03:クマさんの魔法の授業
翌日から、クマさんの魔法の授業は始まった。
昨日早めに寝た俺たちは、まだ朝日が昇る前に、村長宅前の広場に来ていた。
こんな時間でも起きている人は何人かいて、すれ違いざまに朝の挨拶を何度か交わした。
「まず嬢ちゃんに足りないのは、運動神経だな」
運動神経があれば、ゴブリンの攻撃を躱したり、素早く立ち回ることが出来る。
でも実際非力な幼女に運動神経など、期待しないで欲しいのだがな。
「なので身体強化を教えるぜ。嬢ちゃんはでかい土剣を軽く持ち上げていたろ。あれは身体強化ではなく、無意識に魔力を通した土剣を、土魔法で持ち上げているんだ。土剣を出して、まずその魔力の流れを意識してみるんだ」
俺は土剣を発動すると、持ち手から、土剣に流れる魔力の流れを探ってみた。
するとなんとなく、もわっとしたものが流れるのを感じた。
土剣の中にもそれを感じる。あたかも土剣が、腕の一部になったようだ。
「身体強化は、筋肉に魔力を通して強化するように働きかける魔法だ。それにはまず筋肉を意識して、イメージすることからしないといけないんだが・・・。幼い嬢ちゃんに・・・筋肉ってわかるか?」
俺は前世で体育の教科書や、漫画やアニメなどで、筋肉の図などを見たことがあるので、筋肉にかんしてのイメージはすぐに出来た。
目を閉じて、もわっとした魔力を足の筋肉に集中する。まずは右足、次は左足だ。
そして筋肉が強化するイメージは、アニメやゲームなどで見た、気功技のイメージでいいだろう。
なんだか両足に、オーラが出てきた感じがしなくもない。
ドピュ!
試しにそのまま軽くジャンプしてみると、頭が家の屋根まで届いた。
「何!? もう身体強化を成功させやがった! でもその高さ・・・着地は大丈夫か?」
このまま下に落ちたらまずい!
「土剣!!」
そう思った俺は、土剣を地面に突き立てて、それを支えにして落下を回避する。
そしてそのまま徐々に土剣を横に傾けて、ゆっくりと着地した。
「まったくヒヤヒヤさせやがるぜ。まさか一発で身体強化をやってのけるとは、思わなかったけどな。まあ、今みたいな過度な身体強化は控えることだ。嬢ちゃんの幼い身体には、反動がでかすぎるからよ。今の3分の1くらいの強化で意識してみな。それとあのレベルの強化なら、3分の1の身体強化でも、筋肉以外の場所への反動が心配だな。体の全体の強度も上げないと、身が持たないかもな」
身体強化は、筋肉以外にも作用するのか・・・。
今みたいなジャンプで、着地によるダメージを受ける事態も回避したいし、習得しておくのもいいかもしれない。
俺は次に体全体の皮膚、骨、筋肉、内臓と順に意識して、丈夫になるイメージをした。
そして試しに近くにある木を、パンチしてみる。
テシテシ!
幼女の力で微妙な感じだが、全く痛みを感じた様子もないし、拳もまったく無傷のようだ。
そしてさっきの3分の1の、身体強化での軽いジャンプを実行する。
屋根に届かないまでも、俺の身長の2倍くらいの高さは飛んだだろうか?
そしてそのまま落下。
ドン!
着地の瞬間衝撃にあったが、体に痛みは全くなかった。
ずいぶん丈夫な体になったものだ。
気づくとクマさんが、難しい顔でこちらを見ていた。
「嬢ちゃんよう・・・普通嬢ちゃんみたいな幼い子供が、そんな早さで身体強化を習得するとか、ありえねえからな」
「そんなはずないですよ。現に俺が出来ていますし・・・。俺みたいに出来る子供が他にもいるかもしれませんよ?」
魔法のあるこの世界なら、俺と同じような子供が他にいてもおかしくはない。
「それはねえ。いい機会だから嬢ちゃんに常識も教えといてやる」
常識? クマさんの言う常識とは魔法の常識のことだろうか?
