からないかな?」
「宇宙クジラの心を?・・・面白そうですわね。やってみますわ!」
ミリーナはモニターの前に立つと額の目を開いて宇宙クジラを見つめる。
(しかし、モニター越しで分かるのかな?)
自分で指示しておきながら訝しげにミリーナを見るシンノスケ。
この時ミリーナがシンノスケの心を読んでいたら叱られたであろうがそうはならなかった。
そんなシンノスケを余所にミリーナはモニター上の宇宙クジラに集中する。
「・・・希望?・・・いえ、求め・・・何かを求めている?・・・そして、救い・・救いを求めていますの?」
ミリーナの呟きにヤンが声を上げる。
「ミリーナさん、宇宙クジラの心の流れをそのまま声に出してください」
ヤンの要請にミリーナが頷く。
「・・・救い・・・求める・・・」
『・・・ココッ・・ククッ・・・』
ミリーナの声と宇宙クジラのクリック信号が重なる。
「やはり、宇宙クジラは我々に救いを求めています!」
ヤンの結論を聞いたシンノスケはスロットルレバーに手を掛けた。
「ヤンさんの言うとおり、宇宙クジラが救いを求めているのだとしてもこの宙域ではなさそうだ。宇宙クジラが案内しようとしているならばついて行くべきだと判断します。サンダースさん、この先にどんな危険が待っているかは分かりません。どうしますか?」
「無論、お願いします」
「了解しました。フブキを前進させます。・・微速前進」
スロットルレバーをゆっくりと押し出し、フブキを前進させる。
フブキが動き出すと宇宙クジラはフブキを先導するように泳ぎだす。
「全員、周辺宙域の僅かな変化も見逃すな。宇宙クジラが人類である我々に救いを求める程の事態だ、何があっても不思議ではないぞ」
シンノスケは宇宙クジラを追ってフブキを航行させた。
宇宙クジラに先導されること数時間、フブキは小規模な小惑星帯の中を進んでいた。
「この中に何かあるのか?」
航行が困難な程の密度の小惑星帯ではないが慎重に進む。
やがてフブキの前方を泳ぐ宇宙クジラが小惑星帯の中の1つの小惑星の周囲を回り始めた。
「これは・・・もしかして、宇宙クジラの子供か?」
小さな小惑星だが、宇宙クジラの擬態だとすると体長は100メートル程度の大きさだろう。
これが宇宙クジラならば宇宙クジラの親子で、母親か父親の宇宙クジラが子供を救おうとしているのかもしれない。
「ハッ・・・嘘でしょう!シンノスケさん、これを見てください!」
突然声を上げたセイラがメインモニターに子供の宇宙クジラだと思われる小惑星の拡大映像を表示させた。
「これは・・・」
「なんて非道いこと・・・」
サンダースとヤンが驚きとも怒りとも聞こえる声を上げる。
映し出された小惑星、いや宇宙クジラの表面に2発の対艦ミサイルが突き刺さっていた。
不発弾だ。




