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31:孤児院のパン工房

「貴方たちはなぜ孤児院に入らないのですか? 見たところ衛生状態は良くありませんし、エマちゃんは小さいですから人攫いなどの被害も心配です」



 彼らがこのまま治安の悪いスラムで、暮らし続けるのは危険だ。

 衛生状態の問題もあり、いつ再び病気にかかるかわからないからだ。

 とくにエマちゃんは幼い。これからが心配だ。

 それに人攫いに遭う可能性だってある。


 そして現在私は、二人に孤児院に入ることを勧めている。


 

「エマが孤児院に居られないのは俺が原因なんだ・・・」



 孤児院に居られないのはギルくんが原因? いったいどういうことだろう?



「あぁ~。そうか・・・」



 アルフォンスくんが、残念そうな顔をして天を仰いだ。


 え? アルフォンスくんは何がわかったの?



「ギルはこれでも13歳なんだ」


「え? ギルくんの年齢が何か関係あるんですか?」



 ギルくんは13歳にしては小柄で、10歳くらいにも見える。

 アルフォンスくんより背も少し高いくらいだ。

 きっと栄養状態のせいなのだろうが・・・。



「お前何でも知ってそうで当たり前のことは知らないよな?」



 私が知らない常識? いったい何だろう?



「孤児院には12歳以上は居られないんだよ。ここでは12歳で大人に見られるからな」



 なんと早熟な! 12歳で大人って厳しすぎないか?



「エマは俺と別れたくなくて、俺についてきたんだ」


 

 エマちゃん小さいもんね。お兄ちゃんと別れたくなかったんだね。

 でも12歳で大人ということは、仕事にもつけるということだよね? 

 仕事で稼ぎがあれば、こんなところに住まなくても良くないか? 



「ギルくんは薬草採取をしていましたよね? あれでは稼ぎが少ないんですか?」


「薬草採取じゃあ、あまり稼げない。二人やってくのに今の状態がやっとなんだ。昔は林業があったから何とか職につけたけど、今はそうじゃないし・・・」



 また出てきたね林業の問題。


 この街は林業が盛んで、その林業で成り立っていたけど、魔物の影響でその林業ができなくなってしまったんだ。

 だから貧困にあえいでいるわけなんだけど、こんなところにも影響が出ているなんて本当に深刻だな。



「エマちゃんはどうですか? ここは、お兄さんの生活が安定するまで、孤児院で待ってみてもいいんじゃないですか? 今回みたいなことがあれば、次はどうなるかわかりませんよ?

 それに今、私の知っている孤児院では、さきほどのふわふわパンを作っています。作り方も教えてくれますし、将来役に立つと思うのですが」


「孤児院であのパンを作っているの!?」



 エマちゃんはあのパンが相当気に入ったのか、この話題に食いついてきた。



「はい。よろしければ今から見学に行ってみませんか?」


「行く!! エマあのパン作っているところ見たい!!」



 こうして私たちは、孤児院へパン作りの見学をしに行くことになった。






「おぉぉい! 待ってくれ~!!」



 現在私はエマちゃんと相乗りで、孤児院へ向けて土雲で移動中だ。



「すごぉぉぉい! 速い!!」



 男の子二人はそれについて走ってきている。


 ん? でもギルくんが大分置いていかれたな? さすがにスピードを落としますか。



「速えって!! 追いつけねえだろ? おぉぉい! ギル大丈夫か?」


「はあ、はあ、二人とも速えよ」



 疲れ果てたギルくんが、恨みがましく言った。

 でもそのおかげでもう孤児院が見えてきた。






「クマさんだ!!」



 エマちゃんが叫ぶ。


 孤児院に着くと、クマさんと取り巻きの幼児たちが、出迎えてくれた。

 エマちゃんとギルくんの紹介も終わり、エマちゃんはもこもこのクマさんに大興奮中だ。



「よう嬢ちゃん! 孤児院に何か用かい?」


「パンの製造状況はいかがですか? 明日はいよいよ天使のパンの納品日ですよ」



 私は用件を尋ねて来たクマさんに、天使のパンの納品日を告げる。



「おう! 天使のパンの製造なら順調だ。シェリーとビリーが中心になって、グループで競ってパンを製造中だぜ!」



 私たちは天使のパンの、製造場所へ向かった。


 天使のパンは、女子組と男子組に分かれて作っているようだ。

 女子組は四人いて、シェリーちゃんがパンを焼き、コーリーちゃんが砂時計を見ながら何かを計測しながら、記述しているようだ。

 おそらくパンの焼けるタイミングを、正確に測ろうとしているのだろう。

 後の二人はパンをこねている。


 男子組は三人いて、ビリーくんがパンを焼き、後の二人はパンこね係のようだ。

 男子組の製造数は多いが、半数は焦げている。

 女子組は正確に焼いているせいか、製造数は少ないが、焦げているパンはあまり見かけない。



「130斤突破だぜ!! 俺たちの勝ちだな!?」


「そっちのパンは半分が焦げてるから、こちらの勝ちよ!!」



 シェリーちゃんとビリーくんが、何やら言い争っているけど、焦げたパンも耳を切り取って白いパンとして売るからね。

 


