42:冒険者体験学習4
現在私達は魔術学園の冒険者体験学習の最中だ。
その冒険者体験学習も2日目の朝を迎えた。
「皆さんもう起きていらしたのですね?」
私が朝早く起きると、すでに使用人である生徒達は、起床して朝の準備に取り掛かっていた。
「はい。お嬢様のお湯の準備や、洗濯物もありますから」
見るとすでに洗濯物は干され、焚火の上には水の入った鍋が置かれていた。
「朝ごはんはもうおすみですか?」
そんな頑張っている彼らに、私は何か差し入れしてあげようと考えた。
「いえ。朝ごはんは後程黒パンで手早く済ませる予定です」
使用人は全員、朝食はあの硬い黒パンで済ませるようだ。
「ならこれを試してみてください」
私は使用人達に、朝食用にと多めに作っておいた、おやつバーを渡した。
「いえ・・・もったいないですお嬢様。我々のような平民にこんな・・・」
「平民の方の意見も聞きたいのです。後で食べた感想をお願いしますね」
そう言うと私は、ベーコンチーズとドライフルーツ、蜂蜜入りの3種のおやつバーを1本ずつ使用人達に勧めた。
「じゃあ私はこのベーコンチーズで・・・」
「ではドライフルーツでお願いします」
「あの・・・申し訳ありませんがわたしもドライフルーツが・・・」
「まだ沢山ありますから、好きな物をどうぞ」
使用人達におやつバーを配ると、私は朝食の準備に取り掛かる。
といっても昨日見つけた山菜で、スープを作るだけだがね。
朝は私達もスープとこのおやつバーですませる予定なのだ。
「サクサクして、柔らかくて美味しい~」
「そっちはどんな味!?」
使用人達も騒がしく、朝食を開始したようだ。
私は使用人になぜか人気のなかった、蜂蜜味のおやつバーをいただくがね。
「あらディートリンネ。もう起きていたのね?」
「おはようございます・・・」
そこへ起床したばかりと思われる、マルスリーヌ嬢とパーシアちゃんがやって来た。
「はい。今朝はスープとこのおやつバーですけどね?」
「へ~。あの3つの中から味を選ぶのかしら?」
「ディートリンネちゃんはどの味にしたの?」
「私は蜂蜜味にしました。味はそうですね。3種類の中から選んでください」
「じゃあ蜂蜜で」
「わたくしも蜂蜜よ!」
おや? 意外に蜂蜜味は貴族には人気があるようだ。
「あら? あの子達にも配ったのかしら?」
マルスリーヌ嬢が楽し気におやつバーを食べる、使用人達を見てそう口にする。
「はい。彼らには意外と蜂蜜が人気がないんですよ」
「たぶんそれって遠慮したのよ」
え? 遠慮?
「蜂蜜は貴女が思っている以上に高価なのよ」
なるほど。彼らが先ほど蜂蜜味を選ばなかった理由は、その高価さに、選びにくかったせいか。
「サク! 蜂蜜味あま~い! 美味しいわ!」
そんな彼らを尻目に、パーシアちゃんは遠慮なく蜂蜜味のおやつバーをかじる。
「嬢ちゃんおはよう」
「ディートリンネお姉さま。おはようございます」
「ディートリンネ様おはようございます」
そしてクマさんをはじめ、アリスちゃんとエマちゃんも目を覚ましたようだ。
「今からお前達には、薬草を探してもらう」
朝食が終わると、今日は薬草採取をやるようだ。
薬草採取といえば、街の子供達の小遣い稼ぎの手段でもあるので、当然経験したことのある生徒もいるだろう。
マルスリーヌ嬢とパーシアちゃんも、じつは魔戦料理研究クラブで、似たような採取は経験があるので、思ったよりも早く終わりそうだ。
「採取の数は冒険者ギルドの初期依頼と同様に、10株とさせてもらう」
10株の薬草採取は、私も冒険者G級のときに受けているので、懐かしくも感じる。
あのときに会った冒険者のお兄さん2人は、元気にしているだろうか?
私はそんなことを思い出しながら、さっそく薬草を10株集め終わり、山菜採りに没頭しはじめる。
カカキン! カキン!
アリスちゃんとエマちゃんも、すでに薬草採取を終了して、2人で摸擬戦を開始しているようだ。
その激しい摸擬戦の様子を見るギャラリーの数も、徐々に増えてきているようだ。
「ディートリンネちゃん、わたくしも山菜採りに参加するわ」
パーシアちゃんも薬草採取を終え、山菜採りに参加する。
「わたくしを忘れないでよね!」
カキン!
いつのまにやらマルスリーヌ嬢も、アリスちゃんとエマちゃんの摸擬戦に乱入しているようだ。
「皆聞いてくれ・・・!」
すると引率の冒険者の1人が言葉を発し、すでに薬草採取が終わった生徒達の注目を集める。
「すでにおっぱじめている奴らもいるみたいだが、空いた時間は、摸擬戦をすることにする! 俺に挑戦したいやつは前に出ろ!」
どうやら簡単な薬草採取にした理由は、空いた時間に摸擬戦をやる予定にしていたためのようだ。
「お願いします!」
木剣を構えた男子生徒が、冒険者の1人に挑む。
「武器は木剣か? なぜその武器を選んだんだ?」
「かっこいいからです!」
男子生徒は正直にそう口にした。
「ははは! かっこいいからか!? だが冒険者はかっこよさだけじゃあ務まらないぞ!」
冒険者の武器は槍を模したような棒のようだ。
そして木盾も装備している。
バキ!