それは俺にとって、非常に興味深い話だ。
ぜひ聞かせて欲しいものだ。
「普通、魔力は10歳くらいから発現するんだ。それから数年かけて、魔力を上げながら魔法を習得していくもんだ。嬢ちゃんのように5~6歳くらいの幼い子供が、魔法を使うこと自体普通はありえねえ話だ。今回みたいなこともあるから、自重するなとは言わないが、自分が普通でないことは、自覚しとくんだな」
普通でないなら俺はいったい何者に転生したんだ?
この容姿から人間ではないかとは思っている。
実際この世界に来て、鏡は見ていないが、実はバンパイアだったりしないよな?
この件が終わったら、自分の正体を確かめるために、色々旅をしてみるのもいいかもしれないな。
「ヨナスが帰ったぞ!」
その時門の方から、ゴブリンの襲撃に遭ったウエストウッド村を偵察に行った、ヨナスさんの帰還の知らせがあった。
現在俺は、村の男たちとともに、村長宅に集合している。
なぜこんなところに場違いな幼女がいるんだという、居心地の悪い目で村の男たちに見られるが、一番事情を知っているのが俺だから、抜け出せない。
「ヨナスよ、ウエストウッド村で見てきたことを、村の衆に話してくれ」
「はい。結論から言いますと、たぶんウエストウッド村に生き残りはいないでしょう」
「なんだと!」「それは本当かヨナス!?」
そのヨナスさんの知らせに、その場は騒然となった。
「皆の衆、静かに! ヨナスよ、続けてくれ・・・」
村長の一言で、その場はまた静まり返る。
「そこの嬢ちゃんの言う通り、ウエストウッド村には複数のゴブリンが住み着いてました。その数は300ほど、ゴブリンの上位種も1体いるのを目撃しています」
「な! 間違いないだか!?」
「そんな奴らがこんな村に来たら、一溜まりもねえぞ! 」
「この村はいってえどうなんだ?」
その場は再び騒然となり、男たちの怒号や、不安の声が上がる。
もっとも俺がウエストウッド村にいた時には、ゴブリン300体もいなかったはずだ。
俺と戦った後全部一度逃げて、再び300体も援軍を呼んだのか?
俺がゴブリンを何体か殺めたから、俺を倒すために集まったのかもしれないな。
「ダカン! 悪いが街まで行って、冒険者組合にこのことを知らせてくれ!」
村長の命令で、村の男衆が即座に行動を開始する。
「村長。こんなこと言うのは何だが・・・たぶん冒険者は間に合わねえ・・・。ゴブリンどもは数日後にはこの村へ襲撃に来るとオイラは予想している」
「そんな! それが本当ならこの村は・・・」
「村長。この村で戦える奴は何人くらいいるんだ?」
クマさんは、村の戦力について村長に尋ねた。
「成人した男衆が50いる内の、実際、弓などの武器を使って戦えるのは狩人くらいで、10人くらいですぢゃ」
その絶望的な数字を聞いて、何人もの男たちが項垂れ、暗い空気になる。
「なら奴らに攻めて来られたら、一溜まりもないな・・・。とりあえずこの村は、木の塀で覆っただけの護りになっていたな。そいつを強化することをお勧めするぜ」
確かにこの村の塀は、木の雑な造りの塀だった。
あんな塀じゃあ簡単に壊されてしまうかもしれない。
ウエストウッド村も、同じような塀だったが、例外なくゴブリンたちの侵入を許している。
むしろ今までよく持ちこたえたと思う。
「塀を強化したいのはやまやまですが、あれ以上の塀を造れる者がおりませぬ」
「ならオイラにまかせとけ。なんとかなるかもしれねえ」
と言いながらクマさんは俺の方を見た。
クマさんはその塀を俺に造らせるつもりなのか?
もしや新魔法でも教えてくれるつもりだろうか?
