15:アルフォンスの実力
クマさんと私は、土雲に乗って、王都の周辺の森の前までやって来た。
もちろんアルフォンスくんも一緒である。
森の付近には、エテールの街と同じように、薬草採取をしている子供たちがいる。
クマさんによると、この辺の子供たちは、エテールの街のように飢えをしのぐ目的の薬草採取ではなく、多くが小遣い稼ぎを目的にしているんだそうだ。
王都は経済が安定していて、飢える者も少ないらしい。
しかし私たちの目的は薬草採取ではない。もちろん魔物狩りである。
「アル。お前、魔物狩りは初めてだったよな? でよ。アルの実力を見ておきたいんだ」
「え? 狩り? 聞いてないぞ?」
「今回の狩りはこの辺の森で行うんだ。この辺の森にはビッグオストリッチの出現報告が多い。なのでビッグオストリッチとの戦闘を想定した、特訓をかねたテストをやるぜ」
クマさんがアルフォンスくんの疑問に答えることはなかった。全スルーである。
「お、おう!」
そして食い違う二人の認識をよそに、アルフォンスくんのテストは開始されるのであった。
「じゃあ嬢ちゃん。ビッグオストリッチの戦闘パターンで、アルの相手をしてみてくれ」
私も聞いてないよそんなこと。まあ面白そうだからやるけどね。
「アルにはこの木剣な。嬢ちゃんは素手で十分だろ?」
9歳の木剣を持った男の子が、6歳の素手の幼女に対峙する。
何のいじめの現場でしょうか?
「あと、アルは身体強化も有りな」
何ですと? アルフォンスくんだけ身体強化は狡い!
「クマさん私は?」
「嬢ちゃんは駄目だ。嬢ちゃんとアルでは魔力が違いすぎるからな。
アルの微弱な魔力の身体強化なら、体に影響はまずないだろう。だが嬢ちゃんの魔力で同じことをすれば、体にかかる負担が大きくなるし、それは成長にも影響をおよぼすからな」
つまり私の魔力が強すぎるため、身体強化の反動が大きくて、体にかかる負担が大きいと?
なるほど、ならば身体強化をさらに弱めれば良い話ではないか?
「どんだけ弱くなら身体強化使っても良いんですか?」
「大体今の20分の1くらいじゃねえか?」
無理です。
そして私とアルフォンスくんは距離を置いて向かい合う。
「リンネ手加減しないぞ!」
アルフォンスくんが、クマさんから受け取った木剣を構える。
「まあ! アルフォンス坊ちゃまのくせに生意気ですこと。クケェェ~!!」
私は荒ぶる鷹のポーズで、アルフォンスくんを威嚇する。
そして今回はアルフォンスくんからの「坊ちゃまはよせ!!」の突っ込みはなく、沈黙が流れる。
「嬢ちゃん。そのポーズは何だ?」
そして沈黙が破られ、私に痛い者を見るような目を向けるクマさんから、質問が入る。
「ビッグオストリッチのポーズ!!」
「真面目にやれ」
私は真面目だ! そして開始してもいないのに先制攻撃。
ビッグオストリッチはよく不意打ち気味に、風の刃で攻撃して来る。
ただ私が風の刃を使えば、アルフォンスくんは真っ二つになってしまいかねないので、ここはフー! と押すような風で攻撃する。
「わ!!」
コテン!
私の不意打ち気味な風を受け、尻もちをつくアルフォンスくん。
「汚いぞリンネ!! 本当汚い!!」
アルフォンスくんはそんな私を罵る。
「甘いですわねアルフォンス坊ちゃま! 野生はいつ攻撃してくるかわからないでざますよ。ホホホホホ!」
「そうだぞアル。これが魔物との戦闘ならとっくに死んでいたぞ? まあ嬢ちゃんみたいな卑怯な魔物もそういないがな」
いないのかよ!
「くぅぅ!! もう一回だ!!」
立ち上がるアルフォンスくん。意外に根性がある。
ただ私は容赦しない。ど~ん!
「うあ!!」
コテン!
