閑話:アルフォンスと氷の魔剣
これは私が、アルフォンスくんと以前約束していた、魔剣を完成させて、渡しに行ったときの話だ。
「すまん。お金がまだない」
清々しく頭を下げるアルフォンスくん。これではおそらく魔剣を受け取ってはくれないだろう。
本当は私がホウライ王国に行き、この国からいなくなり、何かあったときのための護身用にとっておいてほしいのだが、受け取る気は微塵も感じられない様子だ。
ここはアルフォンスくんがいつも通っている、冒険者ギルドの闘技場だ。ボビーくんやエイリーン嬢もいて、先ほどまで戦闘訓練に励んでいたようだ。
「でも魔剣を持っていないのは、三人の中で、アルフォンスくんだけですよね?」
実はエイリーン嬢も、ボビーくんも、魔剣に相当する武器を、すでに持っているのだ。
エイリーン嬢にはファイヤーガンをバージョンアップさせて、ゴブリンジェネラルの魔石をつけている。
ボビーくんには、何かあったときのためにと、実は彼の属性である火属性の短剣を持たせてあるのだ。
この短剣にもゴブリンジェネラルの魔石が取り付けられていて、いざというときに、一度だけ対象にむけて、激しい青い業火を放出するのだ。
一度放つと何日も魔力を込め直さないと再びこの炎は放てないんだけどね。
「まあ・・・そうだが・・・それは僕の実力不足で・・・」
これではらちがあかない・・・。
「ではこうしましょう。貴方と私で摸擬戦をして、貴方が私に一撃でも当てることができれば、この魔剣の代金は、あるとき払いの後払いで結構ですよ」
「え!? でもそんな条件で・・・!?」
「このままだと貴方・・・何かあったときに二人の足手まといになっちゃいますよ?」
「うっ・・・」
そう言うとアルフォンスくんは、観念したように頷いた。
「クマさんもそれでいいですよね?」
実はこの魔剣の完成に、手を借りたクマさんの承諾もとっておく。
「いいんじゃね?」
そしてクマさんの軽~い承諾を受けたところで、私とアルフォンスくんの摸擬戦が、開始されるはこびとなった。
「いつでもいいですよ?」
私は闘技場の中央でアルフォンスくんと向かい合い、木剣を正眼に構えてアルフォンスくんにそう告げる。
今までの摸擬戦では、おふざけでビッグオストリッチの真似などしながら、軽い風魔法か、素手でしか相手したことはなかった。
その私が今回初めてアルフォンスくんに、木剣を向けたのだ。
「ごく・・・リンネの・・・ホウライの剣術・・・」
その様子に、極度に緊張を高めるアルフォンスくん。
「つまんね~から一瞬でやられるなよ?」
「日頃の成果をリンネ殿に見せてやれ!」
「おう! やっちまえ坊主!」
「頑張れ~!」
クマさんやファロスリエさんの激励に続き、ここで知り合ったであろう冒険者達の声援がアルフォンスくんに飛ぶ。
いつの間に野次馬が集まったかな?
「隙あり!!」
よそ見する私を隙だらけと見たのか、アルフォンスくんの突きが飛んできた。
しかし魔力感知であらかじめその攻撃が見えていた私は、その突きをのろのろと、よそ見しながら躱す。
続いて右からの薙ぎ払い、上からの袈裟斬り。どれも正直な攻撃でよけるのは簡単だ。いずれも先を読むように、のろのろと余裕な感じによける。
「やっぱり当たらないか! それではこれでどうだ!?」
アルフォンスくんの剣から水の気配を感じた私は、その正直だが適当に振られたと思われる、やや上に軌道が向けられた、右からの薙ぎ払いをのろのろと躱す。
だが水の気配が集中している剣先からは、意識をそらさない。
そして剣が動きを止めるそのとき、直前の危機感知が私に警告する。
アルフォンスくんの口角が少し上がったとき、その赤いラインは鞭のようにしなり、私の頭上から襲い掛かると私に知らせたのだ。
バシャン!
