02:リンデル
このイーテルニル王国の王都には、リンデルという少年がいた。
彼は今年7歳になる少年だ。
彼はいつも黒髪をなびかせながら、この王都の建物の屋根を飛び回っていた。
リンデルは魔法の才能も有り、すでにその年にして、水魔法と風魔法の、2つの属性魔法が使えたのだ。
彼が建物の屋根を器用に飛び移ったり、その高さで落下を恐れないのは、風魔法が使えるからである。
「おう! 坊主! 今日も任せたぜ!」
「任せとけ!」
その日彼は、朝早く起きて工事現場で働いていた。
リンデルは週に2日は、この工事現場で働くのだ。
「今日はあのへんの材木を頼むぜ!」
「おうよ!」
リンデルはそんな親方の指示を受け、嬉々として材木に走り寄る。
「親方。あんな子供に任せて本当に大丈夫なんですかい?」
すると親方の行為に、部下の男が難色を示す。
その工事現場では多くの屈強な男達が働き、とてもそんな小さな少年が働けるようには見えなかったのだ。
「確かおめえ、あの坊主とは初対面だったよな? なら見ときな、おったまげるぜ!」
ゴゴゴ・・・
「「おおお!!」」
すると何を見たのか、工事現場の男達が驚愕する。
それはリンデルという少年が、屈強な男が2人がかりでようやく持ち上げるような材木を、1人で3つも担ぎ上げたからだ。
リンデルは魔力も多く、すでに強力な身体強化も使えたのだ。
「なんですかい親方!? あの化け物みてえな坊主は!?」
部下の男もそのリンデルの怪力に驚愕を隠せない様子だ。
「さあな。いまだに名前も教えちゃあくれねえが、よく働く坊主だ。きっとやんごとなき方のお子には違いないんだけどな・・・」
親方はそう誰にも聞こえないような声で呟いた。
親方はリンデルの正体には気付いていたが、この少年の優しさにも気付いていた。
そのために今まで、何も言わないでいたのだ。
リンデルが次に向かったのは、スラム街の一角だ。
このスラム街には市民権を得られないほど貧しい人々が住み着き、王都でも問題になっている場所だ。
外国や他領からの移民や、犯罪者などがそのほとんどで、そこには市民権を得るには難色のある人々が集まっていた。
「おう! 今日も来てやったぜお前ら!」
リンデルが向かったのは、その中でも孤児の集まる区画だ。
王都には孤児院も多くあったが、市民権を持たない親の子供は、数々の問題から、孤児院に入ることが出来ないのだ。
「おう! リーダーじゃねえか!」
「皆、リーダーが帰って来たぜ!」
「「リーダー!」」
リンデルは孤児達に、リーダーとよばれて慕われていた。
「おう! 買出しに行くから何人か手伝いやがれ!」
リンデルはきんちゃく袋を、掲げながらそう叫んだ。
そのきんちゃく袋には、先ほど工事現場で稼いだお金が入っているのだ。
リンデルは今日の稼ぎのほとんどを、自分も食べるぶんと称して、孤児達の買出しに費やしていたのだ。
それは孤児の人数にしては少ない量であったが、節約すれば食べるには困らないほどにはあった。
そして買出しについてくる孤児は、いつもだいたい同じメンバーだが、この日は2人だけ、余計について来ていた。
メンバーは今日も大人しめのジルダとよばれる年長の少女と、リンデルといつもつるんでいる、アイデンとよばれる年長の少年だ。
それに最年少と思われる、2人の孤児がついてくるのだ。
その日その2人の孤児は、とてもご機嫌であった。
それはリンデルが少しづつお金をためて、月に一度メンバーを変えて、演劇を見せてくれるからだ。
そしてリンデルも飽きずに毎月、同じ劇を見るのだ。
その演劇の題名は『リンネ・イーテ・ドラゴンスレイヤー英雄伝』といった。
その演劇によると、リンネ・イーテ・ドラゴンスレイヤーは女性のような名前に似合わずゴリマッチョな男で、たくましいゴリラ顔であった。
その様子を本人が目にしたらどう思うだろうか?
