表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

279/721

38:アリスの戦い


「リンネお姉ちゃんと戦いたければ、このアリス・イーテ・ドラゴンスレイヤーを倒してからにしてもらうよ!!」



 フワリと私の前に降り立ったアリスちゃんは、ビシッと言う感じに長身のドラゴノイドを指さして、そう言い放ったのだった。


 現在私達は、あるドラゴノイドの村でサトウキビを分けてもらおうとしたところ、力比べとなり、門番二人を投げ飛ばしたのだ。


 すると族長と呼ばれる3メートルも身長のある、屈強なドラゴノイドが出てきて、一触即発となる。

 しかしなぜかアリスちゃんがそんな私の前に出てきて、自分が戦うと言い出したのだ。



「嬢ちゃん。大丈夫だろ。ここはアリスに任せとけ?」


「でもアリスちゃん・・・怪我しちゃいませんかね?」



 私はおろおろとアリスちゃんを心配するばかりだが、そんな姉である私をよそに、アリスちゃんは余裕があるのか、まるで戦闘態勢に構える素振りすらない。

 それどころかどこから出したのか、蜂蜜リンゴ飴をぺろぺろと舐め始めたぞ。



「やる気があるのか?」



 そんなアリスちゃんの様子に、不機嫌な様子で睨みつけ、威圧するように語りかけるドラゴノイドの族長。



「やってみればわかるんじゃない?」


「いい度胸だ!!」



 先ほどの私と門番の戦いを見ていたのか、ドラゴノイドの族長は、小さなアリスちゃんに対しても、油断する様子なく突進する。


 しかしアリスちゃんは、フワリとその突進を避け、どこかに消えてしまう。



「ぬ!? どこへ消えた!?」



 族長が周囲を見渡すが、アリスちゃんの姿は見えない。



「ここだよ・・・」


 トン!



 するとアリスちゃんは空中から舞い降りて、その長身の族長の頭に、フワリと着地したではないか。


 まるで牛若丸と弁慶の戦いでも見ているかのようだ。



「この!!」



 族長は自らの頭上に両手を伸ばし、そんなアリスちゃんの足を掴もうとするが、躱され、逆にアリスちゃんに両腕を掴まれてしまう。



「何!?」



 そのまま族長を風魔法でフワリと浮かせると。身体強化らしき怪力で、投げ飛ばした。



 ドカァァァン!! ガラガラ・・・



 そのまま村の防壁に突っ込んだ族長は、派手に防壁を破壊しながら瓦礫の中に埋もれてしまう。



「ひっ! 族長!」「族長!!」



 そんな族長の様子に、周囲のドラゴノイド達は、驚愕し、狼狽しながら自分達の族長をよぶ。



「慌てるな馬鹿どもが!」


 ガラガラ・・・



 そして瓦礫の中から出て来るドラゴノイドの族長。



「力比べのルールは聞いていたよね? 転がされた方が負けだよ?」



 アリスちゃんは再び蜂蜜リンゴ飴を舐めつつ、余裕の表情でそう言った。



「ああ~。負けだ負けだ。シュガーケーンでもなんでもくれてやろう」


「族長!! 普人族を村に入れるんですか!?」


「危険じゃないですかい!?」



 私達の入村を許可する族長に、村人からの戸惑いの声が次々とあがる。


 

「危険も何も、やろうと思えばその娘は腰の剣を抜いて、先ほどの怪力で門番二人を最初に斬り伏せていただろうさ?」



 ドラゴノイドの族長は、アリスちゃんの腰のミスリルのレイピアを指さして言う。



「姉の方は・・・素手でも俺達を殺せるのか?」



 そして丸腰の私を指さしてそう言った。


 物騒な言いがかりはやめていただきたい。私はどこぞの殺人拳法家ではない。



「つまり戦う気も、攻撃の意思もないということだ。ただここに・・・この娘達を止められる者がいないのは事実だ。

 お前らはどうする? この娘達を止めてみるか?」


「あの族長が負けたんだ・・・無理だ・・・」


「あんな化け物どうやって相手するんだ・・・」



 そして村人達も、しぶしぶという感じに村への通り道を開ける。



「シュガーケーンはこっちだ。ついてこい」



 そして族長自ら私達の前に出て案内を始めた。






「ここがシュガーケーンの畑だ」



 族長に案内されてくると、そこには見渡せないほど遠くまでびっしりと、サトウキビが生えていた。

 やはりシュガーケーンとはサトウキビのことだったようだ。


 私はサトウキビを一本折って、その茎をかんでみる。

 前世でテレビなどで見たサトウキビの食べ方は、茎をかんで、その糖蜜を吸い出していたはず。



「げ! まず!」



 そのサトウキビは何とも青臭く、ほのかな甘みはあるものの、とても美味しいとよべるものではなかった。



「ハハハ! 収穫にはまだ早い時期だからな。そんなものだ」



 族長が言うには、どうやらサトウキビには収穫時期があり、今は食べごろではないらしい。


 なんという悲劇! まさか砂糖が手に入らないなんて・・・族長はここまで見越した上で、好きなだけ持っていけとか言ったに違いない。



「そうがっかりするな! そいつの汁を加工して、砂のように固めたものがある。食料か武器と交換であれば、いくらか融通してもいいぞ。我々はそれを『甘い砂』とよんでいるがな」



 え!? もしかして砂糖?? あるの!?