水の鞭。それはあの魔法闘技大会で、ドーラさんが見せた水魔法だったのだ。
「うっそだろ!? これも躱すのか!?」
私はその水の鞭がしなり、私に襲い掛かる瞬間、靴の下につけた小さな土雲を起動して、滑るようにその攻撃を躱したのだ。
おそらくこの水の鞭は軌道が無茶苦茶で、本人にすらその動きを予測できないのだろう。
練習をかさね、このタイミングでだいたい私の位置に行くことは、わかっていたのだろうがね。
「くっそ! 今日は調子よくリンネの位置に飛んだのに!! それにリンネはこっちの動きを予測して避けていると、クマジロウが言っていたから、こういう無茶苦茶に飛ぶやつは躱せないと思ったんだけどな?」
「いい着眼点ですが、私も成長するんですよ?」
私はふふ~んという感じに、片目を閉じて言った。
ショウヘイ爺ちゃんとのチャンバラごっごが、ここで役に立つとは思わなかったよ。
「それでまだ成長するのかよ!?」
そんな私にアルフォンスくんは、悔しそうに歯をむき出しにしながら言った。
「それでは次は私が攻撃しますね?」
「げっ! 反撃もするのかよ!?」
「当たり前です。攻防あっての剣術ですからね? でもまあ・・・これを躱すか少しでも防御できれば・・・貴方を認めてあげましょう」
私は木剣を腰に収めると、腰を落として居合の構えをとった。
「げっ! 居合!? それにその魔力の高まり・・・躱せなかったら大怪我しそうなんだけど?」
私の魔力の動きを魔力視で見抜いたんだね。アルフォンスくんも成長したものだ。
三年前の初めて会ったときには、何も考えてなさそうな、お馬鹿そうな子だったのに。
「怪我したら回復魔法で直して差し上げますよ。すご~く痛いですけどね?」
本当に当てるつもりはないが、追い込まなければ彼の今の本気は測れないからね。
「ふ~・・・いいぜ! 来い!」
そして緊張の眼差しで私を見つめるアルフォンスくん。
しばらく沈黙が流れ、目を閉じ、アルフォンスくんの呼吸が整ったと思うや否や、抜き放つ。
アルフォンスくんは、こちらの攻撃が横なぎと見ると、後ろに下がって躱そうとするが、その動きは間に合わず、私の抜き放つ一撃が、アルフォンスくんの右頬を捉える。
パァ~ン!!
私はアルフォンスくんに木剣が触れる瞬間に寸止めするが、その威力は過剰で、空気が振動して破裂音が響く。
「ハハハ。リンネには全く敵わないや・・・」
それでもアルフォンスくんは目を閉じることなく、その攻撃を見届けていたのだ。
「だ、大丈夫ですか? 今のは鼓膜が破れるような衝撃でしたよ?」
「当たればやばかったかもな? でも水の膜で護っていたから、鼓膜の方は何ともなかったみたいだぜ?」
私は本当にアルフォンスくんに怪我がないか、魔力感知で確かめるが、本当に怪我一つないようだ。
それどころか衝撃を抑えるためと思われる水の膜が、アルフォンスくんの右肩のあたりから頭の右側までを、覆っているのには驚いた。
魔力感知に悟らせない、条件反射的な防御だったのだろう。
「クマさん・・・これ・・・」
「ああ。防御されちまったな? 嬢ちゃんの一撃が・・・」
「え? でもあれじゃ今の攻撃は防ぎきれないだろ?」
「嬢ちゃんは言ったろ? 少しでも防御できたらお前を認めるって」
私は収納魔法から魔剣を出すと、鞘をアルフォンスくんに向けて差し出した。
「氷の魔剣ヴリズンブランドですよ? 異界の言葉で氷結の刃を意味する剣です」
まあ、色々な国の言葉が混ざっちゃっているけど、男の子はこういう名前好きだよね?
「大事にしてくださいね?」
「あ、ああ。ありがとう・・・」
アルフォンスくんは感無量という感じに、涙ぐみ、震えながらその剣を手に取った。
「あとその剣の力をよく見て、その剣がなくてもその力が引き出せるくらいに鍛錬してくださいね」
魔剣ヴリズンブランドは、魔力を解放すると、触れた対象を凍結させる剣なのだ。
その魔法を参考にすれば、いつか必ずアルフォンスくんの水魔法も、氷魔法に開花するかもしれないしね。
「どうしたんだ? 嬢ちゃんにしてはまともな名前だな?」
「え? 初めに考えたシロクマさんソードの方が良かったですか?」
私はクマさんのからかうようなその言葉に、おどけるように言葉を返した。
「シロクマさんソードはやめろよ!」
その私の言葉にアルフォンスくんの抗議の声が上がる。
クマさんみたいで可愛い名前だと思うのだが、解せぬ。
「よくやった! アルフォンス!」
「アル様最高だぜ!!」
「やったじゃないアル!」
そして次の瞬間駆け寄る皆にもみくちゃにされるアルフォンスくん。
それを見ながら、こんな幸せがいつまでも続けばいいなと願う・・・。
だがあの天族は、近い将来この国でも、きっと動き出すに違いないと、私は思うのだ。
そのためにも彼らにはそのとき・・・今以上に強くあってほしい。
「次はアリスが相手だよ!!」
そして次に今まで大人しくしていたアリスちゃんが、やる気満々でアルフォンスくんの前に立ちふさがるのだった。
まあアルフォンスくんもいい線はいっていたんだけどね。急成長するアリスちゃんには、敵わなかったよ。
【★クマさん重大事件です!】↓
お読みいただきありがとうございます!
ほんの少しでも・・・・
「面白い!!」
「続きが読みたい!」
「クマさん!」
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