07:海のご馳走
「空気追加!!」
シュウ~!!
思ったとおり出来た。
風魔法は周囲の空気を操る魔法だが、土魔法の操土のように、空気を作り出すことも出来るようだ。
現在私は、クマさんと赤薔薇騎士団とともに、オーストエンデ海岸に来ている。
それは聖獣キリンに課せられた、訓練をするためだ。
訓練とは空気魔法で空気のない海中に潜ることだ。
それはこれから向かう宇宙を想定しての訓練なのだろう。
あと1ヶ月と7日もすれば、この世界にルドラの呪いがやってくる。
ルドラの呪いは巨大な小惑星で、私達の住んでいるこの惑星アースに衝突し、大災害を引き起こし、人類を滅亡の危機に追いやるといわれているのだ。
私はその小惑星をなんとかするために、宇宙に行くことになっているのだ。
「とっさの判断にしちゃあやるじゃねえか!」
空気が漏れ出て小さくなった私の空気の膜が、再び空気を追加されて膨らんでいく。
「だがこの膜の中で、その銛を使ったのはいただけねえな?」
「漁業といえば銛と思ったんですがね・・・。残念ながらここは氷魔法で対処しますか」
私はその大きな口に、氷魔法をかけて凍らせた。
思ったよりも大きく、冷凍に数秒はかかったが、無事大口の全身を凍らせることが出来たようだ。
「ふぁ!! でかいヒラメですよ! 大物です!」
そして改めてよく見ると、それは巨大なヒラメだったのだ。
私はその大物に大興奮する。
ヒラメ、ヒラマサ、ヒラスズキといったヒラとつく魚は、高級だと聞いたことがある。
大概の釣り人も、これらが釣れれば大喜びだ。
それは前世での動画で見た、50センチメートルのヒラメを遥かに超える、3メートルはありそうな超大物だ。
「なんだ。フラットゥフィシュじゃねえか?」
クマさんはその大物に、そんな淡白な反応を示す。
う~ん・・・。この世界の人には、ヒラメとカレイの違いはないんだよな・・・。
しかもヒラメはあまり人気のない魚に分類されている。
「ここまで獲物が獲れたら、狩りはもうええんとちゃう?」
「そうですねクマさん。地上に戻りましょう」
これは夜のご馳走が今から楽しみだ。
ヒラメと言えばお刺身だ。
凍らせてしまったのは少し残念だが、サラダか醤油わさびでいかせてもらおう。
そう夜のご馳走に思いをはせつつ、今日の狩りはここで打ち止めにして、ホクホク顔で地上の砂浜へ足を進める。
「クマさん。地上のアリスちゃん達は退屈していないですかね?」
そう言えば地上では、アリスちゃん達赤薔薇騎士団が待っているのだ。
あんな何もない砂浜で、退屈ではないだろうか?
「大丈夫だろ? 今はビッグキャンサーと戯れているようだしな」
クマさんが魔力感知で、地上の砂浜を探った様子を伝えてくる。
ビッグキャンサー!? もしかして蟹??
これは今日のご馳走の幅がさらに広がりそうだ。
「ふぁあ!?」
そして砂浜に戻ると、そこには無残にも右半分焼け焦げて、右のハサミがなくなった、ビックキャンサーの躯が転がっていたのだ。
「な、なんですかこれは!? 誰がいったいこんな雑な狩り方を!? これじゃあ美味しいビッグキャンサーが台無しじゃないですか!!」
私はそのビッグキャンサーを見て、ショックを受けてヒステリックになってしまう。
「すまないリンネ殿。あまりにこいつがハサミを振り回すものだから、つい爆炎魔法で吹き飛ばしてしまったのだ」
なんと犯人は、アルスレット嬢だった。
「だから言ったじゃないですかアルスレットお姉さま! あのハサミは素手で受け止めないとダメだったんですよ!」
「無茶を言うなマルスリーヌ! 最近だんだんと発言が人間離れしてきているぞ! 姫様やリンネ殿の影響を受けすぎではないのか!?」
「ほう? アルスレットはわたくしのことを、怪物か何かと思っているのですね?」
そこへアリスちゃんが、怖い笑顔でやってくる。
どうやらこれからバトルが勃発しそうな感じだ。
「取り込み中のところすまねえが、嬢ちゃんにお客様だぜ」
するとクマさんの指さす方向から、1体のドラゴンが飛んできた。
「何だあれは!? なぜこんな場所にドラゴンが!?」
そのドラゴンを初めて見るアルスレット嬢は、驚いて叫んでいるが、いつものことなので放置しておこう。
「リンネ・イーテ・ドラゴンスレイヤー貴様に少し話があるんだが・・・」
そこへやってきたのは、センテオトルさんだった。
センテオトルさんは着陸と同時に、いつものおじさんの姿に人化したのだ。
なにか私に重要な話でもあるのだろうか?
