04:ホウライ王国
「クマさんそんなにしょげないでください。直らないものは仕方ないんですから」
現在私達は、転移の魔道具により、ホウライ王国とみられる場所に転移していた。
ちなみにクマさんがしょげている理由は、転移早々に転移の魔道具が壊れ、向こうに戻れなくなったからである。
そして転移の魔道具は、あれこれ調べた結果、クマさんの技量だけではどうにも直らないようなのだ。
着いた場所は何やら土壁の洞窟のような場所だったが、そこの階段から光の漏れ出ている方に上がってみれば、どこかの鳥居のある社に出たのだ。
鳥居の周囲には松の木がはえており、あちこちに刈り取りの終わった田園風景が見えている。
ちょこんとお地蔵様があるのもいいね。
さわさわと吹く風が、私にどこか懐かしさを思い起こさせる。
現在は丁度秋の終わりくらいなので、少し肌寒い感じもする。
「見てくださいあのアリスちゃんを! こんな見たこともない地で、あんなに元気にはしゃぎ回っているんですよ?」
アリスちゃんはなぜかこちらに到着した途端に、テンションマックス状態であった。
「そりゃあ行きたくもねえ学園とやらに行くよりは、ここらを旅して回った方が楽しいからだろ?」
実はアリスちゃんはアレクシア夫人から、王族の義務とやらで、来年から魔術学園に通うように言われていたのだ。
確かにこのまま帰れなければ、学園に行く必要などなくなるかもしれない。
しかし私達には魔道航空機ジャイロさんがある。
少し時間はかかるが、帰ろうと思えば帰れなくもないのだ。
まあ今はそれを黙っておいてあげよう。
「リオノーラさんはどうなんです? しばらくイーテルニル王国には帰れませんよ?」
「僕もまだしばらくは、この異国を見て回りたいかな?」
そのリオノーラさんの清々しい表情から、この人も何か帰りたくない理由でもあるのだなと、推測できるが、そこはあえて聞かないでおく。
深入りすれば面倒くさそうだからだ。
あの年齢の女性の悩みといえば大概結婚関係だろう。
その悩みを色々と思い起こさせて、愚痴られるのも面白くない。
「嬢ちゃんは何でそんなに元気なん?」
「そりゃあこれから団子屋に行くからですよ」
「意味がわからん!」
このホウライ王国は私が前世で見た、江戸時代などの昔の日本そのものなのだ。
ならばそこらの通りにでも、団子屋くらいあってもおかしくはないのだ。
そして社を出て、通りから左右あちこち見回すと、直ぐ近くに団子屋ののぼりらしき旗が、風に吹かれてヒラヒラしているのが見えた。
そこに書かれている文字を見ると、何やら英語のようで不穏な感じを受けたが、きっと気のせいだ。
「ダ・ン・プ・リ・ン・グ」
「アリスちゃんわざわざ読まなくてもいいよ」
その団子屋に近づくと、のぼりには明らかにダンプリングと、セイクリカ聖教国語で書かれていたのだ。
「いらっしゃい。お嬢ちゃん達変わった服装だね? 異国から来たのかい?」
お店から出て来たお姉さんは、頭は時代劇の町娘のように団子にしており、かんざしを挿して、黄色い感じの着物を着てはいる。
しかし髪は茶髪で、顔立ちはどちらかといえば西洋人に近い感じであった。
ちょっとがっかりした私だったが、思い返せばあのショウヘイ爺ちゃんなど、インデアン風の顔立ちだったようにも思えるし、こんなものかと諦める。
「お団子4つください」
「はい?」
お団子では通じないようで、お姉さんは困惑した顔つきとなる。
「ダンプリングを4つください」
「最初からそう言いなよ。ダンプリング4つだね?」
やはり通じぬかとがっかりする私だった。
「嬢ちゃんオイラ達、この国のお金はもっていないぜ?」
「え? お金も同じじゃないんですか?」
某竜のクエストっぽいRPGでは、和の国でも余裕でゴールドが使えたはずなのだ。
というか通貨が世界共通であるといっても過言でなかった。
なのにこの世界のホウライでは通貨が違うというのか?
「この国の通貨は変わっているんだぜ・・・」
クマさんによると、ホウライ王国の通貨は、金貨、銀貨、銅貨が使われ、大金貨がオオバンで、一枚が一リョウ、銀貨が一ブギンで一カン、銅貨が一モンセンで一枚を一モンとよんでいるらしい。
この辺りの通貨の名前に、OOBANやITIBUGINなどのローマ字が使われている辺りが、過去の転移者などの陰謀を感じるのだが、それを言っても誰にも伝わらないので、そっと心の中に秘めておくことにする。
そして私の中ではイメージ的にオオバンもOOBANも大判でいいのだ! なのでイチモンセンとかも一文銭で脳内変換されるよ。
「はい! ダンプリング4つお待ちどおさま! お茶は熱いから冷ましてから飲んでね!」
「くちゃくちゃ・・・クマさん注文が来ちゃいました。どうしましょう?」
「すでに食いながら言うな!」
ホウライの団子には甘味がない。それは砂糖が貴重だから仕方のないことなのかもしれないが・・・。
うん! 醤油の味しかしないや!
「アリスこのダンプリングもういいや」
「え・・・えっと僕もこのダンプリングはちょっと・・・」
甘味を食べなれた二人には、この団子は美味しく感じないもよう。
さらにクマさんの皿を見ると、団子にはいっさい口をつけていない様子だった。
こいつこの国の団子があまり美味しくないのを知っていやがったな?
