フブキ出航
出航予定日、シンノスケが指定した14時の5分前にはサンダースとヤンがドックにやってきた。
今回の2人は調査目的に同乗するのであり、所謂旅客業務ではないのだが、旅客業務に準じた乗船チェックを行った上で2人をフブキに案内する。
サンダース達は結構な量の調査機材を持ってきたため、居室はそれぞれ2人部屋を使用してもらうことにした。
「艦内で施錠されていない場所はブリッジを含めて自由に出入りしてもらって結構です。バスルームも空いていれば自由に使っていただいて結構いませんが、本艦のバスルームは1つしかなく、男女兼用なので、使用する場合には必ず内鍵を掛けてください。食事は定めた時間にこちらで用意しますが、それ以外にも軽食等が必要でしたら声を掛けてください。また、保冷庫に入っている飲み物等は記名のあるもの以外は自由に取っていただいて結構です」
一通りの説明を終えれば準備は完了。
いよいよフブキ出航だ。
ブリッジに戻ったシンノスケは操縦席に着き、各種システムを立ち上げてエンジンを起動させる。
モニター等のレイアウトは多少違うが、各種スイッチやレバー等の操作機器はケルベロスと同一規格なので慣れたものだ。
その間にセイラが関係部署への出航要請を進める。
「管制センターとドック管理室への出航申請、受理されました」
「了解。それでは定刻通り出航する」
「了解。・・・ドック管理室。フブキ出航します、ハッチ解放を要請します」
ドックの気密ハッチが開くと船台が動き出し、フブキが出航位置に移動した。
その間にシンノスケは最終チェックを済ませる。
「チェック完了。船体ロック解除、フブキ出航!」
船台のロックが解除されるとスラスターを噴射して船体が浮き上がり、ゆっくりと加速していく。
ケルベロスよりもエンジン出力が高いせいか、加速がよりスムーズだ。
「よし、いい感じだ。管制宙域を出たら巡航速度まで上げてダムラ星団公国に向かう」
シンノスケはダムラ星団公国へとフブキの舵を切った。
サリウス恒星州を出航して10日、フブキはダムラ星団公国の領域内に到達していた。
現在地から惑星リブリナまでは3日の行程だ。
「さて、ここまでは順調だったが・・・」
「進路先の宙域で小規模な戦闘が行われています!」
シンノスケの呟きを遮るようにセイラの報告の声が響く。
「了解、戦闘の規模は?」
「双方50隻前後、リムリア銀河帝国の部隊とアクネリア宇宙軍第18艦隊の第1、第2戦隊です。このまま進むと1時間以内に戦闘宙域に進入してしまいます」
シンノスケはレーダーと航路図を見比べた。
アクネリア艦隊の背後を迂回するのが最適だ。
「進路変更、右に10度。戦闘宙域を迂回する。ミリーナ、念のためサンダースさん達をブリッジに案内してくれ」
「分かりましたわ」
副操縦士席のミリーナが立ち上がる。
万が一戦闘機動を行うとすれば居室よりもブリッジにいた方が安全だ。
ブリッジから駆け出していくミリーナを見送ったシンノスケはフブキの識別信号と民間業務中であることを示す航行目的信号の出力を上げた。
コソコソ隠れるよりも民間船であることをしっかりとアピールした方が安全だ。
少なくともアクネリア艦隊から攻撃を受けることは無いはずである。
直ぐにミリーナがサンダースとヤンを案内してきた。
「本艦の進路先で戦闘が行われています。戦闘宙域を迂回する進路を取っていますが、不測の事態に備えてこちらにいてください」
シンノスケの説明とミリーナの案内でブリッジ内の補助席に座るサンダース達だが、2人共に非常に落ち着いている。
「私達のことはお気になさらずに。何もお手伝いできませんが、こういった危険には慣れています。そうでなければ辺境宙域の調査員なんてやっていられませんよ」
シンノスケは頷くと目の前で行われている戦闘を大きく迂回する進路を進む。
「第18艦隊、陣形変換。リムリア艦隊と本艦の間に割り込んで横形陣を敷いています」
マークスの報告にシンノスケはニヤリと笑う。
「おっ!民間船の俺達を守るようにシフトしている。流石サリバン大佐の艦隊だ」
シンノスケの言葉にミリーナは首を傾げた。
「あの艦隊の司令官をご存じですの?」
「ああ、俺が宇宙軍にいた時の上官だった方だ。大佐、当時はサリバン中佐だったが、彼が艦長を務める重巡航艦の操縦士をしていたことがある。中佐は機動力を生かした防衛戦が得意だったな」
そんなことを言いながら艦隊を刺激しないようにフブキを進めるシンノスケ。
アクネリア艦隊は民間船であるフブキを守るように移動しながらリムリア艦隊を押し戻している。
アクネリア艦隊に守られて無事に戦闘宙域を迂回して宙域を離れたフブキ。
「よし、とりあえず危険宙域を離脱できたな」
シンノスケは速度を上げて宙域を離脱した。
その後、フブキは順調に航行を続け、目的地である惑星リブリナにまで到着した。
「惑星リブリナの周辺宙域に異常ありません」
セイラの報告を受けたシンノスケは頷くとグラスモニターを装着した。
「了解。それでは惑星リブリナの大気圏突入シークエンスに入る」