「取り込み中なんで後にしてもらえますか?」
「嬢ちゃん!?」
「そう邪険にするなリンネ・イーテ・ドラゴンスレイヤー。今日はお前にしばしの別れを告げにきた」
するとセンテオトルさんは、有無を言わせず語り始めた。
「今頃竜の谷も、ルドラの呪いのことを知り騒ぎとなっていよう。俺も竜の谷に帰り、この先に起こることを見守ろうと思うのだ」
そう言うとセンテオトルさんは、ドラゴンに変化し翼を広げる。
『ルドラの呪いなどに負けるなよリンネ・イーテ・ドラゴンスレイヤー』
そしてそう一言告げると、ゆっくりと離陸し、そのまま飛び立っていった。
そう言えば彼は私の監視をしていたんだなと、今更ながらに思い出す。
どうせあまり顔なんか合わす機会もなかったし、黙って帰っても気付かなかったと思うのだが・・・。
まあ彼なりの、私に対する礼儀なのだろう。
私はそんなことを考えながらも、彼の飛び去った空を、いつまでも見つめていた。
「やっぱり蟹は最高ですね!」
その夜は、その日獲れた食材で作った料理を、砂浜で食べることになった。
空が徐々に薄暗くなる中、焚火を囲みながら食事をするのだ。
私の言う蟹とは、当然ビックキャンサーのことである。
ビックキャンサーは足を海水で茹でて、輪切りにして頂いている。
その足は巨大で、1本でもかなりの量だ。
「お姉さまお代わりです!」
「私もだ!」「わたくしもよ!」
「スーも!!」
しかし赤薔薇騎士団の面々は、育ち盛りの大食漢ばかりなので、ビックキャンサーはどんどんなくなっていく。
「しゃくしゃく・・・サラダもなかなかだね」
サラダには今日獲れたヒラメの刺身を、野菜を巻けるくらいに薄広く切って、入れてみたのだ。
巨大なヒラメならではの、贅沢な食べ方だ。
野菜はレタスに、今日採れたワカメ、トマトに刻んだ人参、玉ねぎなどだ。
「わたくしはキャンサーよりも、こちらのサラダが好みですわ。この白身魚の淡白な感じが良いですわね」
さすが食通のエマちゃんは、淡白なヒラメの味をわかっていらっしゃる。
器にてんこ盛りのサラダを、ゆっくりと上品に味わっている。
サラダにかけたリンゴのドレッシングに、エテール産のものを使用しているのも大きいかもしれない。
そろそろホタテのカツも揚げ始めますかね。
ジュ~・・・パチパチ!
「お! ホタテの揚げ物か! オイラその一番大きいのだ!」
はいはいクマさん。大きさなんて揃えているから、どれもほとんど変わらないですよ。
今回のホタテは、ステーキのように切ったものに隠し包丁を入れて、食べやすくしたものだ。
ついでにビッグキャンサーの身にも、衣をまぶして油に投入する。
これは間違いなく美味しいやつだね。
食事の後はひさびさにホテルクマちゃんを出して、お風呂に入ってその中で寝たよ。
ちなみに夜の見張りは、巨大ゴーレムゴックさん4号が務めた。
翌朝ゴックさん4号が、巨大なヤドカリを摘まみ上げているのを見たときは、少しテンションが上がってしまったがね。
巨大なヤドカリは、きっと美味しいに違いない。
その日は皆を連れて海中にご招待したりと、楽しく過ごし、その4日後には次なる訓練課題をもらうために、再びジャイロさんに乗って、聖獣4柱のいる大平原の遺跡を目指した。
【★クマさん重大事件です!】↓
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