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19:エインズワース侯爵家

「ようこそエインズワース侯爵家へおいでくださいました」

 

 

 エインズワース侯爵家執事、ギルバートさんの案内を受けて、私たちはお屋敷の門をくぐる。


 現在私は、数日前に予定していたエインズワース侯爵家への訪問のため、クマさんとアルフォンスくんとともに、エインズワース侯爵家のお屋敷にやって来ている。


 もちろん侯爵家のクリフォードくんと旅をともにした、護衛のダレルさんとオーブリーさんも、アルフォンスくんの護衛としてついて来ている。

 クマさんと、私だけでも護衛は務まるのだが、子供だけで大人の護衛がいないというのは、外聞が悪いらしい。


 門をくぐるとそこには、エインズワース侯爵家の方々が揃い、お出迎えしてくれた。


 

「やあ久しぶりだね。エテール家の方々。あの旅以来だ」



 まずはクリフォードくんの、挨拶から始まった。


 クリフォードくんの後ろには、侯爵家当主と見られる初老の男性と、侯爵夫人、エイリーン嬢がおり、その後ろにはメイドのメイアちゃんや、魔術師のクリスティーナさんの姿も見える。



「ハハハ! 随分と大きくなったなアルフォンスよ」



 立派な口髭をはやした、細身であるが逞しいナイスミドルなおじさんが、クリフォードくんの後ろから現れる。

 豪華な服に身を包んでいることから、このおじさんがエインズワース侯爵家当主なのだろう。



「本日はお招きいただき、ありがとうございます。今日という日を、とても楽しみにしておりました」


「ハハハ! そう畏まるな! フォンティール伯爵は元気にしておるか?」


「はい。一時はご迷惑をおかけしましたが、無事領が立ち直り、元気に仕事に励んでおります」



 貴族になるには、上位の貴族の後見人が必要と聞いたことがある。


 領地の内情を話題にしたり、エテール家のフォンティール伯爵を気遣ったり、もしかしたらエインズワース侯爵家は、エテール伯爵家の後見貴族なのかもしれない。



「ハハハ! それは重畳。

 ところでそちらは聖獣殿とお見受けするが・・・その隣の黒髪の幼い少女はもしや?」



 ナイスミドルなおじさんは、一頻り笑った後、クマさんから私に視線を向ける。



「こちらは今回、領の立て直しに貢献しました。リンネでございます」


「お初にお目にかかります。リンネと申します」



 ここで紹介された私は、カーテシーで挨拶する。



「ハハハ! 私はエインズワース侯爵家当主、チャールズ・イーテ・エインズワースだ」



 やはりこのナイスミドルなおじさんが、侯爵家当主だったようだ。



「君がエテール領に如何にして貢献したのか知りたいところではあるが、妻のアナベルと、娘のエイリーンもいつ紹介してくれるのかと首を長くして待っておるのでな。あ! エイリーンとは初対面ではなかったか?」


「エインズワース侯爵家伯爵夫人、アナベル・イーテ・エインズワースよ。よろしくね」


「エイリーンよ。数日ぶりね」



 そして全員の自己紹介が終わり、私たちはお屋敷の中へと案内された。


 現在は夕食時なので、案内されたあとは、客間で談話をしながら食事だろう。

 クリフォードくんによると、エインズワース侯爵は美食家であるらしい。ならば食事は期待できるだろう。


 客間に案内されるとまず、エインズワース侯爵が一番上座に座り、エインズワース侯爵の左に侯爵家一家が座り、その向かいに、アルフォンスくん、私、クマさんと順番に座る。護衛のダリルさんと、オーブリーさんは私たちの後ろに立つ。


 全員が着席すると料理が運ばれてくる。

 魚のムニエル、牛らしきステーキ、山菜のスープ、白身魚のカルパッチョサラダが順番に運ばれてきた。見るからに期待の高まる内容だ。


 そして旅先でいただいた、トルティーヤも出て来た。


 今回はトルティーヤに、チーズが乗っていて美味しそうだ。

 飲み物は私とエイリーン嬢は果物のジュース。他にはワインが配られた。


 食前の挨拶が終わると、さっそく食事が開始される。


 まず気になるのは白身魚のカルパッチョサラダだ。

 見るとやはり生の魚のようだ。それにオレンジソースがかけてある。



「この魚は生のようですが、寄生虫の除去などは行っているのですか?」


「ほう。そこに目がいくとは流石だな。方法は秘密だが、もちろん寄生虫の除去は済ませてあるよ」


 

