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04:侯爵家


「では改めて名乗らせてもらうよ。

 エインズワース侯爵家長男クリフォード・イーテ・エインズワースだ。

 アルフォンスとは一度王宮で会ったことがあるな?」



 この国伝統の貴族の挨拶をするクリフォードくん。

 この人は長男ということは、将来侯爵家を継ぐ立場なのかな?


 王都に向けて馬車で旅をしている最中、ホーンベアの襲撃を受ける馬車を発見したのだ。

 無事にホーンベアを倒した私たちは、その馬車が侯爵家の馬車であることを知る。

 その後私たちは、お互いの自己紹介と、挨拶を始めたのだ。



「わたくしはエインズワース侯爵家長女エイリーン・イーテ・エインズワースですわ」



 綺麗なカーテシーで挨拶するエイリーン嬢。

 アルフォンスくんには過去に名乗っているから、この自己紹介は、クマさんと私に向けたものなのかな?



「そしてこちらは騎士のかっこはしているが、当家のお抱え魔術師である。クリスティーナだ」


「紹介に与りましたクリスティーナ・イーテ・アシュクロフトです。

 風の魔術を得意としております。先ほどはお見苦しいところをお見せいたしました」



 騎士の挨拶をするクリスティーナさん。自分は騎士だというアピールかな? 

 そういえば騎士団所属のオーブリーさんの挨拶はカーテシーだったけど・・・何か違うのかな?



「そしてメイドのメイアだ」


「メイアです。よしなに」



 メイアさんもカーテシーで挨拶する。

 そして全員の挨拶と自己紹介も終わり、今後どうするかという話になった。



「こちらは馬車がこのざまだ。

 出来ればそちらの馬車に相席を頼みたい。いかがだろう?」


「もちろんかまいませんが、こちらの馬車は侯爵家の方々に相応しくございません。

 それで構わないのであれば、どうぞご相席ください」



 ダレルさんが執事のように応対する。この人、執事の真似事もできるんだね。

 エテール家の馬車は簡素で飾り気がないのに対して、侯爵家の馬車は豪華で見た目も派手だった。

 そんな方々に、簡素で飾り気のないうちの馬車は相応しくない。そんな馬車でも不快でなければどうぞ、ということだろう。



「構わない。どうかよろしく頼む」



 結局馬車の中には、クリフォードくん、エイリーン嬢、メイアさん、アルフォンスくん、それから私とクマさんが乗ることになった。

 実際四人乗りの馬車なのだろうが、大半が子供達だけなので六人でもけっこう余裕がある。


 オーブリーさんはダレルさんと御者席へ、クリスティーナさんは馬に乗るようだ。

 他二名の侯爵家の騎士が馬に乗ってついてくる。

 残りの騎士は壊れた侯爵家の馬車の件で残ることになった。


 馬車を収納して運ぼうかという話になったが、そこまでしていただく必要はないと、お断りされてしまったのだ。

 馬車が入るほどの収納はけっこうな容量らしいので、こちらの荷物のことも考えて気を使われたのかもしれない。


 私の収納魔法ならばまだまだ入るのだが、伝説級の収納力を誇る私の収納魔法の件に触れるのはあまり良くないだろう。





「さて、アルフォンスよ。其方魔術師を二人も、それに聖獣様まで連れて王都に何用だ?」



 馬車が再び走り出し、お互いの王都行きの用件の話になった。



「エテール領のドラゴンスレイヤーの件はご存じありませんか?」


「おお! 既に耳に入っているよ。

 何をかくそう、私たちもその件で王宮に招集されているのだ」



 ドラゴンスレイヤーの授賞式には、多くの貴族が来ると聞いている。

 つまりクリフォードくんとエイリーン嬢は、その貴族の中の一部なのだろう。



「ではこの旅にドラゴンスレイヤー殿も同行されているのか?」



 アルフォンスくんは、私をチラリと見て話すかどうか悩んでいるようだ。

 小さな私がドラゴンスレイヤーなどと言って、信じてもらえるか不安なのだろう。



「なるほど。やはりリンネ殿がドラゴンスレイヤーであったか・・・」



 アルフォンスくんのその仕草から、真実を察したクリフォードくん。流石は貴族だね。



「あの巨大な剣を振るう異質さと、異常なまでの素早さ。

 その幼さであれほどの働きをする者は恐らく伝説の英雄くらいであろう。何より聖獣様がかかわっておられるほどの御仁だ。

 まさか誉れ高きドラゴンスレイヤー殿に助けられるとは何たる幸運。それで其方はその付き添いか?」


「はい。それとは別件で、実は魔力が発現しまして・・・」


「それは目出たいな!!

