02:幼女は森でクマさんと会う
森でクマさんと会う。言い換えれば森で熊と遭遇する。そして今の俺は幼女だ。
常識的に考えて、某歌のように平和な展開にはならない。とても危機的な状況と言ってもいい。
「くま~~~~!!」
俺は瞬時に巨大な土剣を発動する。そして上段に構えた。
しかしその熊の姿を見て、躊躇する。
それは目の前の熊? には、俺の常識が通用しなかったからだ。
その熊は、幼女の俺よりも身長が低い。身長1メートルもあるかどうかだろう。そして二足歩行している。
簡単に表現すると、ちょい悪クマのぬいぐるみみたいな感じか?
そしてそいつは人間のように口角を上げ、ニヤリと笑ったかと思えば、信じられないことに、言葉を発したのだ。
「その物騒なものを下げな嬢ちゃん。オイラは敵じゃない」
その無害そうな熊、いやクマさんとよんだ方がいいだろう存在に、俺は完全に危機感を喪失した。
ドドン!
土剣を道の脇に放り投げると、地鳴りを上げて落下した。その音に少しビビりながら、再びクマさんを見る。
「土魔法で作った土の剣だろ。消さないのか?」
「消し方がわかりません・・・」
「そ、そうか。消し方がわからないのか・・・」
クマさんは呆れた表情で、道端の巨大な土剣を見た。
確かに道端に、こんな巨剣が置いてあったら邪魔かもしれない。消せれば消した方が良いかもしれないが、いまだにその土剣を消したことはない。
土剣を維持する魔力がなくなって、土に返ってくれるのを、祈るばかりだな。
「そんなことより、ここは魔物が出るし危険な場所だ。土魔法を使えたとしても、嬢ちゃんみたいな幼い娘がいて良い場所じゃあないぞ。なんたってこんな場所にいるんだ?」
「緑の奴らが村に攻め込んできて、逃げてきました」
俺はこれまでの経緯を、身振り手ぶりつけながら、クマさんに説明した。
「緑の奴? ゴブリンか! ゴブリンに村が襲われているのか!? この先の村といえば、ウエストウッド村か? 親はどうした? 他に村人は?」
あの村、ウエストウッド村っていうのか・・・
「見た限りでは生き残りは・・・・いませんでした」
「そうか・・・・。 奴らこのままだとまた村か街を襲うな。この近くにはウエストレイク村があったはずだ。次に襲われるとしたら多分そこだな。村に知らせて街まで早馬を出して、騎士や冒険者を派遣してもらわにゃあならない。
急ぐぞ! お前さんを置いていくわけにもいかねえし、とりあえずオイラに負ぶされ!」
そう言うとクマさんは、背中に乗れと言わんばかりに、背を向けてきた。
「潰れませんかね?」
「失礼な。これでも結構怪力なんだぜ! 野生の力なめんな!」
「じゃあ遠慮なく・・・」
クマさんは、クマさんより若干身長の高い俺を、ひょいと軽く背負うと、結構な速度で走り始めた。
「うぉっ! すごい! 本当に怪力なんですね!?」
「あたぼうよ! て言っても実は単なる身体強化って魔法なんだけどな」
「身体強化? 魔法?」
「そんだけ幼けりゃ、知らないのも無理ないか・・・。嬢ちゃんも土魔法が使えるみたいだし、使う素質はあるかもな」
身体強化か・・・使えれば超人的な動きが出来たりするんだろうな。ぜひ使ってみたい魔法ではあるな。
「ところで嬢ちゃんの名前を聞いてなかったな」
「リンネです」
「ん? リンネ?」
「俺の名前に何か?」
「いや、なんでもねえ。まだオイラは名乗ってなかったな。オイラはクマジロウ。その名から皆は、クマさんってよぶがな」
クマさんはどや顔で親指を立てつつ、そう自己紹介をした。
いやいやそれはきっと、名前だけのせいではないと思いますよ。クマさん。
しばらくすると、村の入口らしき場所が見えてきた。
俺はちびなクマさんに背負われて、ウエストレイク村の入口にやってきた。
次にゴブリンに襲われる可能性があるのと、ゴブリンを狩る、冒険者を連れてきてもらうためだ。
「まてぇぇぇ! そこの子熊? ・・・に乗った幼女!」
村に近づくと、すぐに村の門番に大いに警戒された。
門番は二人いて、木でできた簡素な門の前にいる。
左が短髪茶髭のおじさん。右が寡黙そうなぼさぼさ茶髪の若者だ。
小さな二足歩行のクマさんに背負われた幼女の図は、村の門番を激しく困惑させたことだろう。
「そ、その熊はお前の従魔か!?」
門番のおじさんは、クマさんが俺の従魔だと思ったらしく、俺に質問してくる。
「オイラは怪しい熊じゃねえ。この村に火急に知らせなきゃならんことがある」
「く、熊がしゃべった!? あ、怪しい熊め!」
クマさんは、門番の2人に怪しくないと弁明したが、余計怪しまれた。
俺はこのままではらちが明かないので、クマさんから降りると口をはさんだ。よっこいしょ。
「そんなことより、ゴブリンがこの村を襲う可能性があります。俺の村もすでに全滅させられました」
「な! ゴ、ゴブリンだと!? それは本当か!?」
「本当です。襲われたのはウエストウッド村です」
「それが本当だとしたら次に襲われるのは、あの村に近いこの村だな・・・。少し待て、村長に相談してくる。ポズル、お前はこいつらを見張っていろ」
「うん・・・」
そう言うと、門番のおじさんは、もう片方の寡黙そうな若者を残して、村の奥へ消えていった。
しばらくして、白髪白髭のいかにも長老という感じのお爺さんと、さきほどの門番のおじさんがやってくる。
「儂はこの村の村長で、ゴッズという。君らがゴブリンの情報をくれた、怪しい熊と幼女かな?」
それだと怪しいのはクマさんだけでなく、俺もという感じにも聞こえなくもないが、俺は普通のボロイ服を着た幼女で、おかしいのは明らかに、横にいる変種のクマなので、俺は怪しくない。
これを言ったら話が進まないので、俺はぐっと押し黙る。
「ああ。間違いないぜ。オイラはクマジロウ。この嬢ちゃんはリンネ。村の生き残りだ。1人で歩いているところをオイラが保護したんだぜ」
「本当に熊がしゃべるとはな・・・。ダカンよ。とりあえず狩人のヨナスのところへ行って、ウエストウッド村の様子を見てくるように言ってくれ」
しばらくすると、狩人のおじさんが走って村を出ていった。
あれがヨナスさんだろうな。俺達はしばらくここで待ちぼうけか?
