25:幼女、領主の屋敷で料理をする
今回はグルメ回です。
「改めて挨拶しよう。まずはよく来てくれたね。リンネ嬢。」
現在私は、領主様のお屋敷の客間で、領主様と会談をしている。
上座に領主様。その左にエリザベート嬢。エリザベート嬢の向かいに私、私の右にクマさんが座っている。
クマさんは私の従魔という立場を崩さず、私より上座に座ることを頑なに認めなかったのだ。
「お招きいただき光栄です。領主様」
挨拶が済むと話が始まった。
「クマジロウから色々と聞いているよ。
旅先では色々奇抜な料理で、クマジロウを楽しませたそうだな? 娘のエリザベートからは、ふわふわパンの話も聞いた。何でも、この領の特産のアップルを使って作ったのだとか?」
領主様は私を見ながらにこやかに話を進める。
「その話の少女が、まさかこんなに幼い少女だとは、今でも信じられないがね」
確かにこんな年端もいかぬ6歳の少女が、野営で奇抜な味の料理を作ったり、見たこともないようなふわふわのパンの作り方を、考え付いたなんて誰も信じないだろう。
「そしてこのふわふわパンについてだが・・・」
「お父様、天使のパンですわ」
「おお、そうだ天使のパンだ。
このパンを作った目的について尋ねてもよろしいかな? 何でも既に、製法を商業ギルドに公開しているとか?」
「一つは・・・・私が食べたいから作りました」
「ハハハ! 正直で良いな!!
でもう一つの理由は? それだけではないのだろ? 何でも孤児たちを巻き込んで作っているそうじゃないか?」
「孤児たちの食事を見て、この領地が貧しいことを知りました。そういう理由で、この領地に富をもたらす特産物を作り、この領地が少しでも貧しさから抜け出せれば良いと考えました」
以前孤児たちが、夕食に硬い黒パン一個と水だけを与えられているのを見て、憤りを覚え、孤児院長と話すことで、この領地が貧しいことを知った。
この天使のパンを領地の特産物にできれば、少しでも領地の助けになると考えたのだ。
「ふむ。君がクマジロウの言っていた通りの少女で良かったよ。もう一点。我々は君に対して危惧していることがある」
貴族が私に危惧することと言えば、魔力のことぐらいしか思い浮かばない。
冒険者の活動で、森で魔物を狩っているのを冒険者ギルドの調査員に見られているのだ。
またギルド長も、アウターを拘束した際に、私の土魔法を見ていて、冒険者ギルドではすでに私が土魔法使いであることは、周知されているくらいだ。
「もしかして、冒険者ギルドでの情報がそちらに?」
「当然だよリンネ嬢。我輩は領主だよ。いくら冒険者ギルドが国から独立した組織とはいえ、情報は少なからず入ってくる。とくに君の、あの森での狩りの情報は、耳を疑うような内容ばかりだよ」
なるほど。領主様は私の強い魔力を危惧して、私の人となりを知りたかったということだろう。
クマさんが事前に根回ししてくれていたおかげで、大事にはならなかったが、危険な思考をもつ人物か否かという話になれば、穏便に領主様の屋敷によばれるなんてことはなかったはずだ。
最悪捕えられて、連行されていてもおかしくない状況だ。
つまりクマさんが、貴族に私が危険な人物でないことを周知することで、危険な展開を回避してくれていたのだ。
「私は攻撃性のある魔法をむやみに人に向けることはありません。それは誓います。
ただ料理に対しては妥協なく魔法を使いますよ?」
「ほほう? では君の魔法は料理で見せてくれると?」
「ここでは少し狭いですので、外で披露しましょう。お屋敷の庭に案内していただけますか?」
私たちは執事のピエールさんの案内で、お屋敷の庭のテラスに案内された。
テラスには木製の椅子とテーブルがあり、庭で食事をしながらくつろげるようになっている。
私はテラスの前の広い芝生を借りる。
そして今の私は青いエプロンドレス姿だ。
ドレスが汚れてはいけないと、領主様が用意してくれたものだ。
丁度時間は昼食時である。
この国には昼食の習慣はないようだが、昼に間食ぐらいはするそうだ。
食べるには丁度いい時間でもある。
「あ、ミルクはありますか? 出来るだけ濃厚なやつがあると助かるんですが?」
私が執事のピエールさんに尋ねると、ピエールさんはメイドに命じて台所に取りに行かせる。
「すいませ~ん! あとついでにサラダを5人前作って来てもらえますか?」
私は台所へ向かうメイドに大声で告げると、一度立ち止まり頷いていたので聞こえたのだろう。
そのまま台所へ向かったようだ。
そしてもう一人のメイドに、玉ねぎと人参の下処理したものを頼んでおく。
全員席について、私が何をするのか様子を窺っている。
まずは土魔法で横長の台を作る。
これは完成した料理を置いたり、料理したりする台だ。
「「おぉぉぉ~」」
これだけでも歓声が上がる。
見ると使用人たちも、集まって来ているようだ。
「そして私が用意するのはこのビッグオストリッチの肉の塊です」
「ビッグオストリッチの肉は高級品だぞ」
私は芝生が焦げないように、あらかじめ土魔法で作った、厚いプレートを芝生の上に設置した。
ボボ~ウ!!