「仕方ありませんね・・・そのダンプリングを見せてください」
私は団子を手にとると、団子にかけられたそのトロリとした醤油ダレに、水魔法で溶かした砂糖を混ぜ合わせて差し上げた。
「あ! これならいけるかも!」
アリスちゃんは砂糖が入って甘くなった団子を、パクパクと食べ始めた。
「オイラのもたのむ」
「僕のもお願いできるかな?」
そして私が二人の団子も手に取り、砂糖を混ぜようとすると、団子屋のお姉さんが目の前に立っていた。
「ちょっと! うちのダンプリングに何する気さ?」
自分のお店の団子に何かされて、少しご立腹のお姉さん。
「甘くなるおまじないですよ?」
「はあ・・・おまじないはいいけど、まだお金貰っていないんだけど?」
お姉さんは支払いを催促するように、手の平を前に差し出す。
そうだった。私はここの支払いをまだしていないのだった。でもこの国のお金はない。
支払いなど食事の後でもいいと思うのだが、このお店では団子を貰った直後に支払うのかもしれない。
「物々交換でいかがですか? この国の通貨は持っていないので」
「はあ? 物々交換って・・・あんたどこの田舎者だい? まあたまに支払いに大根とか置いていく奴はいるけどさ・・・」
「じゃあお菓子があるからお菓子でいいかな? お菓子でいいよね?」
「それたんにお菓子自慢したいだけだろ嬢ちゃん」
自慢したい? もちろんそれもある!
だが私はこの甘味のないお団子を、まるでおやつのごとく出しているお姉さんに、本物のおやつというやつを見せてあげたかった。
「お菓子あるの!? え? どんなお菓子だい!?」
そしたらお姉さんは過剰に食いついて来た。
やはりこの国の人達も、イーテルニル王国の人達同様、甘味に飢えているようだ。
「ならこれとか・・・これなんかどうですか?」
私は団子屋のテーブルの上に、次々とお菓子の箱を置いて行く。
「えっと・・中開けて見たいんだけど?」
それもそうだ。私の作ったお菓子は、どれもこれも土魔法で作った、イラスト入りの陶器のような入れ物に入っているのだ。
カパ!
「何これ宝石みたい!」
「これは蜂蜜フルーツ飴です。舐めて口の中で溶かすお菓子です」
私が最初に開けたのは、蜂がリンゴを抱えて飛ぶイラストの入った、蜂蜜フルーツ飴の入れ物だった。
これはビッグハニービーといわれる、アレクサンドリア大陸でも温暖な地域の森の中に生息する、巨大なミツバチの蜂蜜を、魔法でリンゴの果汁と合わせて飴に加工したものだ。これがすごく甘いのだ。
「蜂蜜!! 本物!? 蜂蜜なんて藩主様か大商人様の食べ物よ!?」
カパ!
私はお姉さんのリアクションが気になって次の箱を開ける。
「珍しいお菓子だね? ぐるぐる巻いていて、まるで木の年輪みたいだね? でも柔らかそうだ」
私が次に開けた箱は、バームクーヘンの入った箱だ。
このお菓子はぐるぐる巻きながら加熱していくから、けっこう手間がかかる。
「バームクーヘンです。ふんわりとした甘いお菓子なんですよ」
「あ~! アリスそれ食べたことないんだけど!?」
「オイラもだ!!」
するとアリスちゃんとクマさんから物言いがついた。
あれ? バームクーヘンは未公開だったかな?
そういえば贈答用にはいくつか作ったけど、おやつでは出してないかも?
「はいはい。今日のおやつにでも出しますから」
カパ!
そう言いながらも次の箱を開ける。
「次は硬そうな感じだね? 煎餅かい?」
お姉さんが言う煎餅のような食べものとは、クッキーのことだ。
「これはクッキーといいまして、イーテルニル王国でも代表的なお菓子なんですよ」
クッキーは割と貴族の間では出回っているようだった。
甘味のないクッキーだったがね。
「アリスもクッキー好きだよ! お姉ちゃんのクッキーは、サクサクして甘いの!!」
「どれもこれも高価そうなものばかりだねえ。どれにするか悩んじまうよ」
お姉さんは腕を組みながら考え込んでしまった。
「ならこの九つに区切った箱に一つずつ入れましょうか?」
私は以前試作で作った、中身が九区切りの箱を出した。
「そうしてもらえると助かるかな?」
私はお姉さんの返事を聞くと、笑顔で箱にお菓子を詰めていく。
「嬢ちゃん・・・言っとくけどそれ値段釣り合っていないかんな?」
そしてクマさんの物言いが再びついた。
クマさんによると団子は高くても銅貨一枚くらいの価値らしい。
私のお菓子の価値が、だいたい一個平均で大銀貨一枚くらいの価格のようなので、九つあれば大銀貨九枚くらいの価値ではないかという話だ。
入れ物も含めればもっと値段が吊り上がるのかな?
「え~! このお菓子はもう手放せないよ!?」
するとお姉さんは、私のあげたお菓子の箱を抱きかかえて、隠すように言った。
「それじゃあお金がないので、両替所とか、道がわかるなら、地図を書いていただけると助かります。それで料金のつり合いをとるということでどうでしょう?」
クマさんはその私の提案に怪訝な顔をするが、バームクーヘンを渡すと大人しくなった。
「そんなことでいいなら、私が直接案内してあげるよ!」
「え? でもそれじゃあこのお店は?」
「私がいない間閉店だね」
お姉さんはそう言うと、お店にCLOSEの暖簾を出した。
こんなのでこのお店は大丈夫なのだろうか?
【★クマさん重大事件です!】↓
お読みいただきありがとうございます!
ほんの少しでも・・・・
「面白い!!」
「続きが読みたい!」
「クマさん!」
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