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30:ギルとエマ

「こちらはどちらでしょうか? あまり治安の良い感じではありませんが?」



 狭い通路を抜けると、暗い感じの狭い路地裏に出た。

 浮浪者らしき男が通路に横たわり、ゴミが散乱し、あまり治安が良いとは言えない場所だ。

 スラム街といった感じだろうか?



「ここらは貧しい奴らばかりが集まって生活してんだ。でも気の良い奴らばかりだぜ」



 ただでさえ貧しくて、黒パンと水で生活しているような街なのに、さらに貧しいなんて、何を食べて生活しているんだ?



「着いたぜ。ここだ」



 しばらく奥に進むと再び狭い通路に入り、その奥には木材とゴミを組み合わせたような、掘っ立て小屋が見えてきた。



「おぉぉぉい! 遊びに来たぜ!」


「な! アル!」



 アルフォンスくんが掘っ立て小屋に向かって叫ぶと、中から住人らしき少年が姿を現した。



「ここへは来るなと言っていたろ? あまり治安が良くないんだ」



 確か衛兵のおじさんが、この街はあまり治安が良くないようなことを言っていた。

 それはこの辺りのことを言っていたのかもしれない。


 そういえばこの少年には見覚えがある・・・? 確か薬草採取の・・・少年のリーダー!



「あ!! 浮遊幼女!!」



 見覚えのある少年は、私を指さしてそう叫んだ。


 浮遊幼女って何だよ? まるで浮遊霊みたいな言い方はやめていただきたい。

 せめて魔法幼女とかにしてくれ。



「あ~・・・こいつは最近屋敷にやって来たリンネっていうんだ。でそいつは僕の親友でギルだ。」



 アルフォンスくんが、私と見覚えのある少年の紹介をしてくれる。



「はい。わたくしリンネと申します。お見知りおきを」



 私は新しく覚えた正式なカーテシーを発動させる。



「げ! お貴族様だったのか! どうりで小さいのにボンボン魔法を使っているわけだ」



 その言い方だと貴族の小さい子が、皆ボンボン魔法を撃ってそうな言い方に聞こえるが、貴族の小さい子はさすがに魔法は撃たないと思う。



「いいや違うぞ。こいつは貴族じゃないぞ。最近屋敷の中庭に、勝手に小屋を建てて住みついているんだ」



 家の庭に勝手に住みついた、猫や犬みたいな言い方はやめていただきたい。

 聞き方によっては不法入居者みたくも聞こえるぞ。



「人聞きの悪い言い方はよしてくださいませ。わたくしは正式に領主様の許可を得て小屋を建てております」


「え? 領主様の屋敷の庭って、許可があれば小屋とか建てて住みついても良いのか?」


「兄ちゃんお客さん?」



 あらぬ方向に会話が進みだしたその時、掘っ立て小屋の中から、幼い少女の声がした。


 ひょこっと、掘っ立て小屋から出てきた少女は、薄汚れた白いワンピースを着ており、小さくやつれた様子で、はかなげに見えた。

 年齢は6歳くらいだろうか? 背は私と同じくらいに見える。



「寝ていろって言ったろエマ。まだ体の調子が悪いんだ」



 エマちゃんていうのか。



「うん。ごめんね兄ちゃん・・ごほ! ごほ!」


「ほら無理するから」



 あの咳・・・風邪だろうか?



「失礼ですが、妹さんは何時からあのような様子で?」


「一月ぐらい前からだ。徐々に咳が出だして、今はあの調子さ」



 一か月前? 風邪ではない? 栄養失調? いや結核の可能性もある。

 だとしたら危険だ。早めに治療しないと。



「わたくしの魔法で何とか出来るかもしれません。少し様子をうかがっても?」


「え? 本当か!? でも俺お金が・・・」



 魔法における医療行為は、この異世界では頻繁に行われているのだろう。

 そういった行為を行う人たちは、医者のカテゴリーに入るのだろう。

 この異世界の文化レベルは、中世程度と推測できる。

 ならば医療にかかる料金も高額なのかもしれない。

 そして無料の治療というのは、その既得権益にかかわることなので、あまり良い行為とは思えない。


 ならばその治療自体を秘密にして、なかったことにすれば良いのか?



「治療自体は、わたくしの気まぐれですので無料で良いですよ。ただしこの治療がばれた場合、良からぬことが起きる可能性があります」


「つまり治療を秘密にしろってことだな?」



 察しが良くてなにより。


 私は早速、寝ているエマちゃんを診ることになった。



「お兄ちゃんその子誰?」



 私が掘っ立て小屋に入ると、エマちゃんは心配そうに私の顔を見た後、兄であるギルの顔を見た。



「お前の病気を見てくれる魔法使い様だ」


「嘘! だって私と同じくらいだよ?」



 魔法使い様と聞いた私が、自分と同じくらいの年に見える少女で、信じられないようだ。



「大丈夫ですよ。私は魔法使いです。名前はリンネっていいます。よろしくお願いしますね」



 私は笑顔で妹ちゃんの顔を見ると、魔法使いと信じてもらうために、収納魔法で出した少量の蜂蜜とリンゴの汁を指先に浮かべて、指先でクルクル回した後に、合わせて色々な形にした後、丸く固めて飴玉に変えた。



「すごーい!! ごほごほ!」


「ほらエマ、興奮するな」



 ギルくんは起き上がったエマちゃんを再び寝かせると、私から受け取った飴を、エマちゃんの口に含ませた。



「甘い・・・」



 この子の笑顔を見たら、どうしても助けたくなった。

 まだ小さな女の子がやつれて、顔色は悪くて、今にも死にそうに見える。

 そんな子が見せた笑顔に、私は居た堪れなくなり、目の前が涙でにじんだ。


 前世の私はこんなに涙もろかっただろうか? 幼児退行した影響か?