そのプレートの上に、青い炎を出現させる。
「すごい!! 青い炎だ。あんな色の炎は初めて見るぞ!」
「ああ、嬢ちゃんの炎は青いからな」
「あの子、2属性も魔法が使えるの? それだけでも貴重よ?」
しまった。見せるのは土魔法のみにすべきだったか。
まあ見せてしまったものは仕方がない。
最後にどうせ水魔法も見せるのだ。2つも3つも変わるまい。
私は肉の塊に串を差し込むと、回転させながら炎で炙っていった。
絶妙な距離で炎と肉の距離を取り、肉を炎で炙る。
あらかじめ表面がきつね色になった肉を、今度は土魔法で作ったボールの中に閉じ込める。
こうやって粗熱を閉じ込めて、じっくり火を通し、ロースト肉に仕上げるのだ。
その合間を利用して、今度は下処理した玉ねぎと、人参を用意する。
これは作業に入る前に、あらかじめメイドに頼んでおいたものだ。
土魔法で大きなミキサーを用意すると、その中に玉ねぎと人参を放り込む。
ビィィィィィ~!!
操土でミキサーを回転させて、玉ねぎと人参を細かく切り刻む。
「次にビッグオストリッチの肉と、ビッグボアの肉を用意します」
私は収納空間からビッグオストリッチの肉と、ビッグボアの肉を取り出した。
「さっきからあの肉はどこから取り出しているのだ?」
「収納魔法だろ」
「うそ!! 3属性目?」
実は水魔法で4属性目だが、それは無粋なので言わない。
そして取り出した肉も、ミキサーに入れる。
「「あぁぁぁぁぁ~・・・」」
すると皆が、残念そうな声を上げる。
「おいおい! ビッグオストリッチの肉も、ビッグボアの肉も貴重だぞ。それを野菜と混ぜてあんなにぐちゃぐちゃに・・・・」
「まあ、高級な肉はあんな風にミンチにはしないな。するとしたら骨に付着した少量の肉をこそぎ取って合わせて焼いたりはするがな」
失念していた。この世界ではお肉をわざわざミンチになどしないらしい。
まあいい。これは間違いなく美味しくなるのだ。
次にミキサーから上手い具合合わさった、野菜とミンチを取り出し、丸くして5等分にする。
「悪いがリンネ嬢! 10等分にしてくれ~!」
領主様が大声でそう伝えてくる。
またもや失念していた。
ここには使用人もいるのだ。
その数も合わせれば、10人分になるのか。
それに気を使ってか、見るとサラダも10人前用意されていた。
10等分にした肉団子を、水操作で浮かび上がらせて、浮遊を解いて台の上に落とす。また浮かして落とす。
これは肉団子の空気を抜くためだ。
「あの子どうやって肉団子を浮遊させているのかしら?」
「水操作で、肉団子の水分を支配させて浮かべているんだろう」
「ほう。4属性目が出たな。もしかして彼女は賢者か?」
次にボールに入れた、小麦と卵を混ぜて、バッター液を作る。
そのバッター液の中に、肉団子をつけていく。
次に肉団子を、器の中のパン粉につけて、衣をつけていくのだ。
それを容器に入れたオリーブ油で揚げていく。
ジュ~~~
「卵に油まで惜しげもなく使ったな? あれだけ贅を凝らした料理は王族でも口にできるかどうかわからんぞ」
「お父様、不敬よ」
その間に最初に粗熱といっしょに、土魔法で作ったボールに閉じ込めた、ビッグオストリッチの肉の塊を取り出す。
土魔法で圧縮して作った鋭利なナイフで、肉の塊を薄切りしていく。
薄切りにした肉は、上手くローストされて、中はピンク色になっている。
薄切りされたビッグオストリッチのロースト肉をサラダに添えて、自家製のリンゴドレッシングをかけたら、ビッグオストリッチのロースト肉のサラダの完成だ。
「一品目が出来たようだぞ。魔法に見とれていたから、時間もあっという間だったな」
メイドが各自にサラダを配膳すると、一品目の食事が開始される。
いつの間にかテーブルには切り分けた天使のパンも用意されて、各自手をのばしている。