 何をかくそう我が妹のエイリーンも魔力が発現してな。来年は学園に通う」



 学園とは貴族の通う魔術学園のことだろう。魔力が発現した貴族の子息は10歳から魔術学園に通うことになるらしい。


 エイリーン嬢も来年から魔術学園に通うということは、アルフォンスくんと同じ9歳ということか。



「それでもう一つ耳にしたのだが、エテール領では天使のパンなる驚くほど柔らかいパンが出回っておるらしいな」



 どうやら話は領の産業の話に移ったようだ。しかもあのパンの話とは・・・・。



「はい。今回の旅にもいくつか王都に卸すために持参しております」



 これはアルフォンスくんには、あずかり知らないことなので私が答える。

 もちろんパンは劣化の遅い、収納魔法で収納して運んでいる。



「ん? ドラゴンスレイヤー殿はパンも(あきな)っておるのか?」



 魔法使いの私がパンの話に入ってきたので、パンを商っていると思われたようだ。



「いえ。天使のパンは、このリンネが趣味で開発したものでして・・・」



 アルフォンスくんの補足が入る。



「なんと! ドラゴンスレイヤー殿は、天使のパンの開発者であったのか! なるほど、それでパンを・・・」



 あのパンを作ったのは趣味じゃなくて、主に孤児院の経営のためだけどね。



「それで、いくつか融通してはくれないだろうか? 噂を聞いてぜひ食べてみたいと思っていたのだ」


「天使のパンはあらかた買い手がついておりますが、お一人二斤までなら個人にも売ってよいと、伯爵様より許可が出ております」



 伯爵様というよりは、エリザベート嬢との話し合いで決めたことだが、ややこしいのでそれは言わない。



「たった二斤とは残念だが、是非買わせてくれ」


「しかしよろしいのですか?

 侯爵家ともなればお抱えの料理人がおり、柔らかいパンなど普通に食べなれておられるのでは?」



 侯爵家はアルフォンスくんの伯爵家より家格は上だ。

 その上侯爵家の面々は服装から裕福さを醸し出している。

 この世界にも柔らかいパンくらいはあるはずだ。そして富裕層ならばそんなパンが出回っていてもおかしくはない。



「もちろん侯爵家にも柔らかいパンはある。しかし是非とも噂に聞く天使のパンを食べてみたいのだ」


 

 やっぱり柔らかパンは、異世界にもあったんだね。

 どんなパンだろ? 天然の異世界柔らかパン・・・興味がある。



「ん? ドラゴンスレイヤー殿は、当家のパンに興味がおありなのか?」



 しまった。顔に出ていたかな? 


 確かに天然の異世界柔らかパンには興味がある。

 でも取引でこういった弱みを見せるのはあまりよろしくない。


 ではこうしよう。



「実はわたくし、天使のパンの他に、アンパンなる新作も持参しております」


「なんと!! 天使のパンの新作と申すか!?」



 よし食いついてきた。



「天使のパンは予定どおり二斤定価でお売りいたします。

 その侯爵家のパンと私の新作パンではつり合いが取れるかわかりませんが・・・・。交換していただけるとありがたいです」


「その取引、是非にもさせていただこう」


「お兄さまは大層な美食家でしてよ。美食への探求心は誰にも負けないでしょう」



 エイリーン嬢が、ニッコリと微笑みながら兄自慢をする。

 

 私たちは取引を成立させ、私は侯爵家の天然の異世界柔らかパンを手にした。


 これはトルティーヤ? 見た目は薄いパンだ。


 そしてさっそく天然の異世界柔らかパンを口にする。

 え? 今食べるの? という周囲の目は気にしない。

 今だからこそこの天然の異世界柔らかパンを食べるのだ!



「もしゃもしゃ・・・」



 不味くはない。黒パンよりは圧倒的に柔らかい。無発酵パンなのは確かだな。

 色々とバターなどで工夫して、香ばしい風味をつけているのか・・・。

 これに肉とか野菜とかを巻いて食べているのかな?



「なるほど。ドラゴンスレイヤー殿もかなりの美食家と見える。

 味の探求心から貴族を目の前にしながらも平然とパンを食すその様。感服いたした。ここは貴族の礼儀に反するが、あえて私もこの新作のアンパンをいただこう」


「お兄さまはただ食べたいだけなのでしょう?」



 そしてアンパンにかぶり付くクリフォードくん。



「甘い!! そして柔らかい!! 口の中で溶けるようだ・・・。このように高価な砂糖をふんだんに使うなど、なんと贅沢なパンか!?」



 甘いのは砂糖じゃなくて蜂蜜ですけどね。

 砂糖も蜂蜜もこの異世界じゃ高価なものらしい。市場ではまだ見たことないけどね。



「甘いのですかそのパンは!? お兄さまだけずるいです! わたくしにも少しわけてくださいませ!」



 こっちの世界の人は甘味に飢えているのか、甘味に対する反応がすごいな。

 争いになる前に、もう一つアンパンを出して、エイリーン嬢にも差し上げる。



「すまぬな。このような高級なパンを妹にも」


「甘~い!! このパンなら毎日でも食べられますわ!」



 いやいや毎日は飽きますって。



「オイラにもくれ」


 

 そこでクマさんも、私になにやら要求してきた。


 それではと、食べかけの侯爵家のパンをクマさんに渡そうとすると、嫌そうな顔で睨まれた。

 なので素直にアンパンを、クマさんに渡したよ。


 そしてその後も会話は弾み、あっという間に本日の宿泊先であり、旅の中間点である宿場町が見えてきた。



【★クマさん重大事件です!】↓


 お読みいただきありがとうございます!

 ほんの少しでも・・・・


 「面白い!!」

 「続きが読みたい!」

 「クマさん!」


 と思っていただけたなら・・・


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