 もしかしたら侯爵家では私のマヨネーズと同じように、空間魔法による寄生虫の除去が行われているのかもしれない。とすると料理の技術はかなり進んでいるのだろう。



「この場所は内陸部で海は遠いはずですが、魚は冷凍して運送を? ならば随分魚は高価なのでは?」



 貴族のアルフォンスくんを差し置いて、平民の私がべらべら喋るのはマナー違反だが、料理に関しては妥協できない。



「もちろん数少ない冷凍魔法を使うものに頼むのだから費用はかさむがね。今日の客人の中には、食にうるさいクリフォードをうならせたほどの料理人がいるようなのでね。奮発してみたよ」



 その料理人とは私のことだろうか?


 冷凍魔法は水魔法の上位魔法だ。それを使えるほど高度な魔術師は数少ない存在らしい。


 私は久々の刺身を口に入れる。これは多分ヒラメかカレイの刺身だ。

 私はヒラメとカレイの違いがわかるほど刺身は食べていないが、刺身は嫌いではない。


 この白身魚の刺身は、かけられているオレンジソースと良く合って美味しい。

 野菜との組み合わせも、野菜のシャキシャキとした食感と、白身魚の刺身の食感が合わさってとても良い。


 前世の醤油のありふれた世界ならば、この味も斬新で素直に美味しいと思えただろうが、私は無性に醤油とわさびが恋しくなった。そしてため息も出る。は~。



「どうされたのだリンネ嬢? カルパッチョはお気に召さなかったかな?」



 しまった。食事中にため息を吐くなど相手に失礼な行為だ。



「失礼しました。このカルパッチョは大変美味しゅうございますが、刺身を噛むたびに醤油とわさびが恋しくなってしまい、ついため息を」



 私はいつしか、無意識に、前世の記憶にある醤油とわさびの名前を出してしまっていた。



「ショウユ? ワサビ? 聞いたことのない言葉だが?」


「あ! 申し訳ありません。私が以前食べたことのある、生魚とよく合う調味料と香辛料です」

 

「ほう? 念のためどういったものか申してみてくれぬか?」



 エインズワース侯爵の目の色が変わった。やはりこの人も食に関しては貪欲なのだろう。



「は、はい。醤油は大豆という豆を発酵させて作る調味料で、わさびは、鼻につ~んとくる香辛料で、根をすりつぶして使います」


「ワサビは聞いたことがないが・・・ショウユ? 豆を発酵? もしかしたらセーユのことかもしれんな」



 セーユ? この世界に醤油がある?



「あ、あの! そのセーユはどこに!?」


「流石料理人だけあって食いつきがよいな? ドルフ、セーユはたしか例の他国の商人が商っていた商品の中にあったな?」



 エインズワース侯爵が、後ろで配膳している料理人に尋ねる。



「はい。どれも変わったものばかりでしたので、今回は見送りました」



 え!! 醤油は・・ないの・・・・。


 私は料理人のドルフさんの言葉を聞いて、気落ちしてしまった。



「ハハハ! そんなに気になるなら、今度の取引の時に立ち会うがよい」


「はい!! 是非に!!」


 

 醤油への希望はまだあると知った私は、落ち込んだ気持ちを持ち直した。

 そして今日から20日後にあるといわれる、他国の商人との取引に同伴する許しを得た。



「それでリンネ嬢には私の頼みも聞いてほしいのだが、例のマヨネーズについてだ」



 食事も進み、ついにマヨネーズのことが話題にのぼる。でも侯爵家だけにレシピは教えても良いが、言いふらされるのは困るかもね。



「マヨネーズのレシピについてはお教えしましょう。ですが他言無用でお願いします」


「おー!! それは助かる!! あのソースが美味しくてな、当家ではあっという間に底をついてしまったのだよ。他言無用については問題ない。レシピは誰にも教える気はないよ」



