45:ホウライ王国への旅立ち
「貴方達今度はホウライ王国に行くんですってね?」
それは王族の晩餐でカレーとチョコを振る舞った、数日後のことだった。
アレクシア夫人は宮仕え中であると思われる、のんびりとした昼下がりに、料理研究所の休憩室でくつろいでいた私達を、唐突に訪ねて来たのだ。
「それをどこで?」
私はその話をまだアレクシア夫人にはしていないはずなのだ。話の出どころはどこなのか、気になって尋ねてみる。
その話が気になったのか、畳の上でごろごろしながら読書に興じていたクマさんとアリスちゃんも、こちらに注目する。
「陛下からよ。貴女とアリスちゃんがホウライ王国へ行くと聞いて、貴方達の将来を心配して、私に相談されたの」
確かに陛下には、クマさんがホウライ王国に大事な用件で行く旨は、伝えたと聞いている。だがそれがどうして私達の心配につながるのだろうか?
「リンネちゃんは確か、もうすぐ10歳だったわね? 才能ある貴女なら、もう魔術学園に通える年齢よ? なのにホウライ王国なんて遠い場所に行けば、いつ帰って来られるかわからないでしょ?」
なるほど。つまり私が旅ばかりして、将来のことを考えていない感じなので心配だと?
私はこれでも準爵とはいえ爵位持ちだ。ドラゴン退治や帝国との戦争、大陸横断の功績もある。今更魔術学園など、行く意味はないと思うのだが?
私はそのことを、アレクシア夫人に説明してみた。
「はあ・・そうね。貴女はかなり特殊な子供だったわね。では貴女のことはとりあえず保留で・・・」
え? まだ保留なの?
そしてアレクシア夫人が次に見たのは、アリスちゃんだった。
「でもアリスちゃんは、魔術学園に行かなきゃだめよ?」
「えぇ~! どうして? アリスずっとリンネお姉ちゃんと冒険していたいよ!」
アリスちゃんはそんなアレクシア夫人に、抗議の声を上げる。
「貴女は曲がりなりにも王族なのよ? 魔力ある王族は、魔術学園に通うのが通例なの」
それを聞いたアリスちゃんは、がっくりと項垂れる。
そして再びアレクシア夫人は、私に向き直る。
「リンネちゃんには来年から、アリスフィア姫として魔術学園に通うアリスちゃんの、護衛を頼みたいと陛下がおっしゃっていたわ。それには貴女も魔術学園に入学する必要があるけどね?」
確かに私はともかく、アリスちゃんの将来は心配かもしれない。このまま冒険者になるのもいいかもしれないが、王族という立場上、色々と心配なこともある。例えば王位継承問題とか、王族の血筋の問題とか・・・。
これはホウライ王国から帰ったら、再び学校に通うはめになりそうだ。
だがこの誤解だけは解いておかないと、アレクシア夫人や国王の心配をぬぐえない。
「ホウライには聖獣キリンの秘術を使って行くので、一瞬で行き来できますよ?」
キリンさんの転移の魔道具については秘密なので、少しぼかして言ってみる。
ホウライ王国は、非常に遠い海の向こうの島国だ。
不定期にやってくる、ホウライ王国の魔道船に乗って行く方法でしか、今のところたどり着く方法はないのだ。
2~3ヶ月毎に不定期にしかやって来ないその船に乗ってホウライ王国に行くとしても、半月はかかる。
そんな場所に行くのに、いつ帰るかわからないと、心配になるのは予想できる。
「狡いわね~。確かにそんな秘術があれば、行き来も簡単ね?」
それを聞いたアレクシア夫人は、安心したように言った。
それからさらに数日後、私達がついにホウライ王国へと旅立つ日が来た。
待ちに待った、転移の魔道具の調整が終わったのだ。
「ここのことは秘密だかんな。まあ言ったところでたどり着けねえし、誰も信じねえけどな?」
クマさんが、わざわざ学校の遺跡までついてきた見送りの人達に釘をさす。
「ええ。でもどうしてもこの目で見ておきたかったのよ」
アレクシア夫人が少し寂し気な表情で言った。
別れは何度も繰り返したので、寂しくはあるが、涙が出るほどではないようだ。
「おう! リンネ! この魔剣ヴリズンブランド大事にするぜ!」
そんな見送りに来たアルフォンスくんの腰には、私の贈呈した氷の魔剣、ヴリズンブランドが帯剣されていた。
その魔剣ヴリズンブランドは、私とアルフォンスくんが摸擬戦をして、私とクマさんを認めさせた結果贈呈された逸品だ。
クマさん曰く過剰戦力らしいが、彼らを護る手段なら、いくつあってもいいと私は思っている。
ちなみにこの魔剣、当初名前はシロクマさんソードになる予定だった。
ほとんどの見送りは王都の出入口までで、ここまでこられた見送りは、クマさんが認めた人間以外いない。
アレクシア夫人やアルフォンスくん、ボビーくんやエイリーン嬢くらいである。
ちなみに遺跡に入るための秘密の通路の前には、エインワーズ家の騎士他護衛が待っている。
ここは魔物の巣窟である森なので、危険も沢山あるのだ。
そして転移の魔道具でホウライへ向かうメンバーは、私はもちろん、アリスちゃんとクマさん、リオノーラさんである。ノエルさんは帝国に帰ってしまったので、もうここにはいないのだ。
「それじゃあちょっくら行ってくらあ」
クマさんがそう言うや否や、風景が変わり、石のような建物から、土で出来たような構造物に変化した。
「あれ? もう到着したんですか?」
そのあっという間の出来事に、私は困惑しながら尋ねる。
「まあ転移だかんな。あっという間だぜ」
「聖獣様。何やら転移の魔道具の様子が変ですが大丈夫でしょうか?」
リオノーラさんがそう言うと、全員がその大きな筒のような魔道具を見る。
すると何やら台座の部分がひび割れて、電気のようなものがビリビリと出ていた。
「悪い嬢ちゃん。これ転移で向こうにもどれないわ・・・」
しばらくその魔道具の様子を見ると、クマさんはそう言った。
「ふぁ? ふぁああ!?」
「「えぇぇぇぇ!!」」
転移の魔道具でホウライ王国らしき場所に来たのはいいが、どうやらイーテルニル王国には帰れないもよう。
私達の冒険の幕開けは、波乱の幕開けのようだ。
第六章 大陸横断編 完。
【★クマさん重大事件です!】↓
お読みいただきありがとうございます!
ほんの少しでも・・・・
「面白い!!」
「続きが読みたい!」
「クマさん!」
と思っていただけたなら・・・
ブックマークと
画面下の広告下【☆☆☆☆☆】から評価をお願いします!!
【★★★★★】評価だと嬉しいです!
いつも誤字報告を下さる方、ありがとうございます!!




