09:ホウライの夕食
カポン!
現在私達は温泉に浸かっている。
このマツザネ藩主のお屋敷には、温泉があるということで、ぜひにと浸からせてもらっているのだ。
「ほう? リンネ殿は女性同士でどうしてそんなに照れるのですかな?」
などとリオノーラさんにはからかわれてしまったが、前世の男だった記憶があるせいか、そのたわわな胸のある裸体を、まともに見られないのであった。
クマさんとアリスちゃんは、相変わらず仲が良く、二人で背中を流し合っていたよ。
「これはまたずいぶんと豪勢な夕食ですね?」
そして温泉のあとは夕食をいただいた。
膳には、焼き魚、白米、豆腐、お味噌汁、お芋の煮つけ、白身魚の刺身が並べられ、この世界の生活水準から考えると、とても豪華な夕食だ。
和食でここまでご馳走が並ぶのは久しぶりなので、とても期待できる。
「それではどうぞ、ごゆるりとご堪能ください」
「いただきます!!」
マツザネ藩主に料理を勧められると、私はさっそく食前の挨拶を済ませ、食事に取り掛かる。
私達はリオノーラさん以外は箸が使えるので、今回は箸を用意してもらった。
リオノーラさんには、私からミスリル製のフォークとナイフを貸し出して差し上げた。
まずは白米からいただく。
本場ホウライのお米なのだ。
ぜひとも噛みしめねば。
くちゃくちゃ・・・この粘り、ほのかに香る甘味。
やはり本場の炊き込みは一味違う。
私の炊いたお米より、さらに美味しく感じる。
これをわかるのは、クマさんか、ロイヤルな舌をもつアリスちゃんくらいだろう。
しかしアリスちゃんを見ると、さっそくお味噌汁をご飯にかけ、かき込みながらその味を堪能しているではないか・・・。
さすがはロイヤルな舌をもつ王族と言わざるを得ない。
その手段をいきなりとるとは、思いもよらなかった。
「リンネ殿もアリス殿も、随分と箸を上手に使われますな? 異国の方は、あまり箸を使い慣れないと聞いていたのだが・・・」
マツザネ藩主が、私達の箸を使う様子を見て、感心したように言った。
「リンネお姉様が、箸を必要とする料理をよく作られますから」
アリスちゃんが、らしくない丁寧語で、マツザネ藩主に答える。
「リンネ殿はホウライの食にも精通しておられるので?」
「はい! 大好物ですよ!」
私はそう言うや否や、次は焼き魚に箸を伸ばす。
どうやらこれは鮭の切り身のようだ。
前世で鮭は寒い地域で育つと聞いていたので、おそらくこの鮭も、寒い地域からわざわざ取り寄せた、贅沢な一品であると予想される。
そしてひさびさの鮭を口にふくむ。
その身は脂でしっとりとしていて、パサつきはない。
塩をふんだんに使っていると思われ、その鮭は塩辛い。
その塩辛さのバランスを保つために、白米は欠かせない穀物なのだ。
白米を追加で口に含むと、鮭と白米が口のなかで合わさり、その塩っ辛さと脂が、白米の甘味を引き立て、同時に焼けた鮭の香ばしい風味が口の中に広がる。
次に豆腐に箸を伸ばす。
豆腐そのものは大豆の味しかしないが、醤油やネギが合わさることで、その真価を発揮する食べ物なのだ。
この醤油にかけられているのは、間違いなくあの濃厚なたまり醤油だ。
その濃厚なたまり醤油がかかることで、豆腐はその存在感を発揮するのだ。
そして上に掛けられたネギが、さらに味を複雑にする。
ひさびさに口に入れた豆腐は、それはもうなんとも言えない美味しさだった。
その懐かしい味に涙すら流れる。
「リンネ殿は、なぜ泣いておられるのですかな?」
「放っておいてあげてくれ。その嬢ちゃんはいろいろと複雑な事情をかかえているんだ・・・」
そして次にお刺身だ。
リオノーラさんは嫌厭してなかなか手を出さないが、このお刺身の味を知らぬとは、何と人生に損をしていることであろう。
私はいっきに二切れを箸に取ると、小皿に入れられたたまり醤油と山葵をつけて、さっそくその刺身を口に含む。
これは脂ののった鯛だね。
この寒い時期には魚に脂がのるのだ。
その中でも選りすぐりの鯛を使ったと思われる。
主張のささやかな白身の鯛が、醤油に引き立てられて、その味の深さをここぞとばかりに主張してくる。
そして山葵の良い香りが鼻を抜ける。
「美味い!!」
「き、気に入ってくれて何よりだよ・・・」
その私に引き気味なイズモ夫妻だが、私はかまわず食事を進める。
「うぅっ!!」
そんなうめき声をあげたのはリオノーラさんだ。
見るとリオノーラさんが鼻を抑えて、涙を流しているではないか。
そして予想通り刺身の隅にあるはずの、山葵の小山が消え去っている。
こやつ山葵をそのまま食いよったな?
テンプレを忘れないその姿に、感動すら覚えるよ。
「白米のお代わりを要求します!!」
そう要求したのはアリスちゃんだった。
アリスちゃんはその塩辛い鮭を食べるために、わざわざ白米のお代わりを要求したのだ。
それを主張するように、箸先が次なる目標である、鮭の上に置かれている。
「はいはい只今!」
すると使用人の方が飛んできて、さっそく茶碗を受け取り、山盛りのご飯を持ってきたではないか。
その山盛りに盛られたご飯を見ながら、満足そうに頷くアリスちゃん。
そんな様子を見ながら、私は次にお芋の煮つけに箸を伸ばす。
そしてその芋を口に含むと、なんともいえない粘り気が、口の中を支配したではないか・・・。
これは間違いなくあの里芋だ。
醤油の塩辛さとお芋の甘さと、その里芋特有の風味が何ともいえない調和を生む。
その柔らかな触感がまた心地よい。
そして最後にお味噌汁の汁椀を手に取る。
このお味噌汁は最初に飲んでもいいが、最後に飲んで、ほっと一息つくのもいい。
底に黒い小さな貝が複数沈んでいることから、これはシジミのお味噌汁と思われる。
「つつつ~・・・」
口に含むと、シジミの旨味が口の中でお味噌と相まって優しく味を伝える。
そして同時に口の中に流れ込んだネギの歯ごたえが、シャキシャキと心地いい音色を奏でる。
「ふ~・・・落ち着く・・・」
「つぎはおかしだね!!」
いつのまにやら食べ終わっていた、次女のオリンちゃんが、元気な声でそう言った。
これほどの和食をいただいたのだ。
これはただのバームクーヘンなどでは、申し訳が立つまい。
私は食後のバームクーヘンをどうしたものかと、あれこれと思案をめぐらせるのであった。
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