「すごーい! ふわふわパンが沢山!!」



 エマちゃんはパンが沢山並んでいる様子に、またもや大興奮だ。



「刻んだパンの端よ。食べてみて」



 シェリーちゃんが見学中の私たちに、パンの耳を勧めてきた。



「あー。悪いな」



 アルフォンスくんとギルくんは、パンの耳にかぶりついて表情が変わる。



「美味しい!!」



 エマちゃんにも好評だ。

 パンの耳って香ばしくて美味しいんだよね。ハムハム。



「お姉ちゃん! エマにもパンの作り方教えて!!」


「君にはまだ早いかな? 火を使うからね。でもパンをこねるのならやらせてあげてもいいよ」



 エマちゃんがシェリーちゃんに、パンの作り方を聞いている。

 エマちゃんはあのパンが、相当気にいっていたもんね。


 その後、空が赤く染まり夕方になると、パン作りは終了となった。


 アルフォンスくんと私は、屋敷に門限までに帰らないといけないので、クマさんを連れて先にお屋敷への帰路に着いた。


 エマちゃんはパン作りの話が聞きたいらしく、今日は孤児院に泊まるそうだ。

 そしてギルくんもエマちゃんの保護者として、孤児院に泊まり込むことになった。





 屋敷に戻ると、私たちはさっそく領主様に、ギルくんとエマちゃんの現状を報告した。



「スラムなどの路上で、掘っ立て小屋を造って生活している住民の報告は多数受けているが、現状領地に余裕がない以上、そちらにまわす予算もなく、どうすることも出来ないのだ」


「父上、街で空地を見かけたことがあるんだけど、そこでは生活出来ないのか?」


「それはトラブルの要因になりかねない。周囲の住民が反対するだろう」



 前世の記憶で、公園や広場でテント生活をするホームレスなどは、色々なトラブルを起こしていると聞いたことがある。

 例えばテントや掘っ立て小屋が強風などで破損して、周囲の住民が怪我をしたケースなどだ。

 また広場などにホームレスが集まることで、治安の悪化を招くケースもある。

 貸した土地でトラブルが起これば、貸し出したものの責任にもなりかねない。


 そういう理由で、空き地で掘っ立て小屋生活は難しいだろう。



「なら広場に長屋を建てて、安く貸し出してみては如何でしょうか?」


「長屋とは? 聞いたことがない言葉だが?」



 この世界に長屋はないのかな?

 時代劇などでは頻繁に長屋が登場していた。

 土地がない農民などは、長屋を借りて生活していたと聞く。


 ならば土地のない彼らに、アパートのような長屋を用意してあげて、安い料金で貸してあげれば良いのだ。


 私は前世の記憶を頼りに、領主様に長屋について説明した。



「なるほど。集合住宅のことか。大きな建物はそれだけ建築費用がかさむ。現状予算がない以上、それも不可能だな」



 長屋やアパートと言うよりは、集合住宅の方が伝わりやすいのか。



「いいえ。集合住宅ぐらいでしたら、わたくしが土魔法で建築しますよ」



 私の土魔法なら、けっこう大きな長屋が造れるはずだ。

 なぜなら以前ウエストレイク村の周囲を防壁で覆った時、まだ魔力に余裕はあったし、丈夫な防壁が造れたからだ。



「まて。何を言っているのか理解が追いつかぬ」



 領主様は私が土魔法で建物を建てるという発言が、信じられないのか、理解できないようだ。

 そういえば料理研究所を建てる許可を取るときに、建物を建てるという話はしたはずだが、どう理解していたのだろうか?

 今度確認をとっておかないと、後で驚かれるかもしれない。



「嬢ちゃんは以前、ウエストレイク村の周囲を覆いつくすような防壁を土魔法で造っている。それなりに大きな建物の建築が可能だ」



 クマさんの言葉に領主様は、腕を組んでなにやら思案し始めた。

 


「すまないがこの件は少し預からせてくれ」



 まあ、この問題はすぐにどうこう出来るとは思っていなかったし、明日はいよいよ孤児たちの作ったパンを、商業ギルドに納品する日だ。そちらに意識を集中させよう。


 ん~・・・でも気になるから集合住宅の設計図くらいは、描いておいてもいいかな?


【★クマさん重大事件です!】↓


 お読みいただきありがとうございます!

 ほんの少しでも・・・・


 「面白い!!」

 「続きが読みたい!」

 「クマさん!」


 と思っていただけたなら・・・


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