10:久しぶりの魔術学園
「魔術学園に在籍していた、リンネ・イーテ・ドラゴンスレイヤーです」
私は学園の守衛が詰める、学園の受付でそう名前を告げた。
ちなみにクマさんはあの後リンデルと出かけて行ったのでいない。
今日学園に来たのは私1人だ。
「やや! これはリンネ様! 少々お待ちを!?」
守衛はそう言うと、園舎の中に慌てて駆けて行った。
そして待つこと数分後、守衛は女の人を1人連れて帰ってきた。
「ずいぶんと久しぶりだな。リンネ・イーテ・ドラゴンスレイヤー」
守衛が連れて帰って来たのは、ルイーズ学園長だった。
「お久しぶりです。ルイーズ学園長もお変わりない様子でなによりです」
ルイーズ学園長は、あのころとほとんど変わらない姿だった。
おそらく50歳は超えているだろうが、若々しく見える。
それだけ魔力が多いということだろう。
「お前は変わらなさすぎだな」
私がそんな挨拶をすると、そう返されてしまった。
私にとっては1ヶ月ほどの出来事だが、彼女には10年前の出来事だ。
あのころから姿の変わらない私を見れば、ここでもめ事になる可能性もあった。
「私がこちらに姿を現すことを、如何にして知りえたのですか?」
これだけ準備がいいところを見ると、私がここへ現れることを、あらかじめ予想していたのだろう。
でなければ幼女が学園を尋ねた時点で、守衛ともめていたに違いないのだ。
「何を言っている? あれだけ噂になる屋台を出しておいて、調べないわけはないだろう。学園の関係者がどれだけお前のことを噂していたと思っているんだ?」
なるほど。どうやら私の出した屋台が噂になり、そこで私の存在を嗅ぎつけていたようだ。
「私がリンネ・イーテ・ドラゴンスレイヤー本人であるということは、疑わないんですね?」
普通なら10年もすれば、成人しているのが当たり前である。
そこへきてあの頃と何一つ変わらない私を、この人は疑わないのだろうか?
「私が何年前から貴様を見てきたと思っているんだ? 今から21年も前に、貴様はこの学園に魔術の等級を測りに来ているのだぞ? そのころから貴様の容姿は、何一つ変わっていないのだ。もうこれはそういうものとして見るしかあるまい。それにうちにはリリ教授もいるしな・・・・」
そうか。この学園にはあのリリちゃんもいたね。
彼女も長いこと幼女姿で、何一つ変わっていなかったのを思い出す。
「学園へは私が案内しよう。君はいまだに名誉教授として在籍している形にはなっているが、この学園は久しぶりだろ?」
「学園長自ら案内していただけるなんて恐縮です」
案内してもらっている道すがら、ルドラの呪いのことや、宇宙がどんな場所だったかという話で盛り上がった。
彼女も相変わらず、探求心は健在のようだ。
「おや? この石像は?」
久しぶりに特別運動施設を訪れると、建物の前には石像があった。
特別運動施設は私がこの学園に建てた、クラブ活動のための施設だ。
それは右手にオタマを握りしめ、エプロンドレスを着た幼女の石像だった。
「貴様がルドラの呪いと戦い、世界を救って死んだという話を聞いて、多くのものが悲しみ、ここに石像を立てたのだ・・・」
「そうですか・・・それは大変ご心配をおかけしたようで・・・」
私はそんな石像を尻目に、久しぶりの特別運動施設の入り口の扉をくぐる。
ちなみにこの特別運動施設は、長い年月を経て、特別施設という名前に変わっていた。
それは現在この建物が、運動室としては使われないためだ。
中へ入るとなにやら一心不乱に、料理の研究に打ち込んでいる人達がいた。
運動場の部分も改良され、広い調理場と化していた。
料理科なるものは、私がここにいたときはすで立ち上げていたが、どうやら当時よりも大規模なものになっているようだ。
「現在1階はお菓子や料理の研究に使われているんだ。2階にはリリ教授の研究室があり、3階は今も宿泊施設になっている」
ルイーズ学園長が、この特別施設について説明してくれた。
あのころは私もこの建物の3階に住んでおり、1階では料理に勤しんだものだ。
私の使っていた部屋は、今はどうなっているのだろう?