私も一品目のサラダを食べてみる。
ビッグオストリッチのロースト肉の薄切りに、リンゴドレッシングのかかった薄切り玉ねぎと、レタスと人参のサラダを巻いて口に運ぶ。
咀嚼すると、赤身の肉の旨味が口に広がる。
ビッグオストリッチの肉は、牛肉の赤身に近い味がするのだ。
それにレタスのシャキシャキした感触が心地いい。
リンゴドレッシングの酸っぱみと、玉ねぎと人参の風味が合わさり、さらに肉の味を引き立てる。
「美味い!」
誰が言ったか知らないが、そんな台詞が聞こえた。
「これはワインが進むな」
領主様がワインを口に運ぶ。
エリザベート嬢はうっとりした様子で、無言で咀嚼している。
クマさんは所作が美しいことから、美味しいと感じているのだろう。
「せっかくの魔法の料理だ。お前たちも遠慮せずいただくといい」
領主様が使用人にも食事を勧める。
すると使用人たちは立食したまま、パンとサラダをそれぞれ口に運んでいく。
使用人たちも無言だが、幸せそうに食べている。
次に揚げたてのメンチカツが配膳されていく。
そう、あの野菜を混ぜた肉団子はメンチカツだったのだ。
メンチカツには自作のウスターソースがかけられている。
私はさっそく揚げたてのメンチカツを口に運ぶ。
サク!!
「あち! はふはふ!」
口の中でまだ熱いそれを、はふはふしながら冷ましていく。
熱いが咀嚼するたびに肉汁があふれ出て、たまらなく美味しい。
次に玉ねぎの甘みが、口の中に広がる。
それに合わさるウスターソースが、さらに味の調和を生み出す。
「これは美味いなぁ!! 合わせた肉を揚げるとこんなに美味しくなるのか!」
「これはまた絶品ね。それにこの黒いソースも気になるわね」
使用人の中には、それはもう熱さなど気にせず、ガツガツと美味しそうにかぶりついている者もいる。
口の中を火傷しないといいけど。
「では最後のメニュー。デザートに移ります」
「待っていたぜ嬢ちゃん。蜂蜜はたっぷり使ってくれよ」
「言わないでくださいよ。クマさん」
最後に使うのは濃厚な牛乳だ。
私は水魔法で牛乳を空中に浮かべると、同じく空中に浮かべた蜂蜜と合わせて、竜巻のように混ぜ合わせた。
こうして混ぜることで牛乳に空気を入れていくのだ。
そして徐々に牛乳の温度を下げていく。
さながら雪の竜巻のように、牛乳は宙を舞う。
「「ほ~・・・」」
その美しい様子に、皆見とれている。
徐々に温度が下がって、牛乳が固まってくると、それを丸くして10等分に分ける。
その丸い雪玉のような物体を、シナチュールカクテルグラスのような逆三角形の器にのせていく。
そこに蜂蜜をかけたら、蜂蜜のアイスクリームの完成だ。
そしてデザートが各自に配膳される。
「とても甘いわね。それに冷たい。この口の中でとろける感じがたまらないわ」
おっと今回は先にエリザベート嬢に感想を言われてしまった。
私もさっそくアイスクリームを口に運ぶ。
アイスクリームというよりはソフトクリームに近い食感だ。
丸いソフトクリームは、前世を含めても初めてかもしれない。
そして濃厚でとても甘い。
「甘っ!!」
誰だ!? 領主様だった。
「我輩には少し甘すぎるかもしれぬな。しかし濃厚で美味いのは確かだが・・・・」
「これくらいが丁度いいのよ、お父様」
「オイラもっと甘くてもいいぞ」
相変わらずクマさんは甘党だ。
激甘なチョコレートでもあれば、もっと食らいつくことだろう。
そしてつつがなく、魔法による料理の食事会は終了した。
【★クマさん重大事件です!】↓
お読みいただきありがとうございます!
ほんの少しでも・・・・
「面白い!!」
「続きが読みたい!」
「クマさん!」
と思っていただけたなら・・・
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