「大丈夫?」


「はい、大丈夫です。目にゴミが入ったみたいです」



 私は目にゴミが入ったことにして、その涙を誤魔化した。



「それでは治療を始めますよ」



 そして笑顔で治療開始を告げる。


 私はエマちゃんの手を取り、回復魔法を使って一番病状が疑われる喉から気管支、肺に向かって魔力を流し、細胞レベルで意識を集中させた。

 すると意外なことに、点在する魔物の反応が出たではないか。


 魔物? 体の中に小さな魔物? 結核とかではなく、病因は魔物?


 病原菌が原因で病気になれば、人間の体の中には病原菌に対する抗体ができる。

 その抗体が病原菌に対抗できなければ、病状は回復しない。


 私は回復魔法を使い、エマちゃんの体の中で魔物と戦っている抗体を分析し、足りない部分を確認。

 それを参考にエマちゃんの体の中に、魔物に対抗するための有効な抗体を魔力でつくると、魔物を攻撃させて一気に殲滅させた。


 そして魔力でつくった抗体は、魔物殲滅後、霧散して消滅した。

 

 その後、喉から気管支、肺にある炎症を回復魔法で癒やし、治療を終了する。



 ぐぅぅぅぅ~


「兄ちゃん、お腹空いた!」



 回復魔法は患者自身の免疫や細胞を使って行使するために、治療後にお腹が空く場合もあるだろう。

 エマちゃんは布団から跳ね起きると、唐突に空腹を訴えた。



「体の調子はいかがですか? もう辛いところや、痛いところはないですか?」



 念のために本人にも、治療後の様子を確認してみる。



「あのね! 体の奥から元気がもりもり出てきてね! お腹が空くの!」



 体の奥から元気がもりもり出て?

 少し元気になりすぎたかもしれないが、一先ず経過を見るべきか。



「本当に大丈夫なのか? 咳はもう出ないか?」



 本当に治ったのか心配になり、ギルくんがエマちゃんに尋ねる。



「うん! なんともないよ!」



 エマちゃんは元気いっぱいに答える。



「ギルくん。おそらくこれで大丈夫だとは思いますが、また経過を見に来ますので・・・」



 これで病気の心配はないと思うが、もしものことがある。



「ありがとう。お前本当にすごいんだな」



「それからこの治療のことは内密に。妹さんは病気になどならなかった。治療などしておらず、初めから元気だったのです」



 この治療が秘密であることに念を押しておく。



「わ、わかったよ。誰にも言わねえ」


「お腹が空いたエマちゃんのために、何か栄養のあるものを作りましょうか?」



 せっかく元気になったのに、それが原因の空腹で不健康になっては本末転倒だ。



「いや、そこまでされても返すことが・・・」


「良いですよ。困った時はお互い様です」



 私は掘っ立て小屋から外に出ると、ビッグオストリッチの肉の塊を収納魔法で出し、土魔法の棒で串刺しにして、青い炎でボウ!ボウ!と焼いた。

 


「おい! 急に何始める気だ!?」



 ギルくんは慌てた様子で掘っ立て小屋から飛び出てきた。



「見てわかりませんか? エマちゃんのためにお肉を焼いているんです」


「よせよ! 周囲の住民が怯えるだろ!」



 周りを見ると、ギョッとした目でこちらを見ている住人たちが居た。魔法使いの襲撃かと思われたかもしれない。



「すいませ~ん! 火が少し強すぎたみたいです。ただのお料理ですので気になさらずに」



 私は周囲の住民に笑顔で謝罪する。



「よ、用が済んだらすぐに出てってくれ!」



 住民は窓を閉めて、次々と家の中に引きこもってしまった。

 

 どうやら嫌われたみたいだ。


 ビッグオストリッチの肉が程よく焼けたら、水魔法で肉の水分を操作して温度を上げる。

 即興の料理なのでほとんど勘頼りだ。


 切って中まで火が通っているか確認する。

 若干火が通りすぎたのか、中まで茶色くなってしまったが許容範囲だ。

 これでビッグオストリッチのローストができた。


 ローストしたビッグオストリッチの肉は、あらかじめ薄切りしておく。


 天使のパンを薄切りにして、野菜、ローストしたビッグオストリッチの薄切り、マヨネーズを挟んでサンドイッチの完成だ。



「おい。それ例の白いソース入っていないか?」


「白いソースって何だ?」



 アルフォンスくんが、ギルくんの耳にひそひそと何か告げている。



「大金貨一枚だって!!」


「マヨネーズですか? 入っていますよ」



 私がエマちゃんにサンドイッチを手渡すと、エマちゃんはサンドイッチに豪快にかぶりついた。



「美味しぃぃぃ!!」


「あぁぁぁぁぁ!!」



 ギルくんの悲痛な叫びが木霊する。

 

 ギルくんに大金貨一枚のソースは、刺激が強すぎたようだ。

 エマちゃんは一つ目をぺろりと平らげると、2つ目も豪快にもりもりと食べた。




【★クマさん重大事件です!】↓


 お読みいただきありがとうございます!

 ほんの少しでも・・・・


 「面白い!!」

 「続きが読みたい!」

 「クマさん!」


 と思っていただけたなら・・・


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