18:ヘカテーの怒り
「クマさん・・・・ヘカテーちゃんがご立腹って・・・いったいどういうことですか?」
「とりあえずこのスマホに出てくれ」
現在私はクマさんに、ヘカテーちゃんがご立腹の件を、尋ねていた。
それは私が葵ちゃんと稲作に興じた、半年後のことだった。
私はクマさんに事情を聴くために、街の城門の外にやってきたのだ。
それはこの異世界で目立つ、スマホでの会話を、隠すためでもある。
スマホは現実世界から私が持って来た実物を元に、シーワン国で開発したものだが、この異世界では、オーパーツ的なものになるため、秘匿しているのだ。
城門の外には夜の暗闇に隠れて、空を飛んでやってきた。
孤児院から城門の外なら、空を飛んで行けば一瞬だ。
「もしもし・・・リンネですけど・・・・」
『むむむむむむ!! リンネ!! いつまでもいちゅまでもいちゅまでもいちゅまでも!! わりゃわを待たせる気にゃの!? 葵と仲良く稲作なんてしちゃってわりゃわだって〇□××△×!! 〇××△@□!! 〇〇□・・・・・』
スマホに出るとすぐに、ヒステリックなヘカテーちゃんの声が聞こえて来た。
途中から妙なしゃべり方で、言葉が理解できなくなったが、つまりは、とっとと葵ちゃんを、シーワン国へ連れてこいということだろう。
まだたったの半年だというのに、なんとわがままなお子様だろうか?
『まあまあヘカテー姉さま・・・・こんなに目を泣きはらして・・・可哀そうに・・・・』
どうやらアイテールが、フォローに出て来てくれたようだ。
『リンネ! ヘカテー姉さまを、あまりからかってはだめよ! このままでは世界のピンチよ!』
べつにからかってぬぇえ!
それにヘカテーちゃんのヒステリーを、さらっと世界の運命と天秤にかけないでいただきたい!
「そんなに急かすなら、やっぱり私が葵ちゃんを連れて、超高速で空を飛んで、シーワン国に向かった方がいいんじゃないですか?」
私には最近になって目覚めた、フェニックスの能力、超高速飛行がある。
この飛行は火と風の魔法を駆使して、数時間でこの世界を周回してしまうという、驚異の飛行魔法なのだ。
『それは駄目よリンネ・・・・。もう説明したはずだけど、忘れたのかしら?』
そうだった。私達原初の者には、転生者に関する、決まりごとがあるのだ。
確か転生者を悪い方向に導かないために、出来るだけ高度な力に頼ることをさせず、この異世界の世知辛さを、学ばせていくという決まり事だった。
それでは葵ちゃんに、当初の目的を思い出させる他あるまい。
今や孤児院にどっぷりとつかり、最近経理まで任せられ始めた葵ちゃんに・・・・。
私はさっそく葵ちゃんを呼び出し、話を持ち掛けることにした。
「葵ちゃんはいつまでこの孤児院に、滞在するつもりなんですか?」
「・・・・そうだね。私帰らなきゃいけないところがあったんだった・・・・」
葵ちゃんは、少し俯きながら、悲し気にそう口にした。
もしかして葵ちゃんは、この楽しい孤児院に、いつまでもいたいと、思い始めていたのかもしれない。
だが自分の本当の目的を思い出し、悲しくなったのだろう。
そしてそれはまるで、これから知るであろう現実を、予期しているかにも見えた。
私は残酷だ・・・・。彼女が二度と故郷に帰れないことを知りながら、それを教えもしない。
それどころか、その原因の一端を、担ってしまっているのだ。
だが彼女は行かねばならない。
真実を知るために、シーワン国へ・・・・。
「私・・・シーワン国っていうところに、行かなきゃいけないんだ・・・・」
葵ちゃんは再び私に目を向けるとそう口にした。
葵ちゃんは女神の導きにより、シーワン国へと向かう目的を与えられている。
彼女はシーワン王国で、女神に会うことで、故郷へ帰れると信じ込んでいるのだ。
その真実を語るのは、葵ちゃんをこの異世界に召喚した女神・・・・ヘカテーちゃんの役割だろう。
「奇遇ですね・・・・。実は私も・・・シーワン国へ用事があったんです」
「もしかしてリンネちゃんも・・・・?」
「そのことについては、今は何も言えませんが、いつか必ずお話しましょう・・・・」
私が転生者であることは、彼女は薄々勘付いているだろう。
だが私の口からそれをはっきり話すのは今じゃない。
こうして私と葵ちゃんは、シーワン国へ行くための、準備を進めることになったのだ。
「えっと・・・・リンネちゃんは、シーワン国に行く方法って知ってる?」
このソロモン獣人国から、シーワン国へ行く手段は、いくつも存在している。
まず陸路から直接、シーワン国へ向かう方法だが、10000キロも離れたシーワン国へ、陸路で行くのは、例えUFO型ゴーレムヘンツさんに乗ったとしても、一ヶ月近くかかる上に、魔物との戦闘の繰り返しとなる。
クマさんや私はともかく、葵ちゃんには、過酷な旅となるだろう。
次に船で向かう方法だが、ソロモン獣人国の造船技術は、直接シーワン国を船で目指せるほど高くはない。
もしそれでも船を使うとしたら、まずは船でエラシア龍王国へ向かい、その後はイーテルニル王国、エテール聖国と経由して、ハーピー国際空港からシーワン国を目指すのが安全だ。
ところが現在ソロモン獣人国と、海峡を挟んでその北にある、エラシア龍王国とは国交を開いていないため、直接船で向かうことは出来ない。
大回りしてエテール聖国か、イーテルニル王国に行くとしても、造船技術が遅れたこの国の船では、たどり着くことは不可能だろう。
一番可能性があるのは、ホウライ王国からの魔道船の、定期便を待つ方法だ。
ホウライ王国の魔道船は、遥か東のホウライ王国から、イーテルニル王国まで辿り着ける、世界で唯一の船だろう。
当然魔道船は、シーワン国も経由地に含んでいるのだ。
「ホウライ王国の魔道船なら・・・・あるいはシーワン国へたどり着けるかもしれません・・・・」
「それじゃあ時間を見付けて、港街に向かい、そこで情報を集めましょう!」
確かに港街で情報を集めれば、魔道船の入港日が、わかるかもしれない。
だが魔道船の定期便は、半年に一回程と非常に少ない。
しかもいつ来るかもわからない船だ。
最悪あと半年は、待たなければならない可能性だってある。
魔道船の入港日が、早ければいいのだが・・・・。
【★クマさん重大事件です!】↓
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