16:聖獣クマジロウの受難
クマジロウ視点~
嬢ちゃんにしゃべることを、封じられちまった。
それはアオイとかいう転移されてきた少女に、こちらの正体がバレないようにするためだ。
オイラは聖獣で、嬢ちゃんは原初の者だ。
ちなみに原初の者ってのは、古代に存在した最初の人間や、エルフ、ドワーフなどにつけられる名称で、嬢ちゃんは原初の人間にあたる。
ただ嬢ちゃんが原初の人間本人というわけじゃあねえ。
原初の人間なのはお母様・・・アイテールだ。
その魔力を直接引き継いだ存在もまた、原初の者とよぶんだぜ。
嬢ちゃんはオイラ達聖獣5柱が、アイテールと同じ様な存在を生み出そうとして、この世に生まれ出た存在だ。
人はその原初の者達を、神とよんでいるがな・・・・
その正体を隠すために、オイラは普通の従魔を演じ、しゃべらないようにしなくてはならない。
それはお母様から命じられ、聖獣や原初の者であることがバレないように、葵を見張りつつ、シーワン国へ導くためだ。
それはわかっちゃあいるんだけどよ・・・・
正直聖獣であるオイラは、上位である嬢ちゃんの命令には逆らえねえ。
嬢ちゃんにそれを知らせてねえから、嬢ちゃんはそのことを知らねえのは当然だ。
だがあんな風に言われちまうと、命令と受け取らざるを得ない。
「いいですかクマさん! これからしゃべるのは禁止です! なぜなら私達の正体がバレないようにするためです!」
オイラが一言でもしゃべれば、聖獣であることがすぐにバレちまう。
それはしゃべる獣は、聖獣であるという、言い伝えのせいだ。
だがしゃべれないのは正直辛い・・・・。
オイラお喋りだからよう。
だがその原初の者の命令にも、抜け穴はある。
命じた原初の者に見られないようにすれば、しゃべることが可能なのだ。
だからオイラ裏で子供達と、内緒だと言って、よくおしゃべりしていたぜ。
当然嬢ちゃんの魔力感知なら、どこにいてもオイラの行動が探れる。
一言でもしゃべろうものなら、飛んできても可笑しくはねえ。
だが現在嬢ちゃんは、アオイを見張るので精いっぱいだ。
また街の外に出現した、地竜アストロンの様子も気になるようで、そちらも気にかけている。
この街に巣食うならず者の存在も、ずっと魔力感知で追いかけている。
そんな状態で料理でも始めれば、どうでもいいオイラの監視なんて、しなくなって当然だ。
オイラの魔力感知で、嬢ちゃんの監視が外れたこと確認すると、すぐさま口を開いて内緒話を始める。
「クマちゃんは聖獣なの?」
「内緒やで~? 飴ちゃんやるさかいに・・・・」
「「わああい! 甘いお菓子だ!」」
子供は口も軽いし、賄賂くらいではあまり効果もない。
だが子供が聖獣が出たと言っても、滅多に現れないオイラ達のことだ。
まず大人は信じようとはしないだろう。
まあばれないようにするために、色々ヒヤヒヤする場面はあったがな。
それなりに楽しい、孤児院生活を満喫したぜ。
オイラが子供達の中で、一番気になったのはビーゼルという少年だ。
このビーゼルという少年は、ビーグル犬の獣人なんだがよお・・・・とにかく手癖が悪い。
人の物をすぐに盗ろうとしやがる。
それは孤児院に来る前の、周囲の環境が影響していることは間違いねえ。
盗んで奪われてがあたりまえの環境に慣れちまうと、人は盗みがあたりまえになっちまう。
それを止めさせるには、教育が必要だぜ。
盗みがなぜいけないのか、盗むことで他人をいかに傷付けるのか、それによってどう争いに発展するのかを、言って聞かせなきゃならねえ。
盗まれるのが悪いとか、騙されるのが悪いとか言う連中はいるが、あれはいけねえ・・・・。
そんな常識を子供が刷り込まれれば、盗みやスリが、あたりまえの大人に育っちまう。
そんな大人が増えれば、治安は乱れ、必ずその影響が周囲にも表れるだろう。
周りを見渡せば、ろくでもねえ奴らばかりじゃあ笑えねえしな。
人間の中にはそういう連中がいるのも確かだが、奪い奪われての歴史があるのも理解している。
かつて古代の王達は、他国から奪い、略奪を繰り返したと記憶している。
だがその結果自らも奪われ、最後には命を奪われる結果になった。
そんな王の悲惨な話は、いくらでも転がっているぜ?
だがビーゼルはアオイと嬢ちゃんの広めた稲作で変わっちまった。
初めは疲れるだのなんだのと、うだうだと文句を言っていやがったが、皆で収穫して、自分達で育てた白米を食って、満面の笑顔を浮かべていやがったのさ。
「俺・・・自分の大切なものを始めて手にした気がするよ・・・・」
苦労して育てた白米が、自分の大事な宝物だってことを、気付きやがったんだ。
オイラがからかい半分に、その白米をとりあげたら、血相変えて怒りやがった。
「これでわかったろ? 盗みがどんなに他人を傷付けるかをよぉ?」
そう言って白米は、返してやったがな。
だが大事なもんってのは、本当は心にあるんだぜ?
宝物の価値ってやつは人によって違うんだ。
だから小馬鹿にした態度で、自分に大事なものじゃないからって、簡単に奪っちゃあいけねえ。
とくに偉ぶっている奴は気を付けやがれ!
気付かないうちに他人から、色々と奪っているかもしれねえぜ?
「なんかクマさん色々済みません・・・・」
そんなことを考えていると、なぜか嬢ちゃんに謝られちまった。
確かにしゃべるっつうのは、オイラにとっちゃあ宝だがよぉ・・・・
嬢ちゃんはそれに気付いちまったのかもしれねえな。
まあ頬をつねってやったら、いつもの嬢ちゃんに戻ったがよお。
まあ・・・この嬢ちゃん、リンネのことは、嫌いになれねえぜ。
正直でお人好しで、何にでも首を突っ込みたがる。
そんな嬢ちゃんだから、放っとけねえのも確かだ。
【★クマさん重大事件です!】↓
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