心機一転
アイラの仕事を手伝うためにA884に乗り込んでいたセイラとミリーナが戻ってきた時、2人の留守中にリナがシンノスケを誘ってデートしていたことが露見すると、案の定2人は大激怒した。
「リナさん、ズルいです。シンノスケさんの新しい眼鏡、私がプレゼントしようとしていたのにっ!」
「何たる姑息!女狐で・・・いえ、女狐は私の立ち位置ですから・・・そう、ドロボウ猫っ、ドロボウ猫ですわっ!」
リナ自身が認めている抜け駆けについて怒るのは2人の自由だが、その怒りをリナにではなくシンノスケに向けてこられてはたまったものではない。
そのことについてシンノスケが抗議や弁明をしても2人は聞き入れようとはしないのだ。
「マスター、余計な言い訳は火に油です。こういう時、男性は黙って聞いているしかないのです。他の手は全て悪手、嵐が過ぎ去るのを待ち、その後に2人のご機嫌を取るのです」
見かねたマークスがシンノスケに耳打ちする。
「マークス、他人事だと思って・・・」
「はい、私には他人事ですから」
「今に見ていろよ、何れお前のために美人でピチピチの女性型ドールを2体手に入れて同じ思いをさせてやる!」
「何を言っているのですか?女性型ドールは購入者たるマスターの趣味嗜好が反映されるものです。生体組織外装が施されたタイプなどその最たるものです」
「だったらピチピチでなくメカメカならどうだ?」
「そういうことではありません。我々は基本的に性別や感情という概念がありません。そう見えるのは学習システムによる経験の蓄積の結果です」
「そんなことはないだろう。お前にも好みのタイプなんかあるんじゃないか?」
「タイプと言われましても、私にとってタイプとは型式を意味して・・・」
話がどんどんずれていくシンノスケとマークス。
「「2人で何をコソコソ話しているんですかっ」」
その挙げ句、文字どおり火に油を注ぐ結果になってしまった。
しかし、そんな騒動も直ぐに収束することになる。
武装を施し、各種手続きを終えたフブキがシンノスケのドックに搬入されると2人はその姿に圧倒された。
「これが私達の新しい船・・・。きれいな船・・・」
「フブキ、美しい船ですわ」
アクネリア銀河連邦自由商船組合所属の識別表示に漆黒の船体(シンノスケが塗装費をケチったため)のXC-F01フブキはケルベロスよりも大型でその存在感がまるで違う。
サイコウジ・インダストリーの強力なエンジンを4基搭載した軽巡航艦に匹敵する程の能力を持つ護衛艦だ。
主砲は駆逐艦クラスの威力の物に抑えられているが、射程距離と精密砲撃能力は高く、狙撃艦としても運用出来る程の性能だ。
副装備として、艦首に速射砲とレーザーガトリング砲が各1門、艦尾に同じく速射砲とガトリング砲が1門ずつ。
今までの護衛任務では後方からの追撃に対応する必要があり、後退しながら戦わなければならない状態に陥った経験を踏まえて艦尾側の装備も充実させている。
艦底部にはガトリング砲が1門。
他に自動迎撃対空機銃が船体各所に5基、ミサイルランチャーと宇宙魚雷発射装置、を装備しており、武装面で見ればケルベロスを上回る。
そして、ペイロードは100トンと、ケルベロスの3倍以上あり、シンノスケにしてみれば十分だ。
「さて、これが俺達の新しい護衛艦であるXD-F01フブキだ。ケルベロスよりも高速で重武装、積載能力も高い。このフブキで我々は心機一転、様々な仕事に邁進しなければならない」
「はいっ。今まで以上に頑張ります!」
「私も、必ずやお役に立てるクルーになってみせますわ!」
シンノスケの言葉を真剣な表情で聞くセイラとミリーナ。
「早速、慣熟航行といきたいところだが、実は我々は現在、危機的状況に立たされている」
「「えっ?」」
突然のシンノスケの告白に唖然とする2人。
そんな2人をよそにシンノスケは言葉を続ける。
「ケルベロスを失い、フブキを手に入れたおかげで我々の経済状況は非常に厳しい状態だ。このままでは蓄えが底をつくのも時間の問題で、セラとミリーナの給料を払うことも出来なくなる。兎に角、我々には時間がないのだ」
偉そうに言うが、つまりは金が無いので慣熟航行をしている暇があるなら仕事をしなければならないということだ。
「そういうわけで、早速仕事に取り掛かろう!」
「「はいっ!」」
片目を失う重傷を乗り越え、新型艦導入も慌ただしくシンノスケ達は早々に仕事を再開することになったのである。