表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/721

39:騎士団の訓練場に行こう

 騎士団が街に帰還してから数日後、クマさんと私は、騎士団の訓練場に向かうことになった。

 これは騎士団に頼まれた技術指導のためであり、クマさんが主導で行われるものと思われる。

 クマさんが騎士団に指導するほど強いのか気になるところだが、なぜ私までついていく必要があるのかが非常に疑問である。



「これからのことを考えたら、嬢ちゃんは、騎士団の戦い方を学んでおいても損はないと思うぜ?」



 これからとは何だ?


 クマさん。不吉なフラグを立てるのはやめてくれ。

 ていうかクマさん。私の土雲という移動手段を完全にあてにしているよね?


 私は仕方なくクマさんを浮遊する土雲に乗せ、一緒に騎士団の訓練場に向かう。



「リンネ!! クマジロウ!! 待て!!」



 すると私たちの前に、アルフォンスくんが立ちはだかった。



「アルフォンス坊ちゃま。蜂蜜フルーツ飴なら今日はありませんよ。今度差し上げますから、道を開けてくださいませ!」


「今日は飴じゃない!! あと坊ちゃまはよせ!」



 『今日は』なんだ・・・



「僕も騎士団の訓練場に連れていけ! 僕を差し置いてチビのリンネが騎士になるなんて許さないぞ!」



 まあ何を言い出すかと思えばこのお坊ちゃまは、勘違いも(はなは)だしい。



「そこをおどきください坊ちゃま!? わたくしは騎士になる気など毛頭ございませんので!」


「騎士になる気はないだと!? 騎士を侮辱するのか!? あと坊ちゃまはよせって!!」



 坊ちゃま面倒くせえ。



「ごきげんよう」


 バビュゥゥゥ~!


「ちょ・・! ま・・!」



 私は坊ちゃまの頭上を土雲で飛び越えると、そのまま坊ちゃまからおさらばした。



「お? あいつ走ってついて来るぞ」



 アルフォンスくんは、もの凄いスピードで走ってついて来ていた。

 確かアルフォンスくんは『かけっこ』のスキルを持っているかもしれないのだったな。

 だがそれでも浮遊して走る土雲に速度は追いつかず、徐々に離されていくのだった。



「嬢ちゃん。あいつが追いつけないぎりぎりまで速度を落としてくれ」



 何を言い出すやらクマさんは?



「あいつも将来強くならねばいけねえ。少し鍛えてやるぜ」



 あぁ。そういうことですか。


 クマさんに恩だらけで逆らえない私は、素直に浮遊走行する土雲を減速した。


 騎士団の訓練場は街の外にあるようだ。

 途中迂回しなければならない危険な森もあると聞く。

 そして街道にもゴブリンくらいは出るのだ。


 アルフォンスくんには少し危険なのではと思うのだが、いったいこのままついて来させてどうするつもりなのか?





 そして私たちは城門をくぐり抜けて、街の外に飛び出した。


 D級冒険者である私は、もちろんフリーパスで街を出られる。

 今までみたいに衛兵のおじさんに止められることはもうないのだ。


 ただしアルフォンスくんは違った。


 門の衛兵のおじさんに羽交い絞めにされて、連れていかれてしまった。

 これから領主様のところに連れ戻されて、こってりお説教されるのだろう。


 クマさんもこれを見越していたのだと思う。



「アルはまあ・・・ここまでだ。あいつにはまだ街の外は早いからな」


 

 そして私は浮遊走行する土雲の速度を上げる。



「嬢ちゃん。そのまま森に入ってみ。まだ遭ったことがない魔物がいるぜ」


「あいよ」



 私は浮遊走行する土雲を森に向かわせた。



「グルグル・・・」



 しばらく進むと、魔物の唸り声が聞こえてきた。


 

「グォォォォォ!!」



 そして現れたのは、角の生えた3メートルはあろう熊の魔物だった。


 

「ホーンベアだ。ビッグボアやビッグオストリッチより強敵だぜ」


「ベアって熊ですよね? 同類をやっつけちゃっていいんですか?」


「気にしなくていい。オイラこう見えて熊の仲間じゃねえから」



 クマさん衝撃の告白・・・・。


 フェンリル設定はまだ生きていたのか?

 その見た目で自分は狼の仲間だとでも、のたまうつもりだろうか?


 しばらく同じ獲物ばかりで退屈していた私は、ちょっとした強敵に出あえて、少しテンションがあがった。



「いきますよ・・・。土剣!!」



 まず手始めに土剣を発動する。

 そして威嚇中で二足歩行の、ホーンベアの腹に土剣による突きを繰り出す。



「えいや!!」


 パシ!