きっと開いた口が塞がらなかったに違いない。
なぜ事実がこんなに捻じ曲げられたかというと、そこにはいくつかの理由があった。
その理由の一つとして上げられるのが、ゴリマッチョでゴリラ顔な男が、この王都では非常にもてたからである。
そんなわけでその主演が、そういう男に挿げ替えられたというのもある。
そしてとてもあの幼女が、英雄的な行いをしたという事実を信じる者が少なく、魔法闘技大会の活躍にしても、国のほんの一握りしか、見ることが出来ないので、やはり信じる者が少なかったという理由もある。
数々の理由が積み重なり、リンネは男性として、語り継がれることになってしまったのだ。
またアリスフィア女王など、その劇に難色を示しそうな人物はいたが、彼女にとっても今はその劇の主人公が、男であった方が都合が良かった。
その演劇の内容は、リンネがエテール領にてドラゴンを討伐に行く話から始まる。
その一年後に空飛ぶ魔道船を開発し、ジュラ大陸への大陸横断を果たす。
そしてジュラ大陸から、貴重な食材を多く持ち帰り、自らご馳走を作って王族に振舞う。
最後に邪神ルドラを倒すために、フェニックスに乗って天に向かい、刺し違えて亡くなるのだ。
この最後の部分でリンデルは毎回涙を流しこう言うのだ。
「親父・・・ありがとな・・・」
リンデルはイーテルニル王国の第一王子であった。
その母親であるアリスフィア女王が昔、寝物語に父親の話をしたことがあったのだ。
その話がこの演劇の内容と酷似していたために、リンデルが同じ黒髪の、リンネ・イーテ・ドラゴンスレイヤーを、自分の父親ではないかと、信じてしまっているからである。
またアリスフィア女王も息子のリンデルに、父親がまさか幼女などと、言い出せなかったのも理由である。
「リンデル! 貴方またこの王宮を抜け出していたわね! 大方またあの孤児達のところへでも行っていたのでしょう!?」
「さあ・・・どうだったかな?」
リンデルはとぼけるが、アリスフィア女王は風の探知魔法で、すでにリンデルの行動を事細かく把握していた。
当然リンデルが、スラム街の孤児達に、施しをしているのも知っていた。
女王でありながらその孤児達に、何もできない自分に負い目は感じていたものの、一部の人間ばかりに王族が肩入れする行為も、良くない行為だということは理解していた。
「まったく・・・。お姉さまに似て貴方は・・・・」
こんな時いつもアリスフィア女王は、そう呟くのだった。
カン! カン!
「おう! リンデル! わきが甘いぞ!」
翌日の早朝は、アルフォンス王国最高騎士団長の剣の稽古が始まる。
父親のいないリンデルは、このアルフォンスを父親のように慕っていた。
そしてアルフォンスの腰には、父が作ったという、名剣が帯剣されているのをリンデルは知っていた。
それをリンデルが知っている理由は、たまにアルフォンスが、自慢話のように、リンネ・イーテ・ドラゴンスレイヤーの活躍の話をするからだ。
「リンネは国一の剣の達人だったが、飯を作るのも上手かったんだぜ! 彼奴のヤキウドンを食べたときは衝撃を受けたものだ!」
「親父は王族にもご馳走を振舞ったと聞いているぜ! あんな屈強な男なのに料理もできるなんて、ほれぼれするぜ!」
「お、おう・・・・リンネ・・・は、良い男だったかもな・・・」
だがアルフォンスも、まさかお前の父親が幼女などとは、口が裂けても言えなかったのである。
そして毎回そうした部分では、口ごもってしまうのであった。
そんなリンデルが、あのリンネに出会える日は、果たして来るのだろうか・・・・?
【★クマさん重大事件です!】↓
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