 まあ一瓶しかあげてないし、皆で使えばすぐになくなるだろうね。


 そして固めの牛肉ステーキを一切れ口に入れ、もにもに噛む。うん、筋切りくらいしようね? あと玉ねぎに漬けこむのもお勧め。でもこの世界では固いお肉も好まれるから、大きな声では言えないけど。



「嬢ちゃん。このお肉魔法で柔らかくなんねえ?」



 クマさんは柔らか肉派だったか。


 クマさんにはいつも私が柔らかいお肉を出していたので、あれも魔法だと思われていたのかもしれないね。



「クマさん。あれは残念ながら魔法ではなくて、下処理なんです。なのでこの状態ではどうにもなりません」


「ほう! 是非その下処理についても聞いてみたい」

 


 エインズワース侯爵が話題に食いついてきた。


 たぶん料理人のドルフさんだったか? は知っていると思うから、頼めば出てきますよ。

 とりあえず私は簡単に肉の筋切りや、柔らかくするこつなどを説明した。


 魚のムニエルと山菜のスープは普通に美味しかった。

 トルティーヤのとろけるチーズも予想どおり美味しかったよ。



「デザートでございます。今回は王都有名店、ノーセンクのお菓子でございます」



 そして最後にデザートが出た。それは例のジャリジャリ砂糖お菓子だったのだ。


 これは私への挑発だろうか? はたまた試練だろうかと思ったが、エインズワース侯爵がしかめっ面でジャリジャリ食べているのを見ると、そうでもないのかもしれない。


 まず私は必要な道具を、土魔法で製作し始めた。それは円盤型の器と鍋だ。

 

 次に失礼を承知でジャリジャリ砂糖お菓子を、火魔法で加熱してドロドロに溶かす。

 そしてドロドロに溶けた砂糖を、円盤型の器に入れ、鍋の底に設置した。


 その円盤型の器の側面には、沢山の小さな穴があけてあるのだ。

 エインズワース侯爵一同は、それをギョッとした様子で眺めていた。


 クリスティーナさんをはじめ、侯爵家の護衛たちがそんな私に警戒し始める。

 アルフォンスくんとクマさんは、彼らとは裏腹に、呆れ顔で私を見ているがね。

 そしてエインズワース侯爵が口を開く。



「リンネ嬢いったい何を?」


「わたくしこのジャリジャリだけは我慢なりませんのよ!!」



 私はその言葉を合図に、釜の底にある、砂糖液の入った円盤形の器を、勢いよく回転させた。

 すると円盤型の器にあけた側面の穴から、次々と糸状になった砂糖が飛び出す。


 私は前世の屋台で、ザラメを釜の中心にある器に入れて、入れたザラメを溶かしながら、器をモーターで回転させているのを見たのを思い出した。


 そう。これは綿菓子製造機ならぬ、綿菓子製造魔法なのだ!


 私は串を出すと回転する釜の中に入れ、糸状の砂糖を少しずつからめとる。

 そして徐々に甘い雲が出来上がっていくのだ。



「ほう! これは面白い魔法だ! あの菓子を雲のように変えたぞ!」


「嬢ちゃん。オイラのもやって」


「わ、わたくしのも!!」



 こうして全員のジャリジャリ砂糖お菓子は、次々と雲へと変わっていったのだった。



「この口の中で溶けていく感じが面白いですわ!」


「まだこのような魔法を隠しておいででしたかリンネ殿は」


「クリスティーナよ! なんとしてもあの魔法を、リンネ嬢に伝授してもらうのだ!」


「無理です! あのような謎魔法・・・・。それに私は風魔法専門ですから!」


「面白いけど甘いだけだ。オイラ嬢ちゃんの白いお菓子が食いてえ」



 クマさんは綿菓子がお気に召さなかったようだが、他の面々には好評だったようだ。


 私の感想? もちろん懐かしいが、甘いだけだったさ。


 そして最後にマヨネーズと、旅先で助けとなった謝礼金として、白金貨一枚をいただいた。

 もらいすぎだとは思ったが、ここで断るのは失礼にあたるので、素直に受け取っておいたよ。




【★クマさん重大事件です!】↓


 お読みいただきありがとうございます!

 ほんの少しでも・・・・


 「面白い!!」

 「続きが読みたい!」

 「クマさん!」


 と思っていただけたなら・・・


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