表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

298/721

09:ホウライの夕食


 カポン!



 現在私達は温泉に浸かっている。


 このマツザネ藩主のお屋敷には、温泉があるということで、ぜひにと浸からせてもらっているのだ。


 

「ほう? リンネ殿は女性同士でどうしてそんなに照れるのですかな?」



 などとリオノーラさんにはからかわれてしまったが、前世の男だった記憶があるせいか、そのたわわな胸のある裸体を、まともに見られないのであった。


 クマさんとアリスちゃんは、相変わらず仲が良く、二人で背中を流し合っていたよ。





「これはまたずいぶんと豪勢な夕食ですね?」



 そして温泉のあとは夕食をいただいた。


 膳には、焼き魚、白米、豆腐、お味噌汁、お芋の煮つけ、白身魚の刺身が並べられ、この世界の生活水準から考えると、とても豪華な夕食だ。

 和食でここまでご馳走が並ぶのは久しぶりなので、とても期待できる。



「それではどうぞ、ごゆるりとご堪能ください」


「いただきます!!」



 マツザネ藩主に料理を勧められると、私はさっそく食前の挨拶を済ませ、食事に取り掛かる。


 私達はリオノーラさん以外は箸が使えるので、今回は箸を用意してもらった。

 リオノーラさんには、私からミスリル製のフォークとナイフを貸し出して差し上げた。


 まずは白米からいただく。

 本場ホウライのお米なのだ。

 ぜひとも噛みしめねば。


 くちゃくちゃ・・・この粘り、ほのかに香る甘味。


 やはり本場の炊き込みは一味違う。

 私の炊いたお米より、さらに美味しく感じる。

 これをわかるのは、クマさんか、ロイヤルな舌をもつアリスちゃんくらいだろう。


 しかしアリスちゃんを見ると、さっそくお味噌汁をご飯にかけ、かき込みながらその味を堪能しているではないか・・・。


 さすがはロイヤルな舌をもつ王族と言わざるを得ない。

 その手段をいきなりとるとは、思いもよらなかった。



「リンネ殿もアリス殿も、随分と箸を上手に使われますな? 異国の方は、あまり箸を使い慣れないと聞いていたのだが・・・」



 マツザネ藩主が、私達の箸を使う様子を見て、感心したように言った。



「リンネお姉様が、箸を必要とする料理をよく作られますから」



 アリスちゃんが、らしくない丁寧語で、マツザネ藩主に答える。



「リンネ殿はホウライの食にも精通しておられるので?」


「はい! 大好物ですよ!」



 私はそう言うや否や、次は焼き魚に箸を伸ばす。


 どうやらこれは鮭の切り身のようだ。

 前世で鮭は寒い地域で育つと聞いていたので、おそらくこの鮭も、寒い地域からわざわざ取り寄せた、贅沢な一品であると予想される。


 そしてひさびさの鮭を口にふくむ。


 その身は脂でしっとりとしていて、パサつきはない。

 塩をふんだんに使っていると思われ、その鮭は塩辛い。

 その塩辛さのバランスを保つために、白米は欠かせない穀物なのだ。


 白米を追加で口に含むと、鮭と白米が口のなかで合わさり、その塩っ辛さと脂が、白米の甘味を引き立て、同時に焼けた鮭の香ばしい風味が口の中に広がる。


 次に豆腐に箸を伸ばす。


 豆腐そのものは大豆の味しかしないが、醤油やネギが合わさることで、その真価を発揮する食べ物なのだ。

 この醤油にかけられているのは、間違いなくあの濃厚なたまり醤油だ。

 その濃厚なたまり醤油がかかることで、豆腐はその存在感を発揮するのだ。


 そして上に掛けられたネギが、さらに味を複雑にする。

 ひさびさに口に入れた豆腐は、それはもうなんとも言えない美味しさだった。


 その懐かしい味に涙すら流れる。



「リンネ殿は、なぜ泣いておられるのですかな?」


「放っておいてあげてくれ。その嬢ちゃんはいろいろと複雑な事情をかかえているんだ・・・」



 そして次にお刺身だ。


 リオノーラさんは嫌厭(けんえん)してなかなか手を出さないが、このお刺身の味を知らぬとは、何と人生に損をしていることであろう。


 私はいっきに二切れを箸に取ると、小皿に入れられたたまり醤油と山葵をつけて、さっそくその刺身を口に含む。


 これは脂ののった鯛だね。

 この寒い時期には魚に脂がのるのだ。

 その中でも選りすぐりの鯛を使ったと思われる。


 主張のささやかな白身の鯛が、醤油に引き立てられて、その味の深さをここぞとばかりに主張してくる。

 そして山葵(わさび)の良い香りが鼻を抜ける。



「美味い!!」


「き、気に入ってくれて何よりだよ・・・」



 その私に引き気味なイズモ夫妻だが、私はかまわず食事を進める。



「うぅっ!!」



 そんなうめき声をあげたのはリオノーラさんだ。


 見るとリオノーラさんが鼻を抑えて、涙を流しているではないか。

 そして予想通り刺身の隅にあるはずの、山葵(わさび)の小山が消え去っている。


 こやつ山葵(わさび)をそのまま食いよったな?

 テンプレを忘れないその姿に、感動すら覚えるよ。



「白米のお代わりを要求します!!」



 そう要求したのはアリスちゃんだった。


 アリスちゃんはその塩辛い鮭を食べるために、わざわざ白米のお代わりを要求したのだ。

 それを主張するように、箸先が次なる目標である、鮭の上に置かれている。



「はいはい只今!」



 すると使用人の方が飛んできて、さっそく茶碗を受け取り、山盛りのご飯を持ってきたではないか。

 その山盛りに盛られたご飯を見ながら、満足そうに頷くアリスちゃん。


 そんな様子を見ながら、私は次にお芋の煮つけに箸を伸ばす。


 そしてその芋を口に含むと、なんともいえない粘り気が、口の中を支配したではないか・・・。

 これは間違いなくあの里芋だ。


 醤油の塩辛さとお芋の甘さと、その里芋特有の風味が何ともいえない調和を生む。

 その柔らかな触感がまた心地よい。


 そして最後にお味噌汁の汁椀を手に取る。


 このお味噌汁は最初に飲んでもいいが、最後に飲んで、ほっと一息つくのもいい。

 底に黒い小さな貝が複数沈んでいることから、これはシジミのお味噌汁と思われる。



「つつつ~・・・」



 口に含むと、シジミの旨味が口の中でお味噌と相まって優しく味を伝える。

 そして同時に口の中に流れ込んだネギの歯ごたえが、シャキシャキと心地いい音色を奏でる。



「ふ~・・・落ち着く・・・」


「つぎはおかしだね!!」



 いつのまにやら食べ終わっていた、次女のオリンちゃんが、元気な声でそう言った。


 これほどの和食をいただいたのだ。

 これはただのバームクーヘンなどでは、申し訳が立つまい。


 私は食後のバームクーヘンをどうしたものかと、あれこれと思案をめぐらせるのであった。



【★クマさん重大事件です!】↓


 お読みいただきありがとうございます!

 ほんの少しでも・・・・


 「面白い!!」

 「続きが読みたい!」

 「クマさん!」


 と思っていただけたなら・・・


 ブックマークと

 画面下の広告下【☆☆☆☆☆】から評価をお願いします!!

 【★★★★★】評価だと嬉しいです!


 いつも誤字報告を下さる方、ありがとうございます!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