 手ごたえが軽いな? 衝撃を吸収されたのか?



「グォォォォォ!!」



 ホーンベアは吹き飛んだが、空中で反転して着地、直後に突撃してくる。



 パン! パン! パン! パン!



 私は次に土銃を出すと、ホーンベアの顔面めがけて4連射した。

 たまらずのけぞって転倒するホーンベア。それでも即座に立ち上がる。



「打たれ強い!!」



 しかし土銃を顔面に連続で受けたホーンベアはグロッキーだ。足元がふらふらしておぼつかない。



 バシュン!!  ドカ!



 私はチャンスとばかりにホーンベアの足を土剣で払う。

 土剣の足払いによって、ホーンベアは仰向けに転倒する。



 ドカ~ン!!



 その隙に私は土剣をホーンベアの鼻に、地面と挟み込むように叩き付ける。



 ドカ~ン!! ドカ~ン!!



 そのまま土剣叩き付けの2連撃!!

 3撃目が当たると、ホーンベアはそのまま土剣に押しつぶされた状態で、痙攣して動かなくなった。



「ふぅ~。今日は熊鍋ですかねクマさん?」


「その言葉に悪意を感じるのは気のせいか?」


「あ、熊の解体は初めてなので教えてくださいね」



 私はホーンベアの死体を収納魔法でしまうと、再び浮遊する土雲に乗って、騎士団の訓練場を目指した。





 しばらくすると砦のような建物が見えてきた。どうやらあれが騎士団の訓練場のようだ。

 

 騎士団の訓練場の門の前には、槍を持った若い騎士が、一人で見張りをしているのが見える。

 退屈そうに欠伸までしている。



「嬢ちゃん。ここで土雲はしまおうや」


「ふぁ? このまま土雲で行かないんですか?」



 私はクマさんの指示どおり土雲を解除して、土に戻した。



「あの騎士眠たそうだから、少し目覚まさせてやろうぜ?」



 クマさんは悪るい顔をしながらニヤリと笑った。





 その騎士は退屈そうに欠伸をしている。

 もしかしたら長時間見張りでうんざりしているのかもしれない。

 そんな騎士のお兄さんに、遊んであげようというのがクマさんの考えだ。



「わたくし、騎士団長様に呼ばれて参りました」



 二足歩行の子熊と幼女の来客に、若い騎士は困惑する。



「お嬢ちゃん・・・従魔を連れて一人で来たのかい?」


「はい。そうですが。ここを通してくださいませんか?」



 クマさんが言ったとおり、目の前の若い騎士は私の顔を知らないようだ。

 おそらくゴブリン討伐に参加できず歓待に出席できなかった、見習い騎士なのだろう。

 不思議な浮遊する土雲にさえ乗っていれば、若い騎士は、私の正体に気づいた可能性はあるが・・・。


 

「悪いけどここは通せないよ。送りをよこすから街に帰りなさい」



 どうやらクマさんの計画どおりに事は進んだようだ。



「ならばわたくしと勝負してください。わたくしが勝ったらここを通していただきます」



 私はクマさんの用意した木剣を構えて、若い騎士に向けた。



「あのねえお嬢ちゃん。そんなの向けられてもここは通せないよ」


「ならばわたくしの勝ちですね? 貴方はわたくしの剣を恐れて戦いから逃げたのですから」


「は~。一回打ち据えれば満足してくれるのかな? 君みたいないたいけなお嬢ちゃんを打ち据えたくはないのだけどね?」



 それもそうだ。こんないたいけな幼女を打ち据えるのに、その槍は使いたくないだろう。

 ならばと周囲を見渡すと、丁度いい感じの木の枝が落ちていた。



「ならばそこに落ちている木の枝でどうでしょう? 木剣の代わりにはなりませんか?」


「ん~。その枝なら怪我はしないかな・・・?」



 若い騎士は槍を壁に立てかけると、かがんで木の枝を拾おうとする。

 その瞬間私は、靴底に小さな土雲を発動する。

 そして滑るように移動し、若い騎士へと近づく。

 続けてその無防備な頭を、木剣で打ち据えて差し上げた。



 ポコ!



