18:ダークエルフ
「お嬢ちゃん。こいつは本当にお嬢ちゃんが倒したのかい?」
私たちは王都の冒険者ギルドに入ると、受付から素材保管庫に案内された。
そこで解体したビッグオストリッチ5体を出したところ、素材保管庫のおじさんは、私たちに対して懐疑的な態度を示したのだ。
そこでおじさんと私たちは、もめにもめていた。
「はい。このC級冒険者のプレートを見ても信じられませんか?」
素材保管庫のおじさんは、胡散臭そうな目で私の金のプレートを見つめる。
「確かにプレートは本物のようだが・・・。少しまっていろ。大金が動くんだ、俺だけでは判断できん。ギルド長に相談してくる」
素材保管庫のおじさんは、そう告げると素材保管庫から出て行った。
本当は地竜アストロンもあるなんて知ったら、このおじさんどんな顔をするだろうか?
「さすがにこんな小さな嬢ちゃんが、ビッグオストリッチを仕留めたなんて信じられないよな」
「あ~。僕もそう思う。こんなに小さいんだからな」
クマさんとアルフォンスくんが意気投合しながら頷く。
そういうお前らも同じちびだがな。
しばらく待つと、キャリアウーマン風の日に焼けた感じの美女が、さっきのおじさんに連れられて素材保管庫に入って来た。
よく見るとこのお姉さんの耳は、尖っているように見える。
体もかなり鍛えているようで、筋肉が黒光りしているようだ。
そして前世の私の記憶が、これはテンプレだぞと、激しく反応する。
ダークエルフか!
「久しいな、ファロスリエ」
「クマジロウ?」
そして手を上げて気楽に挨拶するクマさんに反応するダークエルフのお姉さん。
またか!! またなのか姫寵愛!!
「ま、今はその熊のことはいいわ」
そんなクマさんをスルーするダークエルフのお姉さん。何か思わせぶりな態度でクマさんを見たダークエルフのお姉さんことファロスリエさんは、今度は私の方を見る。
「ちっ! つれねえな~」
「そちらの小さいお嬢さんがドラゴンスレイヤーね? 妙な噂だとは思っていたけど、クマジロウがかかわっていたのね?」
「え!? ドラゴンスレイヤー!?」
それを聞いたおじさんは、驚愕の表情で私を見る。
私がドラゴンスレイヤーであることを知るのは、冒険者ギルドでも限られている者だけと、エテールの冒険者ギルドで聞いた。ならばこの人物の役職は限られてくる。
「私は王都の冒険者ギルド長、ファロスリエよ。人間でそこまで高い魔力を持つ者は初めて見たわ。しかも幼子とは恐れ入るわね」
「わたくし、C級冒険者のリンネと申します。お見知りおきを」
私はファロスリエさんに、カーテシーで挨拶を返す。
「知っているわ。貴女のことは全ギルド長に知れ渡っているもの」
それに対して素っ気なく返すファロスリエさん。
この世界のエルフは皆こんな感じなのだろうか?
そしてファロスリエさんは、徐に解体されたビッグオストリッチに近づくと、あちこち見ながら査定を始めた。
「ふ~ん。ずいぶん丁寧に解体されているわね。大金貨5枚と小金貨3枚ってとこね。
すぐ用意するように伝えなさいロブス」
「は、はい! ただいま!!」
ロブスとよばれるおじさんは、ファロスリエさんの指示を聞くと、素材保管庫を出て、走ってどこかに向かっていった。
「だ、大金貨5枚・・・」
そして金額に驚いて固まっているアルフォンスくんがいた。
「それで? 本当に見せたいのは何? これだけではないんでしょ?」
え? もしかして地竜アストロンを収納魔法で収納していることがわかっているのかな?
私は地竜アストロンの存在を口にせず、少しかまをかけてみる。
「どうしてそう思われたのですか?」
「貴女の魔力がそう言っているわ。エルフは魔力から相手の感情を読むこともできるのよ。今の貴女の魔力はそう・・何か見せたくてしょうがないときの人間のものに酷似しているわ」
何それ怖い。エルフは魔法が得意と聞くが、まさか魔力から心まで読めるなんて。
「ファロスリエ。ここじゃ狭い。外の解体場へ向かおう」
クマさんが、外の解体場で獲物を出す提案をする。
地竜アストロンは確かに巨大だ。体高は5メートルほどだったが、尻尾も合わせた全長となると、12メートルを超えているだろう。ここで出せばあちらこちら破壊してしまうかもしれない。
「そんな大きな獲物なの? まさか貴方こんな少女にまたドラゴンを狩らせたんじゃないでしょうね?」
「ば、馬鹿野郎! そんなポンポン、ドラゴンがいてたまるか! もっと・・小さいのだ」
地竜アストロンはドラゴンとは違うのかな? 地竜っていうくらいだから、ドラゴンの亜種か何かに区分されているのだろうか?