「貴様の部屋なら、今はリリ教授の名義になっているはずだ。ほとんど使われた形跡はないがな」
リリちゃんのことだ。研究室ででも寝泊まりしてしまっているのだろう。
「これはルイーズ学園長。そちらのお子様はどちらで?」
対応に出てきた女生徒が、ルイーズ学園長に尋ねる。
「外に石像があっただろ? あの本人だ」
「え?」
ルイーズ学園長が正直に話すが、女生徒は何やら困惑しているようだ。
10年前に死んだ人物が現れて、その本人だと幼女が現れても、相手は困惑するだけだろう。
「すぐにパトリシア教授をよんでくれ」
「は、はいただいま!」
ルイーズ学園長がそう命じると、女生徒はパタパタと駆けて行った。
「飲食する場所は、今はあちらになっているんだ」
ルイーズ学園長が指し示す方を見ると、そちらの方に飲食スペースが見えた。
現在は右側に広く料理設備を作り、左側を飲食スペースにしているようだ。
私は飲食スペースに案内されて、やたらと長いカウンターの前に座る。
「お久しぶりですリンネ様。本当に無事で良かったです」
パーシアちゃんは、私の前にやってくると、目に一杯涙をためてそう挨拶してきた。
パーシアちゃんは相変わらずぽっちゃりしているが、あの頃とあまり変わらないように見える。
彼女も魔力は高いので、歳をとりにくいのかもしれない。
「リンネ先輩お久しぶりです。あの時お世話になったイリスです」
パーシアちゃんと一緒に来た女性は、どうやら私の後輩だったイリスちゃんのようだ。
こちらは大人びて、ずいぶん印象が変わったように見える。
「なんでもホワイトチョコレートというお店を出店されたとか?」
「ええ。すでに何店舗か、この王都以外にも出店しているわね」
王都意外ということは、エテール領やエインズワース領などの、私の知る地域にも、すでに出店しているのだろう。
「この学園に面したお店が1号店よ。昔から特にソフトクリームとシュウクリームが人気が高いわね。オールポート産のミルクを使っているから、濃厚な味が楽しめるのよ」
確かパーシアちゃんの故郷がオールポート領だったはずだ。
あそこのビッグゴートのミルクは、濃厚で絶品だったのを思い出す。
あとでそのお店に行ってみるのもいいかもしれない。
「ところでチョコレートの原料のカカオって、今はどうしているの?」
私が気になったのは、このお店の名前の由来となった、チョコレートの原料が、今どうなっているかだ。
チョコレートの原料であるカカオは、遥か南にあるジュラ大陸南部の、竜の谷ににいる、龍の長老テペヨロトルから許可を得て手に入れた、この国ではまさに伝説級の食材なのだ。
私がいなかった間、その供給は止まっていたのではないだろうか?
「アリスフィア女王が、以前竜の谷に向かわれた際に、龍の行商人にカカオを定期的に届けてくれるように、話を付けてきているそうよ。それで今なら王宮から、カカオを買い取ることが出来るのよ。アリスフィア女王も、チョコレートは大好きですからね」
何その話。アリスちゃんはあれから竜の谷に行ったの?
その龍の行商人の存在は気になるが、今はチョコレートの話だ。
「そのカカオから造ったカカオマスを少し分けてくれないかな?」
カカオマスは、カカオをすりつぶしたカカオニブを、さらに細かくすりつぶしたものだ。
この国においては、かなり高級な食材になるんだけどね。
「えっと・・・。何かお菓子の研究でもされるのですか?」
そんな私を、パーシアちゃんが不審げに見つめる。
やはり高級な食材は、簡単には出せないようだ。
「パーシアちゃん達が立ち上げたお店の名前・・・ホワイトチョコレートは想像上のお菓子なんだよね? それがカカオマスから作れるとしたらどうする?」
チャールズのおじさんに聞いたところ、彼女らがホワイトチョコレートを、想像上のお菓子と考えているのは確かだ。
私は確信はまだ持てないが、カカオマスから水魔法で油だけ分離すれば、ホワイトチョコレートの原料が作れないかとその時から考えていたのだ。
そこでカカオマスがあると聞いて、すぐにでも試したくなったのだ。
「リ、リンネ様! すぐにこちらへ!」
「う、うん・・・」
「何やら慌ただしいな・・・」
それを聞いたパーシアちゃんは、すぐに私を奥の厨房へ案内した。
現在奥の厨房は周囲に敷居があり、中の様子が見えなくなっているのだ。
どうやら秘匿したい料理やお菓子の研究を、そちらで行っているようだ。
「こちらがカカオマスです!」
厨房に入るや否やさっそくパーシアちゃんが、ボールに入れたカカオマスを差し出してきた。
「じゃあちょっと借りるね・・・」
私は受け取ったカカオマスを宙に浮かべると、オリーブの実から、オリーブオイルを抽出する要領で、カカオマスから油を分離していく。
すると予想どおり、白い液体と、ぼそぼそした感じのカカオマスに分類できた
この白い液体が、カカオバターなのだろう。
さらにこのカカオバターに、砂糖、粉状にしたミルクを混ぜ込み、固めていく。
するとそこには、板状のホワイトチョコレートが顕現していた。
「パリ! うん甘い! ホワイトチョコレートだ!」
私はホワイトチョコレートを、少し割って味見してみた。
ホワイトチョコレートは、チョコレートよりも甘く感じるのだ。
「わ、わたくしにも味見を!」
「わたくしも!」
するといつの間にかフリーズしていた、パーシアちゃんとイリスちゃんが動き出し、ホワイトチョコを手に取る。
「パリ! 従来のチョコレートとは少し味が違いますわね!」
「そうですね。従来のものよりも甘みがあります」
「でもこれこそがわたくしの求めていた理想のチョコレートですわ! すぐに研究チームを立ち上げてちょうだい! これから忙しくなりますわよ!」
どうやら私はここに、巨大な爆弾を投下してしまったようだ。
彼女達は挨拶をすると、慌ただしくどこかへ消えていった。
もう私が教えなくても、あの魔法を見ただけで、製法はわかってしまったのだろう。
次に来るときは、美味しいホワイトチョコが食べられるかもしれないね。
【★クマさん重大事件です!】↓
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