37:闘魂紅葉3倍の領域
「リンネ様。ここは儂に任せてはくれまいか?」
そのとき私の前に出て来たのは、なんとショウヘイ爺ちゃんだった。
現在私達は、天族の国であったと思われる、廃墟となった遺跡で、再び強敵であったあの、天人サカモトと遭遇している。
「よせ! ショウヘイ! お前じゃあ相手にならねえ!」
クマさんが声を荒らげてそのショウヘイ爺ちゃんを止めようとする。
確かにショウヘイ爺ちゃんと天人サカモトの間には、技だけではどうにも覆せないような、圧倒的な力の差があるのだ。
しかしショウヘイ爺ちゃんは引く気はないようだ。
「リンネ様・・・今一度あの闘魂紅葉を・・・あの闘魂紅葉を2倍でお願いいたす!!」
そしてショウヘイ爺ちゃんは、闘魂紅葉2倍を要求してきた。
「ほう? トウコンモミジ2倍とはなんぜよ?」
バトルジャンキーな天人サカモトは、その闘魂紅葉2倍という、いかにも闘争心むき出しの名前のスキルに、興味津々であった。
ここは闘魂紅葉2倍をショウヘイ爺ちゃんに使わねば、収まりは付かないだろう。
しかもあの闘魂紅葉2倍を使った状態のショウヘイ爺ちゃんであれば、天人サカモトをある程度までなら、追い込めるかもしれないのだ。
もし倒してくれればそれでいいが、駄目でも私が途中で乱入すれば、勝率はかなり上がるのではないだろうか?
それにこれでショウヘイ爺ちゃんが己の限界を知り、大人しくホウライへ戻ると考えるきっかけになれば、これ以上ショウヘイ爺ちゃんが、無茶をするようなことは、避けられるかもしれない・・・。
「闘魂・・・」
私はそう思いながらも、ショウヘイ爺ちゃんの背後に立ち、魔力を込めた右手を振り上げる。
「よせ嬢ちゃん!!」
クマさんは制止を呼び掛けるが、私はそのままその右手を振り下ろした。
バッシ~~~ン!
「あばばおぼぼあばばばば~~~~!!」
そして電撃に打たれたように、ひたすら痙攣した後に、ショウヘイ爺ちゃんの筋肉は膨れ上がり、身長2メートルを超える巨漢となったのだ。
「お~! すげえすげえ~! これは少しは楽しめそうだな!?」
「貴方とは一度剣を交えてみたかったのです!」
そして二人は凶暴な笑顔でにらみ合う。
天人サカモトが二刀流で武器を構える。
オレイカルコスの刀は、もう一本が、以前私の光線で消滅したために、天人サカモトのもう片方の手には、鉞が握られていた。
おそらく薪を割るためのものだろうが。
同じくショウヘイ爺ちゃんも正眼に構えると、二人は残像を残して消える・・・。
ジャキ~ン!!
次の瞬間に、鉄のぶつかり合う音が、辺り一面に響き、二人はつばぜり合いながら姿を現した。
「ほう? 気の力が随分と増幅されているな? 剛力は互角か・・・」
天人サカモトが、そのショウヘイ爺ちゃんの力を分析する。
どうやら二人は、剣豪の技の一つである、剛力でその膂力を確かめ合っているようだ。
バキ~ン!!
そしてお互いが武器を弾き合い、再び間合いをあける。
「たっ!」「ふん!!」
ガキン!!
次に瞬時に接近し、お互いに二度ほど斬り結ぶ。
パキュー!!
するとお互いの肩がぱっくり割れて、血が噴き出す。
天人サカモトのオレイカルコスの刀による切り傷は、神気が邪魔して回復しないと聞いている。
ショウヘイ爺ちゃんのその肩の傷が少し心配だ。
「がはははは!! 面白きかな!? 次に神気の力を使うぜよ!!」
なんと天人サカモトは、まだ神気すら使っていなかったようだ。
私でも引き出せなかった、天人サカモトの神気を使った攻撃を引き出せたショウヘイ爺ちゃんは、やはりすごい人だと、改めて思った。
「くは!!」
見えない刃・・・瞬間にショウヘイ爺ちゃんの肩に、さらに切り傷が増える。
ガキン!!
だが二度目はなんとか防いだようだ。
「ほう!? もう見切ったのか? この神気をまとった風の刃を・・・」
なんと先ほどの攻撃は、神気をまとった風の刃だという。
魔力感知によるとその正体は、見えないほどの高速で放たれた、強靭な風の刃だった。
「ほれほれ!! もっといくぞ!!」
ガガガキン!! ガガキン!!
たとえ見切ったとはいえ、二人の距離は3メートルは離れている。これでは防戦一方だ。
「くっ・・・」
次第にショウヘイ爺ちゃんは、消耗して地面に膝をつく。
ここまでか・・・
「リンネ様!!!」
天人サカモトの攻撃が途切れたその瞬間、ショウヘイ爺ちゃんが私の名をよぶ。
「闘魂紅葉を・・・闘魂紅葉を3倍でお願いいたす!!!」
何だって? 気がふれたのかショウヘイ爺ちゃんは?