押すような風に再び転がされるアルフォンスくん。
「くそ!! あんな見えない弾どうやって躱せっていうんだ!!」
「魔力視を働かせろ、アル。それであの風は見えるはずだ」
「あー。あれか? でも上手くいくかな?」
魔力視? そんなの初めて聞く言葉だぞ。クマさん私は魔力視を習っていない!!
「クケェェ~!!」
私は荒ぶる鷹のポーズで、言葉にならない抗議をクマさんに対して行う。
そしてアルフォンスくんがビクッ!てなる。
クマさんはイラッ!となる。
「今だアル!! 不真面目な嬢ちゃんはスキだらけだ!!」
「おうよ!!」
甘いな!! 押すような風発動!! ど~ん!!
「ほっと!! 避けれた!!」
およ? 避けられちゃった?
アルフォンスくんは、私の押すような風を大きく飛んで躱す。
「アル!! 大きく飛びすぎだ!! 最小の動作で躱すか、木剣で打ち消しながら前進しないと一生近づけないぞ!!」
そんなアルフォンスくんに、クマさんの駄目出しが入る。
ほう? まあ確かに押すような風の弾は小さいし、木剣が当たれば消えちゃうかもね?
果たして今のアルフォンスくんに、それが実現可能だろうか?
押すような風発動!! ど~ん!!
「今だ!! アル!!」
「せいっ!!」
クマさんの掛け声とともに振られたアルフォンスくんの木剣は、見事私の押すような風をかき消したのだった。
あれ? アルフォンスくんってもしかして結構才能あったりする?
「やったぞクマジロウ!!」
飛び上がって喜ぶアルフォンスくん。しかし私は容赦しない。
押すような風発動!! ど~ん!!
「うあ!!」
コテン!
喜んでクマさんの方を向いている、アルフォンスくんの真横から押すような風がヒット!
無様に転がるアルフォンスくん。
「くそ!! 汚いぞ人が喜んでいるのに!!」
押すような風発動!! ど~ん!!
「容赦ねえな!! くそ!!」
アルフォンスくんが私の押すような風を、転んだ状態から飛び上がって躱す。
押すような風発動!! ど~ん!!
「この!!」
アルフォンスくんが、私の押すような風をかき消しながら接近して来る。
そして押すような風2発目を躱し、ついに私に木剣が届く距離に・・・。
「覚悟しろ!! リンネ!!」
アルフォンスくんは、今までのうっ憤を晴らすような一撃を繰り出した!!
しかし現実は非情である。私には魔力感知があるのだ。
魔力感知には、相手の攻撃を読む効果がある。
それは敵が攻撃を繰り出すために無意識に思い描いた軌道を、魔力線として赤く見せてしまう。
アルフォンスくんの攻撃は放たれる前から軌道がわかり、私は鈍い動きでその攻撃を避けるだけだ。
スカン!
「うあっ!」
するとちょうど目の前に来たアルフォンスくんの頭を、幼女の非力なチョップでポコ!と叩いた。
その非力な一撃は、相手が自分より明らかに弱者であることを認識させるのだ。
そしてその自分より弱い相手に、一本取られたという屈辱を与える一撃でもあった。
アルフォンスくんは精神的ダメージを受けて凹んだ。
「嬢ちゃんやりすぎだ」
え? どのあたりが?
「さっきから何だお前? そんなちびっちゃい幼女に負けるなんてよっぽど弱いんだな。俺が剣を教えてやろうか?」
そしてそんな私たちの戦いに乱入してきたのは、薬草採取をしていた子供たちのリーダー格と思われる、ガキ大将坊やであった。
少しお腹の出たガキ大将坊やは、アルフォンスくんより頭半分くらい大きい。腕も太く、明らかにアルフォンスくんより力は強そうである。
そしてすでに木の棒を手に持ったガキ大将坊やは、やる気満々と言わんばかりだ。
そんな言葉に反応してか、ゆらりと立ち上がるアルフォンスくん。
しかし木剣を握ってはいるものの、両手はぶらりと垂れ下がり、その目に覇気はなかった。
「は! 弱そうなやつだぜ! 少し遊んでやろうか?」
気づくと周囲には、すでに薬草採取組の子供たちが集まりだしていた。
「面白そうだ。俺たちもまぜろよ」
「やっちまえ!」
「良い機会だアル。そのガキ共に遊んでやれ」
「何だこのクマ? 小せえな? しゃべるのか? 不気味なクマだぜ」
その言葉に反応したアルフォンスくんは、ゆっくりとガキ大将坊やに接近する。
私もムカッと来たが、ここはアルフォンスくんに譲ろう。
「何だこいつ!?」
丁度近くに来たアルフォンスくんの頭に、ガキ大将坊やは容赦なく木の棒を振り下ろす。
しかしガキ大将坊やの木の棒は、空を切るのであった。
「な!」
ゆらりとガキ大将坊やの攻撃を躱したアルフォンスくんは、木剣を持った手を軽く振り上げる。
ドカ!