おじさんが素材保管庫に帰ってくると、私たちはさっそく、外の解体場に向かった。
外の解体場に向かう途中、ガン無視されて紹介のないアルフォンスくんが、あまりにもかわいそうなので、私はアルフォンスくんも紹介してみる。
「こちらエテール家のアルフォンス・イーテ・エテール坊ちゃまです」
「そう。お坊ちゃまなのね」
そして相変わらず淡白な答えを返すファロスリエさんだった。
ドド~ン!!
地鳴りと共に地竜アストロンを収納魔法で出す。
外の解体場に着くと、早く見せろと視線で告げるファロスリエさんのために、いきなりその場に地竜アストロンを出してあげた。
周囲にも獲物を解体していた者は何人かおり、こちらを驚愕の表情で見ている。
「地竜アストロン!! ドラゴンじゃないのクマジロウ!!!」
え? 地竜アストロンはドラゴンに入るのかな?
初めて感情を見せるファロスリエさん。切れ気味なご様子。
そんなファロスリエさんに、クマさんが食って掛かる。
「こんな弱っちい個体はオイラ、ドラゴンとは認めねえ」
「貴方の個人的な見解を聞いているんじゃないの! 地竜アストロンは魔法が苦手でも、B級冒険者が10人いて初めて倒せる大物よ! 貴方はそれを予告もなしに!!」
「オイラじゃねえ。嬢ちゃんが一人でやったんだぜ」
「阿呆!!」
ドカ!!
「いて!!」
そんなクマさんをチョップで小突くファロスリエさん。
「こんな幼い子一人にドラゴンの相手をさせたの!? 鬼畜の所業よ貴方!!」
その後もグダグダと言い合う二人。
ド~ン!!
私はこのままではらちがあかないので、土剣を発動して2人の間に叩き付けた。
「リンネ・・・何を!?」
その暴挙に、尻もちをつくアルフォンスくん。
クマさんとファロスリエさんは、ポカーンと口を開けて土剣を見た後、私を見る。
「二人とも、仲良くね!」
私はありったけの笑顔で、可愛く言ってみた。
するとファロスリエさんは徐に土剣に近づくと、震える手でそっと土剣に触れる。
「なるほど・・・英雄の・・この巨大な剣であの地竜アストロンを蹂躙したのね?」
ん? 英雄の? ファロスリエさんの言葉に気になる単語が・・・。英雄の・・咆哮じゃないよね?
私は気になり、クマさんの方を振り向く。
ふ~ふ~
するとクマさんは、吹けない熊の口で鳴らない口笛を吹くというテンプレを発動させていた。
この2人。私に言えない何かを隠している。そう思わざるを得ない状況がそこには揃っていた。
「この地竜アストロンは冒険者ギルドが大金貨30枚で買い取るわ」
そしてファロスリエさんは、さっそくその地竜アストロンを買い取る気満々で、その金額を提示した。
その金額に開いた口が塞がらないアルフォンスくんだったが、クマさんは渋い顔でファロスリエさんを見つめていた。
何が言いたいのかわかりにくいよクマさん!
そして私はアルフォンスくんに、その日の分け前の大金貨一枚をそっと渡すのだった。
「父上、僕・・・金銭感覚がおかしくなりそうです・・・」
「いつもはこう上手くいかないぜ・・・」
と、男前にそっとアルフォンスくんの肩を叩くクマさん。
だが彼が翌日も、その翌日も大金貨を手にすることとなるのは、誰もが予期せぬことであった。
翌朝地竜アストロンの解体が開催され、その解体に多くの冒険者が参加したのであった。そして尾ひれがついた英雄譚が、また少女に付きまとう。
ドラゴンを剣の一振りで屠った少女がいると・・・・。
【★クマさん重大事件です!】↓
お読みいただきありがとうございます!
ほんの少しでも・・・・
「面白い!!」
「続きが読みたい!」
「クマさん!」
と思っていただけたなら・・・
ブックマークと
画面下の広告下【☆☆☆☆☆】から評価をお願いします!!
【★★★★★】評価だと嬉しいです!
いつも誤字報告を下さる方、ありがとうございます!!