もっともこの村を救いたいと言った以上、俺に断る選択肢はないが・・・。
俺は村長と村の男達とともに、その後クマさんに連れられて、村を囲う塀の一部分に来ていた。
「いいか嬢ちゃん。この塀の下の地面に手を付けて、土に魔力を流すんだ」
俺はクマさんの言う通り、地面に手を付けて、土に魔力を流し始めた。
しばらくすると塀の下の土に、魔力が行き渡った感じがする。
「そのまま土を、魔力ごと押し上げてみな」
俺は地面の土を、魔力ごと押し上げるイメージをする。
するとボコ!と突然地面が押し上がった。
「何だべ今の? 魔法だべか?」
「あんな幼子が魔法を?」
幼女が魔法を使う様子に驚き、騒然とする村の男たち。
だがそんな男たちを尻目に、クマさんの指導は続く。
「そのまま壁を造ってみな。土を圧縮するイメージをして、壁を丈夫にするのを忘れるな」
俺はクマさんに言われるまま、壁を造った。
すると壁は木の塀を押し上げて、ゴゴゴと出現した。
「そのままじゃあ。時間経過で嬢ちゃんの魔力が壁からなくなったとたん、壁の形を維持出来なくなる。砂と砂が一粒一粒、繋がるイメージもついでにすると、嬢ちゃんがいなくても形は維持できるぜ」
なるほど。魔力で形を維持している壁なら、魔力がなくなれば、その形を維持できなくなるだろう。
そこで砂と砂の粒子を結合させて、壁を石みたいにするんだな。
そしてそこに、丈夫な3メートルほどの高さの石の壁が出来上がった。
村長も村の男衆もその様子を見て驚いているようだ。
「なるほど。この丈夫で高い壁ならば、ゴブリンもやすやすとは超えて来られませんな・・・。ただその娘子に、この村の周囲を覆うだけの壁が造れますかの? こう言っちゃなんぢゃが、村の周囲は結構距離がありますぞ」
俺の魔力量を心配する、村長から物言いがついた。
「多分その嬢ちゃんなら大丈夫だろ。せいぜい移動でへばるくらいだぜ」
クマさんは鑑定魔法でも使えるのだろうか?
それとも相手の魔力量が見えるのかな?
何を根拠にクマさんがそう言っているのかわからないが、自信満々なのは伝わってくる。
村長はそれを聞いて、怪訝な顔つきでこちらを見ている。
俺の魔力の限界を確かめる上では、いい機会かもしれない。
でも魔力枯渇になった時、この世界ではどうなるかは気になるところだ。
「ところでクマさん。魔力枯渇したらどうなるんですか?」
心配になった俺は、クマさんに聞いてみた。
「人間は生命維持にも魔力を使っている。しかし本能的に生命維持にかかわるほど魔力を使おうとすると、自動で制限されるんだ。つまり魔力枯渇する前に、生命維持にかかわりそうになると、魔法は使えなくなる」
どうやらこの世界では、魔力枯渇はしないらしい。
なら遠慮なく魔法がぶっぱなせる。
そんなわけで、俺は壁をバンバン造った。
俺が壁を造り上げる度に、村人はお祭り騒ぎだ。
そのうち子供たちもやって来て、俺が地面に手をつくと、「壁出ろ~」などと言っている。
そして壁が出れば嬉しそうにはしゃぎまわる。
娯楽などない世界だ。俺の土魔法はいいエンターテインメントになっているのだろう。
そして昼過ぎにはこの村の周囲を、石の壁で覆うことが出来た。
俺の魔力はそれでもなお、余裕があるようだ。
いったい俺の魔力の限界は、どこまであるんだろうか?
その後自分の成長が気になった俺は、再びステータスを確認することにした。
「ステータスオープン」
名前 リンネ(女)
体力 弱(少し疲れた)
魔力 やっと3分の1減ったところ。
物理攻撃 弱
魔法威力 ?
適性魔法
土魔法
習得魔法:土剣、土壁
特技 身体強化
土魔法に土壁が追加されたのと、特技のかけっこが身体強化になっている。ていうか、身体強化は特技に入るのか?
そして相変わらずアバウトな俺のステータスウィンドウ。
魔力が3分の1減ったということは、この村を囲う防壁を、3周は造れるということか?
ならば今日はクマさんに、戦う手段をもっと伝授してもらっても、いいかもしれない。
「聖獣様。儂らも聖獣様とともに戦えるよう、弓矢などの武器を準備しようと思いますぢゃ」
「ああ。戦える奴は少なくても、この防壁に護られながらなら、それなりに戦えるだろう。準備しとくに越したことはないな。オイラたちはその間、魔法の強化に励むとするぜ」
こうして俺は、次々と戦う手段を、クマさんから伝授されることとなった。
【★クマさん重大事件です!】↓
お読みいただきありがとうございます!
ほんの少しでも・・・・
「面白い!!」
「続きが読みたい!」
「クマさん!」
と思っていただけたなら・・・
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