 あからさまにがっかりする私を見て、族長が取引を提案してきた。

 収納魔法には竜の谷で貰った竜種の肉もまだ沢山あるし、カカオの村で貰ったミスリルもたんまりある。また魔槍でも作ればたんまり砂糖を貰えるかもしれない。



「嬢ちゃん。この村はキリンの守護があるから、多分過剰戦力はいらないぞ?」



 遠回しにクマさんに、魔槍なんて過剰戦力は渡すなと、釘を刺されてしまった。

 なら普通のミスリルの槍か、竜種の肉だよね。それとも何かの便利道具がいいかな?



「取引の前に名乗っておこう。俺はワサハカ。この村に住む、ドラド族の族長をしている」


「これはどうも。私はリンネ・イーテ・ドラゴンスレイヤーです」


「同じく妹のアリスだよ!」


「クマジロウだ」


「友のリオノーラ・イーテ・オルブライトだ。よろしく」


「従者のノエルっす」


 

 ドラド族の族長、ワサハカさんが挨拶すると。私から順番に皆も挨拶をしていった。


 どうやらドラゴノイドには、部族が存在しているらしい。

 カカオの村には族長がいないようだったが、もしかしたら、あのシャーマンのドラゴノイドが、族長だったのかもしれない。





 挨拶の後、私はミスリル鉱石をいくつか収納魔法で出し、操鉄でインゴットに加工した。

 試しにまず、ミスリルの武器を作ってみせようと思ったのだ。



「な! 聖魔石が輝きを増した? いったい何をした!?」



 そのミスリルのインゴットを、驚愕の表情で見つめるワサハカさん。


 

「こうやって一度インゴットに変えた方が、聖魔石は加工しやすいんです」



 ちなみに聖魔石とは、ここらではミスリルのことだ。



「キラキラした鉄の武器は見たことがあるが、それでもここいらでは珍しい。しかも聖魔石をあのような形に加工したという話は、おとぎ話くらいでしか聞いたことはない。

 いったいお前は何なのだ?」



 何と言われても答えようがない。


 私はそんなワサハカさんを、構わずスルーして、武器の制作に集中した。

 見ればワサハカさんの武器は、木の棒に、割って鋭くしたミスリル鉱石をくくり付けただけの石槍だ。


 なら作るなら、取り外し可能な、槍の穂先がいいだろう。

 私は10分ほどかけて、ミスリルのインゴットを、槍の穂先に変えた。



「すごい・・・これがあの聖魔石を加工した姿なのか?」



 ワサハカさんは完成したミスリルの槍の穂先を、食い入るように見ている。



「その石槍に取り付けて確認してみます?」



 私はミスリルの槍の穂先をワサハカさんに差し出した。



「い、いいのか? では試しにさっそく・・・」



 ワサハカさんはミスリルの槍の穂先を受け取ると、さっそく石槍の穂先となっている、聖魔石の原石を器用に取り外して、ミスリルの槍の穂先を棒の先にはめ込んで、紐で縛って固定した。



 ブン! ブオン! ブーン!


「随分と軽いな? これで本当に威力は上がっているのか?」



 ワサハカさんはミスリルの槍を振り回すと、あまりの軽さから、その威力に疑問をもち始める。



 ポイ!


「槍に魔力を通して、この石でも斬ってみては如何です?」



 私はワサハカさんの方に石を投げながら言った。



「おい! ちょ・・・!」


 ガキン!!


 

 ワサハカさんがその石を、ミスリルの槍の刃で叩き落とすと、石は綺麗に真っ二つとなった。



「何という切れ味だ・・・石の断面があんなに綺麗に・・・」



 そのミスリルの槍の切れ味に、絶句するワサハカさん。



「その穂先が気に入りましたら、砂糖・・・いえ甘い砂と交換していただけますか?」


「すまないリンネ殿。

 実は甘い砂は、俺個人ではあまり保有していないのだ。この武器に見合う量は出せないだろう」



 なんですと! あんなに畑は広いのに!? 何で砂糖が少ないの!?



「その代わりに、甘い砂の入った小壺一つに・・・聖魔石を山ほどくれてやろう」



「え? 聖魔石ですか?」



 聖魔石なら私も山ほど持っているのだが・・・



「まあ最後まで聞け。実は甘い砂は聖獣様に献上するもの以外は、村人全員に平等に配られるのだ。その聖魔石を使い、ものを作り、甘い砂と交換していけば、かなり集まるのではないか?」



 なるほど。ワサハカさんの言う通りにやれば、確かに砂糖はザクザクと集まってくるな。



「はあ・・・嬢ちゃん。この族長けっこう頭が回るぜ? 嬢ちゃんの能力を上手く村の利益にしやがった」



 クマさんの言う通り、ミスリル製の道具は貴重だ。その道具が村中に広まるのは村の利益になる。ミスリルは錆びないし、長く使いまわしもできるのだ。

 だが私にはこの取引を断る選択肢はない。



「いいでしょう。その取引で手を打ちます」



 私はクマさんのため息をよそに、笑顔でワサハカさんの大きな手と握手を交わすのだった。

 手が小さな私は、ワサハカさんの親指しか握れないがね?


 ちなみにもらった砂糖は、想像していた白い砂糖とは違い茶色だった。

 コクがあって変わった風味がして、どこか懐かしい感じなんだけどね。


 マローン男爵かキリンさんあたりが、白くする方法を知っているかもね?



【★クマさん重大事件です!】↓


 お読みいただきありがとうございます!

 ほんの少しでも・・・・


 「面白い!!」

 「続きが読みたい!」

 「クマさん!」


 と思っていただけたなら・・・


 ブックマークと

 画面下の広告下【☆☆☆☆☆】から評価をお願いします!!

 【★★★★★】評価だと嬉しいです!


 いつも誤字報告を下さる方、ありがとうございます!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