「うあ!」
そして決着はあっという間に着いた。
棒で打ち付けられた男子生徒が、地面を転がる。
「ありがとう・・・ございました」
自信があったのか、男子生徒は悔しそうだ。
「次はわたくしが相手をいたしましょう」
そして次に冒険者の前に立ちはだかったのは、アリスちゃんだった。
「姫様とて手加減はいたしませんよ? 武器はその木剣でいいので?」
「ええ。これが一番手に馴染む武器でしてよ・・・」
アリスちゃんと、屈強な冒険者が向かい合い、お互いの武器を向け合う。
「変わった構えですね? それは王族の流派ですか?」
「いえ。聖獣様の流派です」
「ほう?」
アリスちゃんの剣の構えは、クマさんから習ったフェンシングの構えだ。
しかし冒険者達にその構えは、あまり馴染みがないもののようだ。
「はっ!!」
バチ~ン!!
開幕直後に、アリスちゃんの鋭い突きが、冒険者の木盾を激しく打ち据える。
「くっ! 速い! そして重い!」
その突きを盾で受けたにもかかわらず、冒険者は大きく仰け反る。
「どうしました? 軽い1撃ですよ?」
アリスちゃんはまるで挑発でもするように、冒険者に対してそう言ってのける。
「くっ!」
冒険者はすぐに体勢を立て直し、リーチの長い棒を突き出す。
だがその1撃は、軽々とアリスちゃんに躱されてしまった。
「ここだ!!」
だがアリスちゃんが躱した直後に、冒険者は体重をのせたタックルのようなシールドバッシュでアリスちゃんに襲い掛かる。
相手の剣ごと盾で押し込んで、そのまま突き飛ばして1本取ろうという作戦だろう。
カツン!
「な・・・! 馬鹿な!?」
だが冒険者は突如盾を構えたまま動きを止める。
なんとアリスちゃんは、冒険者の体重をのせたシールドバッシュを、剣1本を突き出して、片手で止めていたのだ。
これはアリスちゃんの強力な身体強化が可能にした、強引な力技であろう。
「すげえ!」「何だあれ?」
「「わああああ!!」」
その様子にいつの間にか周囲に集まっていた生徒達が、驚愕し沸き立つ。
「ふん!」
「うあ!!」
アリスちゃんはそのまま力任せに、冒険者の盾を上に突きあげると、冒険者の防御ががら空きとなる。
「わたくしの勝ちでよろしいかしら?」
そして気づくと冒険者の首筋に、アリスちゃんの木剣が当てられていた。
「ま、参りました・・・」
冒険者は負けを宣言すると、腰を抜かしたように後ろに倒れ込んだ。
「すげえぞ姫様!」「なんて強さだ!」
そしてしばらく間を開けて、ギャラリーである生徒達が再び沸き立つ。
「次はわたくしがお相手いたしますわ」
次に冒険者の前に立ちはだかったのは、エマちゃんだった。
武器は冒険者と同じ長い棒のようだが、盾は装備していない。
「わ、悪いですが姫様の関係者の方はご遠慮ください。我々ではとてもご指導することなど出来ませんから」
まあ当然そうなるよね。
エマちゃんは先ほどまで、あのアリスちゃんと互角にやりあっていたのだから。
そんな相手と戦えば、再び敗北して指導者としての立場がないのだろう。
「ならエマの相手は、このC級冒険者のオイラがしてやるよ」
そしてここで冒険者側に立ったのは、バトルジャンキーなクマさんだった。
もしかしたらがっかりした様子のエマちゃんに、気を使ったのかもしれないね。
そういえばクマさんも引率の冒険者と同じC級冒険者だった。
とりあえず懐かしいクマさんの二つ名で、声援でも送っておいてあげますか。
「頑張れ! 姫寵愛のクマジロウ!」
ちなみに姫寵愛のクマジロウは、クマさんの黒歴史の1つであった。
そのあまりの令嬢に対する篭絡っぷりに名付けられた二つ名なのだ。
「ふぬん!! 嬢ちゃんめ!!」
「なんですかクマさん! クマさんの相手はエマちゃんですよ!」
すると激高したクマさんの剣先が、私に向けられる。
「おまちください! クマジロウ様!」
エマちゃんがそんなクマさんに、慌てて声をかける。
その後アリスちゃんとマルスリーヌ嬢も加えた大乱闘となり、楽しいチャンバラごっこが幕を開けた。
私はひたすら躱していただけだがね。
そしてさらにその翌日、冒険者体験学習も最終日となったために、私達は再び来た道を通って、王都への帰路についたのだった。
こうして楽しい冒険者体験学習は、無事に終了したのだった。
【★クマさん重大事件です!】↓
お読みいただきありがとうございます!
ほんの少しでも・・・・
「面白い!!」
「続きが読みたい!」
「クマさん!」
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