ぐぅぅぅぅぅ~
お腹空いたな。そういえばいつから、ご飯食べてないだろうか?
「こりゃいかんな。幼いお嬢ちゃん、村で何かご馳走しよう。あまり多くは出せんが、食べていくと良い」
「村長。この熊はどうします?」
「その熊は聖獣様かもしれん。村に入れて差し上げろ」
「え!? 聖獣様ですってぇ?」
「お? 爺さんオイラのこと知ってんのか? 博識じゃねえか」
「ふぉふぉふぉ。少し聞きかじった程度ですぢゃ。喋る獣は聖獣様とのお?」
「まあ、オイラ巷じゃあ、聖獣フェンリルってよばれていたこともあるがな」
「ふぁ!?」
俺はクマさんの聖獣フェンリル宣言を聞いて、変な声が出てしまった。
このフェンリル・・・狼ですらねえよ。
俺とクマさんは村長の家で、夕食をご馳走してもらうことになった。
夕食には、黒パンと、味の薄いスープが出た。
「硬い・・・何ですか、この石みたいなパン・・・」
俺は硬い黒パンを、ガジガジしながらクマさんに尋ねた。
「嬢ちゃん。このパンはスープに浸し、戻しながら食うんだ」
「ここらじゃこのパンが普通なんですか?」
「ここらの貧しい村は、黒パンに水なんて家庭も少なくないぜ。こりゃあまだ良い方さ」
クマさんによると、黒パンは保存期間を長くするために、水分を抜いたもので、スープなどに浸して、戻しながら食べるんだそうだ。味は良くない。
そして村長の家ですらこの様子なのだから、この村は貧しい村なのだろう。
「お嬢ちゃん。ウエストウッド村から歩いてきて疲れたろ。今日は家に泊まっていくと良い。聖獣様も部屋を用意いたしますので」
「それじゃあ、オイラと嬢ちゃんは同じ部屋で構わないぜ。嬢ちゃんもそれで良いだろ?」
俺はスープでふやけたパンを、モグモグしながら頷いた。
夕食後は、クマさんと同じ部屋に案内された。
「嬢ちゃん。少し聞いておかなけりゃならんことがある」
何だ? クマさん、急に真面目な態度になって・・・。もしや俺が転生者であることがばれたとか? ばれても困ることはないが、気持ち悪がられるか?
「多分、ゴブリンを討伐する騎士や、冒険者は間に合わない」
違った。
「ここから冒険者のいる街までは、馬でも片道で3日、往復なら6日もかかっちまう。狩人が確認して報告するまでに、1日はかかるから、冒険者が来る頃には7日もかかるんだぜ。ゴブリンどもの襲撃は、数日のうちにあるとオイラはみてるぜ」
クマさんの言う数日が、正しいかどうかなんて、俺には分からない。
その予測はクマさんの、経験則からなるものなのだろうな。
このクマさんは、魔法を使えるくらい賢いらしいし、まずその言葉は信じても良いものだろう。
ならばこの村は数日、2~3日後には襲撃に遭うのかもしれない。俺の村と同じように。
「でも嬢ちゃんの魔力は絶大だ。その魔力なら、この村を救えるかもしれない。嬢ちゃんはどうしたい? ここの村人を見捨てて逃げても、オイラは文句は言わないぜ。それも嬢ちゃんの選択だ」
戦うのは正直怖いし逃げたい。でも奴らがこの村にきて、好き勝手殺戮するのは許せない。
今も緑の奴らのことを思い出すと、怒りが込み上げてくるのが分かる。
それは家族を殺された、この幼女の怒りなのだろう。その反面、冷静な転生者の俺もいる。
でも俺の意見も、この幼女の意見も、初めから一致していた。
「俺は、あいつらが好き勝手この村の人間を殺めるのは許せない。何とかして止めたい!」
「ふぅ・・・分かった。でも嬢ちゃん、あの土剣を出して振り回すことしか出来ないよな? あれじゃあ不意打ちは出来ても、か弱すぎる嬢ちゃんが、一撃でも攻撃を受けたら終わっちまうぜ」
確かに、数回ゴブリンと戦ったが、そのどれもがゴブリンが油断した状態の、不意打ちだった。
実際ゴブリンが石でも投げてきていれば、やられていたかもしれない。
「ならオイラが魔法の使い方を教えてやるぜ。正直数日でどこまでやれるか分からないが、あの土剣を見て、嬢ちゃんならなんとかやれるんじゃないかと思っている」
その夜は早めに、藁の布団で寝た。
その日の疲れのためか、幼女のお目めがトローンとして、話をする状態じゃなくなったからだ。
【★クマさん重大事件です!】↓
お読みいただきありがとうございます!
ほんの少しでも・・・・
「面白い!!」
「続きが読みたい!」
「クマさん!」
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