 幼女の力は非力なので、全く効いていないのだろうが、私のその行動に驚いた若い騎士は、目を丸くしてこちらを見ていた。



「一本です。わたくしの勝ちですね?」


「い・・・今のは反則だろ? まだ俺は木の枝を構えてはいない」



 若い騎士は言い訳を始める。



「戦場でも同じように言い訳なさるのですか?」



 その私の台詞に、若い騎士の顔は真っ赤になる。

 そして木の枝を私に向けて構える。



「いいだろう! 次は容赦しないぞ! いつでも来い!」



 騎士の自信か、誇りからか、自分からは来ないつもりらしい。


 私は再び靴底に出した小さな土雲で、若い騎士に滑るように接近すると、若い騎士は握りしめた木の枝を、私の頭目掛けて振り下ろしてくる。


 普通幼女の私の動体視力では、見習いとはいえ、騎士の渾身の一撃を見切り躱すのなど不可能である。

 しかし私は、若い騎士の周りを土雲で旋回するように移動し、その攻撃を紙一重で躱したのだ。


 驚愕の表情でその様子を視認する若い騎士だったが、そのまま前に出した右足が何かに引っ掛かり、前のめりに転倒してしまう。


 もちろん若い騎士の足を引っかけたのは、私が土魔法で作った小さな小山だ。


 

 ポコ!



 転倒した若い騎士の頭を、再び木剣で打ち据える。


 よほど悔しかったのか、そのまま若い騎士は横なぎに木の枝を振るい、私の足元に向けて反撃してくる。

 しかしその攻撃が見えている私には当たらない。

 私は土雲を浮遊させ、上昇することでその攻撃を躱したのだ。


 再び若い騎士は驚愕の表情で、目を見開くことになる。


 

 ポコ!



 そして私の木剣がもう一発、若い騎士の頭に振り下ろされた。





 さかのぼること数分前。私は門の前の若い騎士とどう戦うのかを、クマさんに指南してもらっていた。


 

「嬢ちゃん。騎士の攻撃はおそらく嬢ちゃんの動体視力では捉えきれない。嬢ちゃんは、動体視力で捉えきれない攻撃を躱すにはどうしたらいいと思う?」



「う~ん・・・。気合で躱す?」


「嬢ちゃん・・・。それはどこの脳筋の話だ? いいか嬢ちゃん。魔力を薄く周囲に広げると、魔物の気配がわかるのは理解しているな?」



 以前、草むらに潜んでいる角兎を見つけるのに、周囲に魔力を薄く広げて、角兎の存在を感知した記憶がある。そのことだろう。



「薄く広げた魔力で、気配を感知した対象を集中してみるんだ。とりあえず魔力を薄く広げてオイラの気配を探ってみ?」



 よくわからないが、私は魔力を薄く周囲に広げると、クマさんの気配を感知した。

 感知したクマさんを集中して見ると、息遣い、心臓の鼓動が伝わってくるのがわかる。



「なんとなくですが、わかった気がします」


「それじゃあそのまま目をつむって、オイラが何をしているか当ててみな」



 私はクマさんを感知したまま目を閉じた。

 すると目を閉じているのに、色のついていない何かを見ているような、奇妙な感じがした。

 そしてクマさんの行動が手に取るように伝わる。


 クマさんは収納魔法を使うと、木剣を取り出して右手に持った。

 そしてその木剣を振りかぶると、目をつむっている私目掛けて、投げつけて来たのだ。

 悪辣(あくらつ)な笑顔を浮かべるクマさん。


 私は飛んで来る木剣にも意識を向ける。

 するとクマさんの攻撃するであろう軌道が赤く見えた。

 そしてまるで飛んで来る木剣が、コマ割りでもしているかのように、意識できたのだ。



 パシッ!!



 私は木剣が頭に当たる直前に、木剣をキャッチしてみせた。



「酷いじゃないですかクマさん!」



 私はほっぺを膨らませて抗議する。



「ハハハ! 悪い! でもできたじゃねえか?」


「なるほど。これが『動体視力で見えない攻撃を躱す』方法ですね?」





 そして現在に至る。


 若い騎士は年端のいかぬ幼女に、打ち据えられたのが相当ショックなのか、転倒したまま起き上がる気配はなく、呆けたまま固まっていた。



 

【★クマさん重大事件です!】↓


 お読みいただきありがとうございます!

 ほんの少しでも・・・・


 「面白い!!」

 「続きが読みたい!」

 「クマさん!」


 と思っていただけたなら・・・


 ブックマークと

 画面下の広告下【☆☆☆☆☆】から評価をお願いします!!

 【★★★★★】評価だと嬉しいです!


 いつも誤字報告を下さる方、ありがとうございます!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