闘魂紅葉2倍でも、クマさんが呆れるほどに限界を超えているというのに、まだ上を目指すというのかショウヘイ爺ちゃんは?
「がはははは!! 面白い!! まだ上があるかよ!! そのトウコンモミジとやらには!?」
天人サカモトは、それを聞いて楽し気に笑い出す。
「諦めろ。次はオイラがいく。嬢ちゃんオイラにも闘魂紅葉を!!」
そしてショウヘイ爺ちゃんの前に、出て行くクマさん。
何だって? クマさんに闘魂紅葉だと!?
「聖獣様!! 儂はここで限界を越えねば・・・死んだと同じですぞ!! どうか・・・! どうかこの儂にお慈悲を!?」
膝を付きながら、消耗した状態で、鬼気迫る様子で叫ぶショウヘイ爺ちゃん。
「よせ! ショウヘイ・・・あれを今一度使えば、お前は爆ぜて死ぬぞ?」
クマさんの言うことは確かだ。
ショウヘイ爺ちゃんの器は、すでに膨れ上がり、破裂寸前の状態なのだ。
そんな状態で闘魂紅葉を3倍で使えば、結果は明らかだ。
だがここであえて私は言う!
「いいでしょう。闘魂紅葉・・・3倍を使います!」
「ば、馬鹿な! 嬢ちゃん何を言って・・・!?」
その私の台詞に、クマさんが困惑する。
だが私には確信があったのだ。
ショウヘイ爺ちゃんへの度重なる闘魂紅葉で、私はショウヘイ爺ちゃんの器の形が把握できていた。
そしてその器の修復も、出来る自信があったのだ。
ショウヘイ爺ちゃんの器を、修復しながらさらに膨らませる。
ゆっくり闘魂紅葉の魔力を流しつつ、器の修復も同時に行うのだ。
でもこれは多分成功しない。
世の中はそんなに甘くはない。
私が出来るのは、ショウヘイ爺ちゃんを生かし、諦めさせることだけだ。
魔力はかなり使うが、その後は私の闘魂紅葉に、勝利への活路を見出しているであろうクマさんに、全てを託せばいいのだ。
「では・・・覚悟はいいですか? ショウヘイ爺ちゃん?」
「あ、ああ・・・やってくれ・・・」
「嬢ちゃんよせ!!」
そして私は、ショウヘイ爺ちゃんの背後にまわり、再び右手を振り上げる。
「大丈夫ですクマさん。私にはショウヘイ爺ちゃんの器の修復が出来ます。信じてください」
私がそう言うと、クマさんは少し考えて、口を開いた。
「ショウヘイを殺さない自信が・・・あるんだな?」
私はゆっくりと、クマさんに向かって頷いた。
「はあ~・・・今まで数々の不可能を可能にして来た嬢ちゃんだ。信じるぜ・・・だが・・・まあいい。これもショウヘイの選んだ道だ・・・」
ため息をつき、何か言いかけたクマさんは、まるでその結果が見えているかのように、諦めたように首を横に振った。
そして振り上げた手を、徐にショウヘイ爺ちゃんの背中に当てて集中する。
「え?」
誰が発した声か知らないが、気持ちはわかる。
闘魂紅葉の背中を叩く仕草は、じつはあまり意味はない。ただ勢いでやっているだけだ。
私はショウヘイ爺ちゃんの器に、徐々に魔力を流し込むことで、ショウヘイ爺ちゃんの器の変化に集中する。
ピキ!
ヒビが入ったら即座に私の魔力で修復をはかる。
ピキピキ!
そしてまた直す!
その繰り返しがどれくらい続いただろうか?
「ぐががががががごご~~~~~!!!」
ショウヘイ爺ちゃんの体は徐々に光を放ち、ついには眩いまでに辺りを照らしはじめたのだ。
そしてショウヘイ爺ちゃんはさらに身長が伸びて3メートルを超え、4メートルになり、筋肉もまるで竜種のように膨れ上がる。
「な・・・何だ!?」
「すごく大きくふくらんでるよ!!」
その様子に今まで大人しく見守っていたリオノーラさんとアリスちゃんも、驚愕の声を上げる。
「がははは!! すげ~ぜよ!! 待った甲斐があったぜよ!!」
ありがとう・・・待っていてくれて・・・そしてごめんなさい。
この闘魂紅葉は失敗に終わります・・・。
「およ?」
そして次の瞬間、ショウヘイ爺ちゃんは風船の空気が抜けたようにしぼみだし、縮んでいくのだった・・・。
・・・元の大きさに戻り・・・さらに縮む・・・
「おい・・・嬢ちゃんこれ・・・?」
「縮み・・・すぎですね・・・」
そしてひとしきり縮んだショウヘイ爺ちゃんは、私と同じくらいかそれ以下の身長となり、つやつやの幼児となり果てていたのだった。
【★クマさん重大事件です!】↓
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「面白い!!」
「続きが読みたい!」
「クマさん!」
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