アルフォンスくんの一撃が、ガキ大将坊やの脇腹にヒットする。
軽いとはいえ身体強化のかかった一撃だ。
ガキ大将坊やは錐揉みしながら吹き飛ぶと、草むらの中に落ちた。
「何だこいつ! 実は強いのか!?」
不意打ちぎみに二人目が、アルフォンスくんを木の棒で狙う。
しかしアルフォンスくんの目は、すでに二人目の方を捉えていた。
カーン!!
「ぐあ!!」
アルフォンスくんが木剣を振るうと、その木剣は相手の木の棒に当たる。
そのままつばぜり合いになると思われたが、力の差がありすぎたのか、相手はまたもや吹き飛び、草むらの中へ落ちていく。
そしてまた一人また一人と子供たちは草むらに落ちていき、そのたびにアルフォンスくんの自信は、回復していくのだあった。
「ちくしょー! なんつう馬鹿力だよお前!?」
最初に倒されたガキ大将坊やが立ち上がる。
「あぁ。一応軽い身体強化使っているしな」
ガキ大将坊やに、自分の力をばらすアルフォンスくん。自信がもどって良かったね。
「うあ! まじか。お前騎士並みじゃねえか?」
なるほど、騎士はだいたい軽い身体強化を使えるのか。
そう思いつつ私は、隠れてアルフォンスくんの護衛をしている、ダレルさんを一瞥する。
「これでも毎日父ちゃんに剣の稽古でしごかれてるんだけどな。全く勝てる気がしねー」
ふーん。ガキ大将坊やは毎日剣の稽古でしごかれ・・ん? もしかしてこいつ?
「ん? お前もしかして、モーズレイ家の?」
「なんだ知ってんのか? ボビー・イーテ・モーズレイだ。これでも貴族だぜ。末っ子だがな」
やはり貴族だったか。
毎日剣の稽古しているのなんて貴族の家ぐらいだよね。
「ボロ羽織っているから気づかなかったぜ。なるほど、王国第三騎士団団長の・・・。あ、僕は、アルフォンス・イーテ・エテールだ」
「エテール伯爵家!? ドラゴンの? じゃあもしかしてその小さいのがドラゴ・・・!」
「おい! まだ箝口令!!」
「あ! 悪い! そうだったな」
ん? 箝口令? 私のことで箝口令がしかれている?
そうか、王家は私に気を使って、箝口令をしいてくれているわけだな。
ばれれば煩わしい貴族に言い寄られて、迷惑すると思ったのだろうか?
「まさか噂どおりかよ・・・その大先生にならお前でも勝ち目はないわな」
ちびっちゃい幼女から大先生に格上げかよ。
「おいぃアル! そろそろ狩りに行くぞ!?」
そんな中、無粋なクマさんが二人の会話に割って入る。
「え? 狩りって森に入るつもりなのかお前ら?」
「ああ。そこのクマジロウは僕の師匠でな。結構厳しいんだ」
そして私の土雲が発進する。
「あ! 待て!! じゃあな! 例の式典で会おうぜ!」
「あぁ!!」
アルフォンスくんとガキ大将坊やことボビーくんとが、大声で別れの挨拶を済ます。
そして私たちは、魔物の住まう王都の森へと入っていくのだった。
例の式典って何だ!?
【★クマさん重大事件です!】↓
お読みいただきありがとうございます!
ほんの少しでも・・・・
「面白い!!」
「続きが読みたい!」
「クマさん!」
と思っていただけたなら・・・
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